第61話 第七階層 湿地帯を行く

「ここは水棲魔物の生息地だな。全員水面下と芦原の影に注意しろ」

 ジジ様が剣を抜いて先頭を歩き出せば、大盾を担いだヒューゴが進み、そのあとにライさんとエルさんが続く。

 父様とアル様に挟まれた僕とメエメエさんのあとを、カルロさんとカレンお婆ちゃんとルイスが守ってくれているよ。


 ニャンコズは「濡れたくないニャ!」と言って、子ネコモードになっていた。

 クロちゃんはアル様の肩に、シロちゃんは僕の外套のフードに隠れている。

 子ネコのシロちゃんはまったく重たくないんだよ。

 フードから顔を出して、僕の左肩にひょっこり顔を出すと、物珍しげに周囲を観察しているようだ。

 背後のカルロさんとカレンお婆ちゃんが、その仕草をほほ笑ましそうに見ている。

 ねぇ、それって僕に向けられているんじゃないよね?

 気になるのは子ネコのシロちゃんなんだよね??


 チマチマ歩く僕を見て、ルイスが「ニシシ」と笑っていた!

 むむむ!



 しばらく進むと、近くの葦原から青い大蛇が飛び出してきた!

 体長五メーテくらいで、光を受けて深い青からライトブルーに輝いている。

 ジジ様が大蛇の首をあっさり切断すれば、魔石と青い蛇皮がドロップした。

「あの蛇皮は綺麗だね! メッチャ高く売れそう!」

 僕が思わずつぶやけば、お金の匂いに敏感なメエメエさんが、瞳を輝かせて叫んだ。

「お祖父様! もっと大蛇を狩ってください!」

「おう! 任せておけ!」

 メエメエさんの要望に応え、ジジ様とヒューゴが葦原に突撃していったよ。


 すぐまた別の葦原から、今度はエメラルドグリーンの蛇が数匹飛び出してきた!

 そっちにはライさんと父様が走っていき、あっさり切り伏せている。

「あ! あっちからは白っぽい大蛇が来るよ!」

「こっちからは黒っぽいのが来ますね!」

 僕が見付ければアル様が走っていき、メエメエさんが叫べばカレンお婆ちゃんが跳躍した。


「あっちー! あかいのー!」

「わたし、いくー!」

 グリちゃんの声にフウちゃんが答え、風の刃を飛ばしているんだ。

 発見次第個々に対応しているんだけど、「俺の出番がないッス……」と、出遅れたルイスがしょんぼり肩を落としていた。

 その横でカルロさんは平然としている。

「私たちの役目はハク様をお守りすることです。油断せず、背後にも気を配ってください」

「了解ッス! 勉強になりまッス!」

 そんな会話が聞こえてきた。

 そうは言っても、カルロさんはあんまり動かないよね?

「どっしり構えることも大事です」

 口に出していないのに、後ろからそんな言葉が返ってきたよ!?

 エスパーなのッ??


 それにしても。

「ねぇ? ここの蛇は大きいけれど、思ったよりも弱いね?」

 思わずつぶやけば、エルさんが笑って教えてくれた。

「それはこのブーツのおかげじゃないかな? 普通だったら足を取られて、思うようには身動きが取れないだろう? ほら、杖を突き刺してみれば、底まで五十センテくらいあるし、実際の体重がかかった状態ならば、もっと沈み込んでいたはずだよ。――――おそらくあの蛇は、この水の中でも自由自在に動けるだろうから、本来ならばもっと苦戦していたはずだ」

 ほうほう!


 僕も大杖の先を水の中に差し込んでみた。

 エルさんの言うとおり、思ったよりも水深があるね。

 足元の水をよく見れば、生い茂った草が揺れて、気泡が浮かび上がってきている。

 水草ではなさそうだから、もしかしたら時間によって、水の満ち引きのようなことが起きるのだろうか?

 こんなところにも、ダンジョンの不思議が隠されているんだね。



 一行はその先へとどんどん歩みを進めていく。

 色とりどりの大蛇が出てくるだけで、それほどの脅威は感じられない。

 僕らの上を飛ぶミディちゃんたちが、早期発見して教えてくれるし、ゴーグルにも表示されるから、難なく討伐できている。

 間もなく、上空から接近する無数の影を感知した。

「弓を扱える者は至急装備してください!」

 メエメエさんが鋭く叫ぶと、ライさんとエルさんと、アル様とカルロさんが弓矢を取り出した。

「地上の蛇どもは任せるよ」

 アル様がジジ様たちに声をかけると、大群で押し寄せる鳥型魔物に矢を放つ!

「おう、こっちは任せておけ!」

 ジジ様とヒューゴと父様と、カレンお婆ちゃんとルイスが地上の蛇と戦う。


 僕も精霊さんたちにお願いした。

「みんなも魔法を矢のように飛ばして、空の魔物を討伐して!」

「わかったー!」

 セイちゃんピッカちゃんの火力コンビが、弓士の上空から魔法を打ち出す。

 風のフウちゃんは弓士の背後から、追い風を吹かせている。

 クーさん&モモちゃんコンビがアイスランスを打ち出し、ニイニイちゃんがポコちゃんの頭に乗って、雷撃を食らわせている!


「あの場合は、ポコちゃんがアース線?」

「こんなときに変なことを言わないでくださいよ!」

 メエメエさんのツッコミが入った。

 てへ。

 特にやることのないグリちゃんとユエちゃんは、一生懸命オタ芸で応援していたよ。


 接近する鳥型魔物の群れは、瞬く間に失墜していく。

 それでも間近まで迫った強い個体もいた。

 鋭い嘴を持ったそれは、青い翼を畳んで超高速で滑空してくるんだ!

 二メーテサイズの細長いフォルムで、ミサイルのように突っ込んでくる!

「あれはブルーフラミンゴーです! 通称、青い弾丸デッス!」

 まんまだね!


 急接近するブルーフラミンゴーに向かって、セイちゃんが飛び出した。

 複数の敵の中に突っ込んだセイちゃんは、口から炎の息吹をフッと吐き出す!

 その瞬間に上空で大爆発が起き、僕は咄嗟に顔を腕で庇った!!

 熱風に吹き飛ばされそうになるのを、必死に踏ん張っている横で、「あ~れ~」とメエメエさんの声が背後に遠退いていったよ!

「飛んでいったニャ。あ! 水の上を三段跳びしてるニャよ! ああ! 落ちたニャ……」

 フードの中からシロちゃんが実況してくれた。

 もう、何してるのよッ!!


 爆風が止んで顔を上げると、あれだけいたブルーフラミンゴーが消えていた。

「やぁやぁ! セイちゃんお見事さん! 腕を上げたね!!」

 アル様が豪快に笑って、セイちゃんの頭をなでていたよ。

 ライさんスイさんは、ピッカちゃんとフウちゃんを褒め千切っていた。

 カルロさんはクーさんとモモちゃんにおやつをあげているね。

 蛇討伐を終えて戻ってきた父様が、ニイニイちゃんとポコちゃんをなでなでしている。

 カレンお婆ちゃんがオタ芸を披露していた、グリちゃんとユエちゃんをハグしていた。


 背後に飛ばされたメエメエさんは、ルイスが摘まみ上げて持ってきてくれたよ。

「坊ちゃん、メエメエさんが水にはまって、草に絡まっていたッス」

 汚いものを摘まむ手つきで、極力接触面を少なくするために、腕を伸ばしてくる。

「…………」

 その腕の先にブラ~ンと吊り下げられた、ずぶ濡れのメエメエさんには、長細い葉っぱと泥がついてメッチャばっちい。

「あれ?」

 ふと気づいてメエメエさんに絡まった葉っぱを手に取ってみた。


『空気草 / 水中で大量の空気を生み出す草』


 さっきの気泡を生み出す草だよね。

 これはいずれ何かに使えるかもしれないから、保管しておこう。

 早速スキル倉庫へ転送しておいた。


 それからメエメエさんに浄化魔法をかけてあげたよ。

 メエメエさんは「面目ないです」と意気消沈していた。

 そのうち元気を取り戻すだろうと、放っておいて僕らは先へ進んでゆく。

 しばらくすれば、メエメエさんはいつもどおりに戻っていた。

 落ち込むのも三分だけだね!

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