第62話 第七階層 ここにもいたよ!
魔石と素材を回収しながら湿地帯を歩いてゆけば、蛇ゾーンを抜けてから魔物の襲撃が途絶えた。
「もしかすると、この辺がブルーフラミンゴーの生息地なのかもしれないね。この分ならリポップするまで平和そうだ!」
あっはっは~とアル様が陽気に笑っていた。
偽りの太陽が燦燦と輝く中、水分を適度に摂取しながら、一行は軽やかな足取りで進む。
のん気に守られている僕は、ほんの出来心で、歩きながら『軽くなれ』と念じてみた。
急に身体が浮き上がってバランスを崩し、慌てて「戻れ!」と声に出してしまった。
危ない、危ない。
うっかり顔から水に倒れ込んじゃうところだったよ!
そうなったらメエメエさんの二の舞で、みんなに何を言われるかわからない。
ふう……。
「何してるんですか? 真面目に集中してくださいよ~」
メエメエさんが冷たい目で見ていたけど、君には言われたくないよねっ!!
むむむ……。
「重力操作ブーツで空中に浮かぶんじゃないかと思って、ちょっとやってみただけ! 水の上を歩く経験なんてそうそうないでしょう?」
照れ隠しに、ちょっと言い訳をしてみた。
それを聞いた父様とアル様が、おもしろがって早速試せば、ふたりはすぐに操作になれていたよ。
父様は水面から三十センテくらいの空中を普通に歩いて、「凄いぞ!」と感動していた。
アル様は空飛ぶミディちゃんの側まで浮かび上がると、子どものようにはしゃぎながら、空中散歩を楽しんでいる!
ええッ!?
なんでそんなに簡単にできちゃうわけ??
驚嘆する僕を、生温かい目で見つめるメエメエさんが、まったりとつぶやいた。
「こんなところでも、ハク様の運動音痴が証明されるんですね……」
余計なお世話だよ!
それを見ていた面々も真似し始めて、地上にいるのは僕と父様だけになってしまった。
ねぇ、みんな。
ちょっと浮かれ過ぎじゃない?
ここがダンジョンだってことを思い出して!
そのとき、一番高いところにいたアル様が、いきなり前方に向かって魔法を放った!
その軌跡を追うように、カレンお婆ちゃんが空中を走っていく!
軽業師も真っ青なスピードで、あっという間に見えなくなった!?
身体の軽いハイエルフのライさんとエルさんが、カレンお婆ちゃんのあとを追うように、空中を軽やかに走っていけば、ほかの面々は僕の元へと戻ってきた。
重量級のジジ様とヒューゴなんかは、浮かぶことはできても、空中を意のままに走ったりはできないみたい。
人にはそれぞれ得手不得手があるんだよ。
僕も安心した!
「やぁやぁ、遠くに大きな影が見えてね! 咄嗟に魔法を放ったんだが、あとはカレンちゃんに任せておけばいいだろう!」
アル様は陽気に笑っていた。
それよりも、カレンちゃん呼びが僕には衝撃だったよ!
ヒューゴも目を見開いて驚愕に震えていた。
間もなくエルさんが空中を軽やかに走って戻ってくる。
「このブーツいいですね! ちょっとコツがいりますが、地上と同じように全力疾走できます!」
ハイエルフさんは、種族的にコツを掴みやすいんじゃないかな?
「魔道具の扱いに長けているのでしょう。あと魔法関連のセンスがいいんですよ。センスがないハク様には到底真似できることではありませんが……」
メエメエさんがしみじみとつぶやいていた。
それ、聞こえているから!
もっと主人を
ちょっと高い位置から僕を見下ろして、鼻で笑いやがったよ、この駄羊!?
ムッキーーッ!!
メエメエさんを捕まえようと動き出した頭を、笑顔のエルさんにグッと押さえられた。
「お取込み中すまないが、向こうで魔物の集団が出たから、こっちに集中しておくれ?」
小首をかしげるエルさんの目が笑っていなかった。
「はい!」
スチャッと姿勢を正した。
そのようすを見て、父様はため息をつき、アル様は大笑いしている。
「もうちょっと緊張感を持とうね?」
エルさんに諭されちゃった。
「はい……」
申し訳ございませんでした。
ぺこりんこ。
エルさんの笑顔の圧に押されて、メエメエさんも頭を下げていたよ。
そんなわけで、僕らは足早に水面を駆けていくんだけど、途中から父様の肩に担がれて運ばれたんだ。
どうやら僕の足が遅かったらしい。
僕を担いでいても、父様は風のように走っていくんだよ!
ちびっ子のころならともかく、今はそれなりに体重があるのに!!
口を尖らせる僕のフードの中で、シロちゃんがこっそりつぶやいた。
「便利な魔法のブーツも、ハクには使いこなせないニャね?」
うう、面目ございません……。
目から心の汗がこぼれたよ。
父様に担がれて後ろ向きで進んでいる僕の耳に、戦闘音が聞こえてきた。
慌てて振り返っても、装備やフードで良く見えないや。
というか、シロちゃんが肩口に乗り上げて、尻尾で僕の顔を叩くんだ!
当たると痛いんですけど!?
「カエルの魔物だな」と、父様が教えてくれたよ。
えぇ?
少し高いところを飛んでいるメエメエさんが叫ぶ!
「なんということでしょう! あれはウォーター・リーパーの親戚ではないですかッ!?」
えぇ!?
耳を疑ってしまったよ!
「あ~、確かに色は違うが雰囲気は似ているな。赤黒マダラカエルにコウモリの羽が生えているぞ。前に見たものより一回り小さいが、毒々しさはこっちが勝るな」
父様も嫌そうな感じで相槌を打っていた。
僕らの会話に耳をそばだてていたヒューゴとルイスが、首をかしげていたよ。
「? あんな魔物と、どこで出会ったんですか? 大森林にはいませんよね?」
ヒューゴが父様に聞いている。
「そうッスよね? 旦那様はともかく、箱入り坊ちゃんがどこであんな魔物と出会ったんスか?」
ルイスの質問にギクッとしたのは、僕だけじゃないはず!
メエメエさんは知らんぷりを決め込んでいる!!
興味津々でこっちを見つめるエルさんとも目が合っちゃった!
ありゃま、どうしよう?
そのとき、前方から爆発音が聞こえてハッとした。
ある程度のところまで近づくと、父様は僕を下ろしてくれた。
フードの中から肩に移動したシロちゃんが、「前に見たのとそっくりニャ!」と叫んでいる。
少し前方で止まったアル様の肩の上でも、クロちゃんがこっちを振り返って目を輝かせていたよ。
「ハク~! 出番ニャよ!!」
嬉々として言われてビックリ仰天!
アル様も振り返って、ピッカピカの笑顔になっていた。
えぇ……?
なんなの、その期待に満ちた眼差しは?
まずは自分の目で確認しよう!
妖精界で出会ったときは湖沼地帯だったけど、ここは浅瀬の湿地帯だから、ウォーター・リーパーは水に潜れないと思うんだ。
身を隠すところがなければ、そんなに数は多くないんじゃないかな?
――――なんて考えは甘かったようだ。
見渡す限りの場所に、コウモリ羽根の生えた赤黒マダラカエルのオバケが大量発生していた!
妖精界のものより一回り小さいけれど、手足が妙に長い。
飛んでいるもの、水に浸かって目だけ出しているもの、葦原の影に潜むもの。
大小さまざまなウォーター・リーパーがひしめき合っているところで、カレンお婆ちゃんとライさんが必死に戦っていた。
そこへジジ様とカルロさんとヒューゴが応援に飛び出して、素早く攻撃魔法をぶっ放し、豪快な
「あれ? 赤黒系は猛毒って聞いた気がするけど?」
「そうですね。ほら、口から毒唾を飛ばしていますよ!」
ヒューゴの持つ大盾に当たって、ジュウッ!と音を立てているけれど、聖属性の大盾は無傷だった。
ほかの人たちも巧みに回避しているね。
ちょっと安心したよ。
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