第63話 第七階層 水面を走るトカゲ

 ウォーター・リーパーの皮は弾力性が高いために、並の剣では歯が立たないみたい。

 カレンお婆ちゃんが日本刀から魔法剣に持ち替えて、火魔法剣で三匹まとめて叩き斬っている。

 ジジ様とヒューゴとライさんも同様に、得意の魔法剣を生み出して、バッサバッサと斬り伏せていた。

 毒攻撃を仕掛けようにも、ジジ様たちの猛攻に右往左往し、ウォーター・リーパーたちは慌てたようすで一斉に上空へ飛び上がってゆく!

 あれでは剣が届かないと、油断しているね!

 あの魔法剣は斬撃を飛ばすんだから!?


 ジジ様の火魔法剣から赤い光線がほとばしり、天高く伸び上がってゆくんだ!

 それを真上から真っ直ぐ振り下ろせば、直線状にいたウォーター・リーパーが一瞬で消滅する!

 火魔法剣が水面に触れると同時に、一帯の水が瞬時に蒸発して、もうもうと蒸気が吹き上がっている!

「ちょっと! 熱いですって!!」

 メエメエさんが抗議していたけど、戦闘中の誰の耳にも届いていないと思う。

 だってほら、ジジ様を真似て、ほかのみんなも魔法剣を振り回しているもん。

 メッチャ楽しんでいるように見えるのは、僕の気のせいじゃないよね?


「あれなら、すぐに討伐が終わるんじゃない?」

 父様に話しかければ若干顔を引きつらせながら、無言でうなずいていた。

 まぁ、ちょっとやり過ぎな感じは否めないけど、簡単に終わるならそれに越したことはないよね。

 だけど一匹だけ気に入らない者もいるようだ。

「ああ! ハク様の数少ない見せ場が奪われました!?」

 メエメエさんが嘆いているけど、僕なんておまけの子で十分だよね?

「何を言っているんですかッ! ハク様はいつ頑張るんです? 今でしょうッ!!」

 ビシッと両手の蹄を突き出すメエメエさん。

 言われた僕は、正直どうでもいいと思った。

 父様は苦笑し、アル様は大笑いしていたよ。

 ニャンコズは若干呆れ顔だったけどね。


 そのうち精霊さんたちも参戦して、僕らの頭上を魔法がバンバン飛んでいく。

 ミディ部隊は水面に落ちる前に、魔石と素材をせっせと回収していた。

 たまに水面に顔を出した新たなウォーター・リーパーと目が合って、ビックリして素材をポチャンと落としてしまっている!

 そんなときはアル様とエルさんが、魔法で仕留めてくれるので、ミディちゃんもホッと安堵の息をついて、また素材回収を頑張っているんだ。


 それを見て考えた僕は、クーさんとモモちゃんを呼ぶ。

 チョイチョイと手招きすれば、フヨ~と飛んで近づいてきた。

「クーさん、モモちゃんと一緒に、この水面を凍らせてくれる? そしたら水の中に魔石は落ちないし、新たなウォーター・リーパーも簡単には顔を出せないでしょう? カエルって寒さが苦手だよね?」

 冷たい氷にはさわれないんじゃないかな?


「わかったー! モモちゃん、いくよーっ!!」

「キュイキュイ!」

 クーさんの掛け声にモモちゃんが呼応すれば、瞬く間に水面が凍りついていく!

 おお! ぐっじょぶ!

 クーさんとモモちゃんのコンビネーションが素晴らしいね!

 僕と父様とメエメエさんは、ヤンヤヤンヤの拍手喝采を送った。


 あ、そうだ!

「みんな~! ミディちゃんたちが落ちた魔石を回収しているから、攻撃が当たらないように注意してね~っ!!」

 戦闘中のジジ様たちに叫んでおいた。

「おう!」

「了解した!」

 短い返事があちこちから帰ってきたよ。

 これで一安心だね!


 こうして僕の出番がないままに、小一時間くらいで討伐と魔石&素材の回収が終了した。

 やっぱりこの階層は緩くない?

「そんなことを言って、第四階層を忘れたのですか? 油断大敵ですよ!」

 なぜかメエメエさんに諭されてしまった。



 そのあとも順調に湿地帯を進んでいく。

 次に現れたのは水面を高速で走る、全長一メーテのバシリスクだったよ。

 綺麗なグリーンとブルーの個体が存在して、メッチャ足が速いんだ!

 特徴的なのは長い尻尾がヒレのようになっていることかな?

 ちょこまかと縦横無尽に走り回るので、なかなか剣が当たらない。

「クーさん、モモちゃん、ゴーゴー!」

「らじゃーっ!」

 ふたりは敬礼して、水面を凍らせてくれた。

 バシリスクは水に沈む前に脚を動かしてるわけだから、一瞬で水面が凍りつくと、水を蹴るほうの片足が封じられて、身動きが取れなくなってしまうんだよね。


 目の前で大量のバシリスクたちが動きを止めた。

 片足を上げた状態のもの、うっかり両足が凍ったもの。

 運よく凍結を免れたものの、スピードに乗って氷上で滑って転げて、周りにぶつかっているもの。

 運悪くそれに巻き込まれて、全身を強打しているもの。

 さらには氷面の端っこまで滑っていって、ドボンと水に落ちているものもいた。

 僕らの目の前でバシリスクが渋滞したままパニック状態になっているよ。

 見ていると、なんだか可哀そうになってくるね――――。


「ところで、このバシリスクはどんな攻撃をするの?」

「おそらく、毒歯で噛みつくんだと思います。こうなってしまえば、我々にはなんの脅威でもありませんが……」

 メエメエさんも憐みの視線をバシリスクに送っていた。

「この魔法のブーツがなければ苦戦したんだろうね?」

「そうですね」

 みんなでうなずき合ってから、サクサクッと討伐を終えたよ。



 見ればバシリスクの生息地には陸地があったので、そこにウサウサテントを出して遅い昼食を取ることにしたんだ。

 あんまり頑張っている感じがしないけど、今日は自力で歩いているわけだから、結構お腹が空いていた。

 車座になって昼食を食べる。

「本日のメニューは、ジェフさんお手製のミートパイですよ! たくさんあるので、どんどん食べてください!」

 メエメエさんが熱々のミートパイを、ホールごと何皿も出していく。

「甘いものがお好きな方は、アップルパイとレモンパイもあります!」

 メエメエさんが隙間なく並べていくそれを、ヒューゴとルイスとカルロさんが、等分に切り分けてみんなに配っていた。


 それとは別に、メエメエさんは大きな寸胴鍋を取り出して、トマトと野菜のコンソメスープを器によそっていく。

「野菜が足りませんから、スープのほかにサラダも食べるようにしてください!」

 ササッと僕の前に配膳すると、横に座って一緒に食べ始めた。

 う~ん、熱々でサクサク、おいしいねぇ!

 お腹いっぱいになるまで食べたよ。


 食後に精霊さんたちのほうを見てみれば、ミディちゃんと一緒に食後のデザートを食べていた。

 その輪にカレンお婆ちゃんも混ざって、笑顔でお世話したり、お裾分けをもらったりしている。

 優しいお婆ちゃんだね。

 僕がニコニコしていると、ヒューゴが静かに首を振り、ルイスと父様が目を閉じて首を振っていた。

「知らないって、幸せなことなんでしょうね」

 メエメエさんが煎茶をすすりながら、しみじみとつぶやくと、ヒューゴたちがうなずいていたよ。

 んん?



 お腹がいっぱいになって休憩を終えたら、早速出発しよう!

 ウサウサテントの回りには、ワラワラとバシリスクがあふれ返っていた。

 テントの結界の外には相変わらず魔石が落ちている。

 ここのバシリスクたちは少し知能が高いのか、仲間が結界にぶつかって消滅するのを見て、危険と判断したみたい。

 だってほら、周りを埋め尽くすほどのバシリスクが、全員こっちを見上げて静止しているんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る