第57話 元気の実を食べた双子

 その様子を笑ってみていたジジ様が、父様に助け船を出していた。

「遠慮せずに持っていくがいい! 何しろ魔石が余って処分に困っているのだ!」

「そうだねぇ、大き過ぎる魔石は売り先が限られるしねぇ……。その点ハイエルフの里の維持には、魔石がいくらあっても困ることはないだろう? この先何千年でも持つように、今からストックしておくといいさ!」

 ジジ様とアル様は、そんなふうに笑っていたんだ。


「今後も協力をお願いする意味で、是非受け取ってください!」

 父様の目力が半端ないね。

 ライさんとスイさんは遂に折れて、「了解した。感謝する」と言って受け取ってくれた。

 テーブル席で話を聞いていたルシア様も、ジジ様とアル様に頭を下げていたよ。


 この日はそこでハイエルフさんたちと別れ、集まりはお開きになった。

 ルシア様には、海鮮焼きの余りをお土産で持たせておいた。

 時間停止食糧庫にしまっておけば、いつでも熱々が食べられるからね!

「ブランさんに見つかる前に食べちゃってね!」

「まぁ!」

 僕とルシア様は顔を見合わせて、「うふふ」と笑った。


 僕らがほのぼのしている横で、バートンが父様に声をかけている。

「旦那様、午後のお仕事へお戻りください」

 バートンに急かされ、父様が忙しなく戻っていく後ろを、リオル兄が優雅に歩いていった。

 カワウソさんとダルタちゃんたちは、「もう少し遊んでいくよ(ニャ)!」と、再び湖に走っていったよ。

 不思議生物たちは元気だね~。

 ジジ様とアル様とカルロさんは、お食事処で飲み直すそうだ。

 ルシア様を見送ってから、僕と精霊さんたちとバートンは、植物園に戻ることにした。



 このあと数日休んでから、僕は第六階層を抜けることになる。

 その準備をしていたある日、メエメエさんが話を切り出してきた。

「ハク様が第六階層を踏破するまでのあいだに、私は別働でラグナードに近い森の中に、こっそり転移門を設置してきますよ! 第七階層に行くまでには戻りますので、ハク様はしっかり準備をしてから第六階層に挑んでください!」

 メエメエさんはそれだけ言うと、暗躍部隊を引き連れて出かけていった。

 ジジ様が大喜びでメエメエさんを送り出していたよ。


 そんなわけで、まずはハイエルフさんと我が家の従士たちがパーティーを組んで、第五・第六階層に挑むことになった。

 カレンお婆ちゃんとアル様と、ハイエルフのスイさんとエルさんが引率してくれる。

 ロイおじさんまでちゃっかり混ざっているから抜け目がないね。

 今回はレン兄もリオル兄も一緒に参加するんだってさ。

「面倒は一度で済ませてしまえばいいのさ」

 リオル兄はそう言って、また僕に青色サンゴを十粒差し出したんだ!

 もう!

 僕をなんだと思っているのよ!?


 仕方がないので、レン兄の装備にもたっぷり魔力充填して、『モクモク君三号DX』を山ほど持たせておいたよ!

「とにかく魔物の数が凄いから、これを燻しながら進んでね!」

「ああ、わかった! ありがとう、ハク!」

 レン兄と固くハグを交わした。

 ノリの悪いリオル兄は無視だ!


 第六階層からは父様と従士のケビンとイザークと、僕と精霊さんたちが合流するよ。

 その間のルーク村の警護は、ふたつの村の自警団と、執事のビクターとミケーレに留守を任せることになる。

 手の回らないところは、ミディ部隊にお願いしておく。

 ミディちゃんたちも日々パワーアップしているし、なんといっても星の数ほどもいるから、悪い奴らは近づけないよ!

「安心していってらっしゃ~い!」

 僕は無駄に明るい笑顔で、一行を送り出したよ!

 あの地獄の第五階層で、全員揉まれてくるがいい!

 

 キースと双子の肩が、凄く落ち込んでいたけどさ。



 やがて、彼らが第五階層を踏破したと連絡が来ると、僕も装備を整えてダンジョンに向かった。

 第五階層の転移ポータルを出れば、階段付近で五階層を踏破した一行が座り込んでいた。

 ベテラン勢は余裕の表情で休息しているけど、新人組は何だか顔色が悪いね?

 顔を青くしたキースの横では、双子が蒼白となってガタガタ震えていた。

「俺にも、坊ちゃんの心が折れた理由がわかりました……」

 キースが項垂れながらつぶやいたんだ。

 そうでしょう!

 決して僕がへなちょこだからではないんだ!!


 その横でへたり込んだ双子は、目が虚ろになって焦点が合っていない!

 これはマジでヤバそうだよ!?

 ブルブルと大きく身体を震わし、ガチガチと歯の根が合っていないみたいなんだもん。

 これはいけない!?

 僕はラビラビさんに増産してもらった『元気の実』を、三人に食べるように命じだ。

「この実を食べると元気になれるから、騙されたと思って食べてみて!」

 キースが暗い目で僕を見上げた!

 胡散臭そうな目で僕を見ないでよ!?

「カワウソさんが採取してきてくれたんだよ! 鑑定でも害はないって出ているから、きっと大丈夫だよ!!」

 強気の僕の言葉に押されて、三人は恐る恐る『元気の実』を口に運び、噛んで飲み込んだ。


 僕もゴクリと生唾を飲む。

「…………。坊ちゃん、なんでそんなに緊張しているんですか?」

 キースの目がすわっているんですけど。

 だってほら、人体実験第一号被験者だし……。

 いろいろ心配になるじゃない?

 ねぇ?


 僕とキースがガチで睨み合っていると、双子が急に顔を上げて大声で笑い出した!?

 何々、いきなり猟奇的!!

 えぇッ!?

「なんか頭の中がスッキリしました!」

「俺も! もう一度さっきの階層を走り抜けられる気がします!!」

 ユノはともかく、ノアの言葉には、ほかの面々がギョッとしていた!?

 さすがに心配になったのか、双子の父親のケビンが近づいて、ノアのほっぺをペチペチ叩いていた!

「おい! 大丈夫かッ!! 正気に戻れッ!!!」

 

 あれ? 

『元気の実』さん、鑑定の内容で合ってますか?


 ハッとしてキースを見れば、徐々に顔色が良くなっているよね?

 でも双子みたいに劇的な変化はないみたい?

 んんん?

 後ろから双子の様子をのぞき込んだアル様が聞いていた。

「お前さんたち、何粒食べたんだね?」

「坊ちゃんにもらった五粒全部でッス!!!」

 元気な良いお返事だね!

 へらへら陽気に笑う双子から僕に視線を移し、アル様が一言つぶやいた。

「今度から渡すのは一粒にしなさい」

 めっと戒められちゃった。

「は~い!」

 僕も笑顔で良い子のお返事をしておいたよ!

 キースは頭を押さえて呻いていたんだ。

「…………一粒にしといてよかった……」

 心の声がダダ洩れだね!


 その後、十分ぐらいで双子の症状は収まったけど、妙にテンションが高く、「速く次に行きましょう!」と張り切っていた。

「ナチュラルハイだな……」

「明るい酔っ払いと同じだ」

「ドーピングッスね!」

 ヒューゴとイザークとルイスが、コソコソと話していた。

 ケビンだけは息子を心配そうに見ている。

「お前らポーションも飲んどけ!」

 そう言って解毒ポーションを無理やり飲ませていたよ。


 む!

『元気の実』は元気になるだけで、毒じゃないと思う!

 ……たぶん!!


 ちょっとアクシデントがあったけど、いよいよ第六階層に足を踏み入れるときが来た。

 キリッ!

 緊張する僕の肩をリラックスさせるように、アル様がポンポンと叩いた。

「考えたのだがね。第一階層のレイス以外、今まで空を飛ぶ魔物はいなかっただろう?」

「そうですね」

 アル様が神妙な面持ちで話しかけてくるので、僕も真面目にうなずいたよ。


「今回私はハクと一緒にソラタンに乗って、第六階層上空を高速移動してみようと思うんだ! やぁやぁ、仮に魔物が襲ってきたとしても、地上を行くよりも遙かに効率が良いはずだよ! ハクの場合は地上で卒倒しかねないから、そのほうがいいね!!」

 アル様はピッカピカの笑顔になっていた。

 あれ?

 それって地上を行くのが嫌なだけなんじゃあ…………。

 なんか、アル様の笑顔の圧が凄いんですけどッ!?

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