第56話 四つの宝箱

 食後のお茶を飲んで休憩したあと、いよいよ宝箱の開封をしよう!

 その前に、回収してきた魔石や素材を、メエメエさんがシートに並べていた。

「これはワームの魔石と歯です。こっちはマイマイの魔石と外殻、こっちはナメーの魔石です。たいしたうま味はありません……」

 メエメエさんが暗い顔で説明していた。


 大型魔物に変わりはないので、魔石は人間の頭の大きさほどもある。

 ワームの歯はともかく、マイマイの殻は巨大カメの甲羅ほどの強度はない。

 メエメエさんが言うように、価値的なうま味は感じられないかな。

「植物の栄養や土壌改良材になるかもしれないから、焼いてから砕いて、その辺にまいておけばいいんじゃない?」

「なるほど、ラコラたちの餌になりますかね?」

 そこはほら、その辺でキャピキャピしている、ラコラたちに聞いてみたらいいんじゃないかな?

 

 第六階層のジャイアントアントの外殻は軽くて強いので、鎧の材料にできるみたい。

「これは欲しいな」と、ライさんとスイさんが話し合っていたよ。

 アリといえば、ギ酸もビンに入ってドロップするそうだ。

「ギ酸は扱いに注意が必要なので、ラビラビさんに押しつけましょう!」

 メエメエさんは毒と書かれたマジックバッグに、ポイポイッと無造作に放り込んでいた。

 危険物の扱いが雑だね!


 大毒蜘蛛の糸にはルシア様が興味を示し、ライさんたちに「取ってきてちょうだい!」と、強く訴えていた。

 並々ならぬその圧に、ふたりはタジタジになってうなずいていたよ。

 どこでも女性のほうが強いんだね~。

 僕とメエメエさんは生温かい目で見つめていた。


 ほかには毒ガエルの猛毒袋と外皮に、吸血オタマジャクシーの抜け殻、大きな蛇皮などがあった。

「はいはい! 毒類はこちら!」

 危険物は全部まとめてラビラビさん行きだね。

 カエルや蛇の皮類は、防水性が高く需要が高いため、あとで売り払うそうだ。

 

 さて、お待ちかねの宝箱だよ!

「出た順番で開けたほうがいいぞ」

 ほろ酔い加減のアル様がそう言うので、まずはワームの宝箱から行ってみよう!

 今まで出た宝箱と同じ大きさで、シンプルな宝箱だった。

 中には死神が持つような巨大な鎌と、虫除けランタンというものが入っていた。


「あれ、このランタンを灯せば、第六階層の虫系魔物に聞くんじゃないの?」

「そうだな! 蛇やカエルにはどうだ? 食肉花には効果があるか?」

 これから挑まなければいけない父様が、やけに食い気味に聞いていた。

「無理じゃないですか~?」

 メエメエさんが冷たい返しをしているね!

「そうか……、それは残念だ。できれば私も虫系は避けたいからねぇ」

 父様は残念そうに苦笑して頭をかいていたけど、スイさんとライさんも真剣な顔でうなずいていたよ。

 これから挑む立場からすれば、深刻な問題だよね!


「ラビラビさんに頼んで、カエルと蛇対策のアイテムを考えてもらうよ!」

 僕が声をかければ、父様は「よろしく頼む!」とホッとした表情をしていた。

 リオル兄もテーブル席のほうで、「カエルと蛇ねぇ……」とつぶやきながら、何かメモを取っているようだ。

 魔道具開発に協力してくれそうだね!



「食肉花は火魔法でどうにかできそうか? それともこの鎌で刈れということか?」

「湿気の多い密林地帯なら、多少の炎も気にせず使えそうだな?」

 スイさんとライさんものぞき込みながら、対策を検討しているようだ。

 第六階層に関する予備知識があることで、綿密な作戦が立てられそうだね。

 それにしても……。

「ハイエルフさんは火属性魔法が使えるの?」

 気になったので聞いてみた。

「ああ、強くはないが、俺は使えるぞ」

 ライさんが答えてくれたよ。

 森の民であるエルフは火魔法使いがいないはずだから、ハイエルフは似て非なる種族なんだろうね。


 話が脱線したけど、ワームの宝箱には金銀財宝のほかに、魔鉄鉱石がビッシリ詰まっていた。

「何だか地味ですね!」

 メエメエさんは憤慨していたけど、純度の高い魔鉄鉱石は武器や道具作りに使えるから、重宝するそうだよ。

 使い道のない宝石よりも、こっちのほうが有意義に活用できそうだね。



 マイマイから出た光輝く黄金の大きな宝箱の中には、メエメエさんご希望の金銀財宝がギッシリ詰まっていた。

「金貨と白金貨だけだね。あ、金のインゴットがたくさん埋もれているよ!」

 お金をかき分けると硬貨のあいだから出てきたんだ!

 メエメエさんの目がキラーンと光った気がする。

 なんか鼻息が荒くなって、テンションが上がってきているみたいだよ!

 この宝箱には、武器らしきものは入っていなかった。


 お次は銀の箱を開けると、こっちは白金貨で埋め尽くされ、その中に魔法銀のインゴットがたくさん埋もれていた。

 その代わりなのか宝石類は入っていない。

「なんと! 高純度の魔法銀など、このひとつでどれほどの金額になることかッ!」

 父様がメッチャ慌てていた。

「やぁやぁ、いい武器が作れるぞ! どうだね、リオル君に全身魔法銀の鎧を作ってみては? 光り輝く王子様の出来上がりだぞ!!」

「却下で!!」

 酔っ払いのアル様の言葉を、リオル兄は間髪入れずに拒否していた。


「それならこっちの金でピカピカ鎧にするとか?」

 うっかり口に出したら、リオル兄が素早く席を立って僕に近づき、頭をグリグリされた!

 痛いからやめて!!

「うっかり余計なことを言うからですよ」

 メエメエさんが呆れたようにつぶやくんだけど、救出しようとは思わないのかな??

「うっかり、うっかり、うっかりハクべぇ~♪」と歌っていた!

 ぐぬぬぬぬ!


 ちなみに銀の箱も、武器などの特別なアイテムは入っていなかったけれど、よく見たら箱自体が魔法銀だったんだ!!

 慌てて金の箱を見直したら、そっちは黄金製で、全員が遠い目をしていたよ。

 メエメエさんだけは箱をスリスリなでて、ニヘラ~と不気味に笑っているんだ。

 テーブル席で海鮮焼きを食べていた面々が、若干引いているんですけど……。

 そんなことを気にするメエメエさんではなかったね。

 黄金のマスクでも作って、その中に納まったらどうかな?


 気を取り直して、最後に銅の箱を開けてみる。

 この中に硬貨は一枚も入っていなかったけど、魔法のブーツとおもちゃのような小さな模型の船が入っていた。

 その下には細かな赤銅の粒と、その中に埋没するように、赤い金属のインゴットが入っている。

「おや、これはなんだろうね。こっちの粒はそのまま純度の高い銅だが、この赤い金属は……」

 父様がひとつ持ち上げて頭をかしげていた。


 気になったのか、土精霊王のポコちゃんが飛んできたよ。

 マッピングスキルでのぞいてみれば、『魔焔鋼石まえんこうせき』と出た。

「このいし、ようがん、みたいになるー」

 ポコちゃんが無邪気につぶやいた声に、僕は慌てて身体を離した!

「大丈夫ですよ、お父上様が手に持っても平気ですから。何かあるなら、今ごろ無事では済まなかったでしょう」

 ほらと、メエメエさんが蹄で父様を指しているけど、当の本人はちょっと複雑そうな顔をしている。

「……私は酷い扱われようだねぇ……」

 そう言いながらも、父様は苦笑していた。


 ひとまず、魔焔鋼石の研究はラビラビさんに任せよう。

 三種のインゴットといくつかの大きな魔石は、ハイエルフさんにも分配するそうだよ。

「今回は参加していないから結構だ!」

 そう言って遠慮するふたりに、父様が無理に押しつけていたよ。

「いやいや、遠慮せずに!」

 なんだか必死だね?

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