次なる階層(仮)
第60話 第七階層 新アイテム
それからまた一週間後。
しっかり英気を養ってから、いよいよ第七階層に突入することになった。
季節は夏も本格的な七月。
次なる冒険が待っている。
今日の僕は全身水色コーデだよ。
外套を飾る精密な
クーさんが「おなじー!」とご満悦だった。
今回はラビラビさんが複製した魔法の重力操作ブーツが、全員に支給されている。
ハイエルフさんたちにもね。
デザインがそれぞれ微妙に違うのは、使い手に合わせているからだそうだ。
「お祖父様がハク様と同じ、ファンシーなデザインのブーツを履くと思いますか?」
言われてみれば、僕のブーツはコロンとした丸いフォルムだよね。
縁取りのステッチも、靴紐の編み上げ方もおしゃれでかわいいよ。
「ゴツイ人にはカッコイイデザインを、繊細な人には洒落たデザインを、マスコットにはかわいいデザインを! 私の美意識で選びました!」
ほうほう。
つまり僕はマスコット枠だと。
「そうです! カバンについているキーホルダーのマスコットです!」
もはや人間ではないね。
もうひとつ、カワウソさんが持ってきてくれた『元気の実』は、植物園で増産されて各自に配給された。
「一粒食べれば十分効果が得られますので、半日に一粒を限度としてください。新たにポーションにも配合しましたので、あとで感想を聞かせてくださいね。こっちは新タブレット型ポーションになります!」
「おお、助かるぞ!」
ジジ様が嬉しそうに受け取っていた。
タブレット型は戦闘中でもかじれるから人気の品だよ。
精霊さんたちはおやつ代わりに食べちゃうの。
「シュワシュワ、おいしー!」
「おいしいね~」
顔を見合わせて「ね~!」と言い合っているので、僕も一粒もらって食べてみた。
なるほど、口の中でシュワッと弾ける、ラムネのような味がしたよ。
「おいしいからって、食べ過ぎちゃ駄目だよ?」
「は~い!」
元気にお返事しながらも、ガリボリかじっているのはなんでかな?
ジジ様がラビラビさんに近づいて、コソコソと耳打ちしていた。
「ビール味とかブランデー味とか作れないか?」
「どうでしょう? お酒として飲むからおいしいんじゃないですか?」
「…………そうか」
ラビラビさんの素っ気ない返事に、ジジ様はガックリと肩を落としていたよ。
「まぁ、休憩中にテントの中で飲んでください」
ラビラビさんがジジ様の肩を、ポンポン叩いて慰めていた。
カルロさんも真似して、反対の肩をポンポンしていた。
そうそう!
精霊さんたちにも第四階層の宝箱から出た、刃のない柄だけの刀剣(今後は魔力剣とするね!)のミニチュア版が実装されていた。
メエメエさんがみんなに二本ずつ配給し、謎のオタ芸を指導しているところを目撃してしまった。
一糸乱れぬ動きに、僕とバートンは困惑した。
みんなはキャッキャと楽しそうに、短い魔力剣を振り回している。
「それ、なんでも斬れるから、気をつけてね?」
「大丈夫です! ボタンひとつで光を出すだけの仕様と、魔法剣に切り替わるんです!」
メエメエさんが熱弁を振るう頭部に、ピッカちゃんの魔法剣からうっかり光線が飛んできて、頭部モフ毛がジュッと消えた。
「…………」
メエメエさんはその体制のまま気を失って倒れたよ。
僕とバートンは慌てて介抱することになったんだ。
ほら、言わんこっちゃない!!
その後、オタ芸は危険と判断されて、ラビラビさんによって禁止された。
「え~~っ!?」
精霊さんたち七人からブーイングが上がって、ラビラビさんはタジタジになっていた。
「…………どうしてもやりたいときは、こっちの光る棒を使ってください!」
すかさず取り出した光る棒。
ちゃんと用意しているあたりがラビラビさんらしい。
精霊さんたちに配給されていた二本の魔力剣はその場で回収され、新たに光るだけの棒が支給されることとなった。
そのあとも精霊さんたちはそろってオタ芸を練習していたんだ。
そこにナガレさんとオコジョさんとカワウソさんが加わって、一糸乱れぬ気迫の演技に、そこだけ異様な雰囲気に包まれていた。
ドリーちゃんが呆れる横で、ダルタちゃんが必死に振り付けを覚えていたよ……。
妖精界で
オタ芸を普及した、自称インフルエンサーのメエメエさんは、アル様の委託薬局から増毛薬を買って、一生懸命頭部にしみ込ませていたよ。
それを見たロイおじさんが、笑顔でメエメエさんの肩を叩いていた。
「それはかなり効くぞ! 俺もてっぺんに髪が生えてきたんだ!」
「そうですか……」
ロイおじさんの明るさとは真逆に、メエメエさんのテンションはメッチャ低かった。
そんなアホな話はさておき。
第六階層の転移ポータルから出て、階段を下った先に、第七階層が続いている。
メンバーはいつもどおり、僕と七人の精霊さんとミディ部隊と、おまけのメエメエさんと騎獣のニャンコズ。
父様のほかに従士のヒューゴが復帰し、ルイスが笑顔でついてきた。
ヒューゴの背中を小突いているのはカレンお婆ちゃん。
「この年になって、こんな楽しい思いをさせてもらっているんだ。報酬はいらないよ」
そう言って、ニヒルに笑っていたっけ。
危険なダンジョンが楽しいと言って笑える、確かな
もちろんジジ様とカルロさんとアル様に、ハイエルフのエルさんとライさんも一緒。
ライさんはスイさんとジャンケンをして勝ったらしいよ。
「ジャンケンを普及させたのは私です!」
メエメエさんは踏ん反り返って、うっかりバランスを崩していた。
アホだね!
足を踏み入れた先は、靴底がわずかに水に沈む、見渡す限りの湿地帯だった。
外の世界と同じように、まだ熱し切れていない夏の陽光が降り注ぎ、地上をまぶしく照らしている。
偽りの太陽によって足元の水が熱せられ、蒸気が陽炎のように立ち上っていた。
湿地帯のあちらこちらに、
それは、いつかの湖沼地帯を思わせる風景だった。
あのときは、こんなに暑くはなかったけれど――――。
こんな綺麗な景色の中にも、危険な魔物が潜んでいるんだよね。
心してかからなくっちゃ。
「どうやら密林よりはマシだが、ここも身体を動かすのには向いていない気候だねぇ。……やれやれ、森や密林を抜けて、今度は水関連か……」
アル様が周囲を見回して、小さくごちっていた。
「まずは、歩きながらブーツの性能を確認してください」
メエメエさんの指示に従って、浅い水の中に一歩を踏み出せば、ブーツは一センテくらい沈み込んだだけで、水たまりの地面を歩いているような感覚だった。
ほかのみんなも普通に歩いているから、問題はなさそうだね。
メエメエさんは空中で腕組みしながら、満足そうにうなずいていたよ。
作ったのはラビラビさんなのにね?
アル様は空をまぶしそうに見上げていた。
「さて、出発だが、これだけ見通しがよければ、上空にも注意が必要だねぇ」
確かに空から見下ろしたら、僕らは丸見えだろう。
何も遮るものがないのだから。
空を飛ぶ精霊さんたちに一声かけておこう。
「みんなもミディ部隊も、地上だけでなく上空にも注意してね」
「は~い!」
七人の精霊さんはそろって返事をし、ミディ部隊はシュタッと敬礼していたよ。
うむ、よきよき。
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