第55話 海鮮焼きパーティー?

 アッシュシオールの湖畔では、相変わらず元気にナガレさんたちが遊んでいた。

 ダルタちゃんやドリーちゃんもいるね。

 彼らの遊ぶ姿を見れば、ダンジョンでの殺伐とした空気感が一掃されるようだ。

 この雄大な景色を眺めるだけでも、気分転換になるんじゃないかな?

 本来なら僕の日常は、こんなほのぼのムードだったはずなのにねぇ??


 おや、メイプルツリーの森のほうに、何人かのハイエルフさんたちがいるみたい。

 たまにルシア様邸にやってきているのは知っている。

 今日も用事があって訪問していたのかもしれないね。

 目が合ったので軽くお辞儀をすると、向こうも気づいて頭を下げ、すぐに森のほうへ走っていってしまった。

 ハイエルフさんたちは排他的な種族だから、顔を見ても言葉を交わすことはないんだ。

 適度な距離感で付き合っていけばいいだろう。


 気にせず湖畔の草原に座って父様たちを待つ。

 ジジ様は酒ビンを持参して、青空の下でおいしそうに飲んでいるよ。

 なぜかアル様は湖に入って川エビ釣りをしていた。

 そこへダルタちゃんたちも集まって、ワイワイ楽しそうにしているね。

 ゆるキャラ族が戯れながら、大きな川エビを何匹も捕まえていた。


 よく考えてみれば、湖なんだから川エビと呼ぶのはおかしいだろうか?

 アッシュシオール湖のエビだから、アッシュシオールエビとかのほうがいいかな?

 まぁ、その辺の川に棲んでいたエビだから、レムル川エビでいいかもね。

 そんなどうでもいいことを、風に吹かれながら考えていた。

 そうそう!

 これが僕の日常なんだよ!!

 そんな僕を、メエメエさんが横目でシラーと見ていた。


 間もなく父様とリオル兄とバートンがやってきたので、僕も合流しようと立ち上がる。

 お尻についた草やほこりを払っていると、背後から「お~い」と声が聞こえてきた。

 振り返れば森のほうから、スイさんとライさんが走ってきたよ。

 弓矢を持っているから、狩りの途中だったみたいだね。

「お~い、今日も何か始まるのか?」

 ふたりのイケメンさんが、白い歯を輝かせて笑っているよ。

 白銀の髪と相まって、キラキラまぶしいねぇ。


「こんにちは~」

「ああ、こんにちは」

 笑顔で挨拶を交わし、簡単に今日の目的を説明した。

「あのあとジジ様たちが、もう一度第五階層に潜って、宝箱を発見してきたんです。ついでに第六階層にも行っちゃったみたいで、これからその宝箱を確認するんですよ」

「え! 抜け駆けだぞ!」

「一声かけてくれればよかったのに!」

 ライさんとスイさんが不満そうにしているので、当事者のメエメエさんとカルロさんを呼んで、彼らに状況を説明してもらう。


 そのあいだにも、バートンはテーブル席を用意していた。

 スミちゃんとミディちゃんたちがセッティングを手伝い、さらに宝箱の中身を広げるシートを準備していた。

 ついでにバーベキューセットを用意しているのはなんでかな?

 ちょっと前まで、みんなご飯を食べていたじゃない?

 するとバートンがニッコリ笑って、湖のほうへ視線を走らせた。

 ナガレさんとオコジョさんと、ダルタちゃんとドリーちゃんが、川エビを両脇に抱えて走ってくるのが見えた。

 アル様も両手に川エビを鷲掴みにしたまま、笑いながらそのあとを追ってくる。

 なんだかシュールな光景だねぇ。


 ああ、彼らのためのバーベキューセットなのかと納得したよ。

 間もなく到着すると、カワウソさんたちはすぐに椅子に座っていた。

 アル様は捕ったばかりの川エビを、早速バーベキューコンロに載せて焼いている。

 真っ青な巨大川エビが、見る間に真っ赤に変わっていくよ!

 あれは残酷焼きだね!



 事情を聴き終えたハイエルフさんたちは、暗い顔で僕のほうへやってきた。

「さっきはすまなかった。私も粘液系の虫は苦手だ」

 ライさんの言葉に心から同意するよ。

「だが、第六階層は君も通り抜けなければいけないだろう?」

 スイさんの言葉を聞いて、僕は「え?」と固まった。

 この人は、いったい何を言っているのかな??


 呆けている僕の顔を見て、スイさんが困惑げに聞いてきた。

「え? 私たちも君も、第六階層を越えないと、第七階層には行けないよね?」

 えぇ!?

 くるりと父様のほうを見れば、手を挙げて苦笑していた。

「私とハクは、第六階層を踏破していないぞ」


「えぇぇぇぇぇ~~ッッ!! 聞いてないよぉーーッッ!?」


 僕の声が周囲に反響し、遠くで鳥が飛び立つ音が聞こえた。

 リオル兄が呆れ顔でラドベリージュースを飲んでいたよ!

 大人になっても好きなものは変わらないね!!


 ガックリと項垂れる僕の肩を、ライさんがポンと叩いた。

「まぁ、一緒に頑張ろうな?」

 む!

「ライさんは第五階層から踏破しなきゃ駄目だよ!」

 ビシッと言ってやったら、「そうだった!」と、今ごろ思い出したように慌てていた。

「そうだな! 魔物の大群と戦い乗り越えるか、あるいは左に進路を取ってみるか?」

 スイさんがニヤニヤと笑いながら、ライさんをからかっているけど、きっと左方向も危険なことに変わりはないと思う。

「頑張ってね、ライさん!」

 僕はいい笑顔でライさんの背中を叩いておいたよ。

 明らかな身長差で、肩まで手を伸ばすことができなかったともいう。

 肝心のライさんは顔をしかめながら、僕の頭をワシャワシャしてきた!

 わぁ~!



 バーベキューが焼けるいい匂いが漂ってきたので、先にそっちを食べちゃおう。

 メエメエさんが魚介をたくさん出して、ミディちゃんに焼いてもらっている。

 手塩にかけたお手製のイカの一夜干しを、惜しげもなく出していたよ。

 お金に関してはケチ臭いのに、こういうときは太っ腹だよね。

「今何か言いましたか?」

「いいえ、なんにも?」

 鋭い視線で睨まれたので、果実水を飲みながらそっと目を逸らした。


 おや? 

 ルシア様邸のほうを向いたら、扉を開けてこっちを窺い見るルシア様と目が合ったよ。

 どうやら外のざわめきと匂いに釣られて、顔を出したみたいだね。

 それならルシア様もお招きして、みんなで一緒に食べたらいいよ。

「ルシア様、こっちですよ~」

 手を振れば笑顔で応え、すぐに駆け寄ってきたよ!

「こんにちは。いいお天気ね、いい匂いがするんですもの! うふふ」

 ちょっと恥ずかしそうに笑う姿が、なんだかかわいいね!


「今日はブランさんは来ていないのですか?」

 いつも入り浸っているのに、今日はルシア様だけみたい。

 当のルシア様は苦笑を浮かべながら、バートンが勧める椅子に腰を下ろしていた。

「ええ、今はハイエルフの里でお勉強中なのよ。サボり過ぎて、ついにあの子の母親が迎えに来たの。かなりご立腹だったから、しばらくは抜け出せないんじゃないかしら?」

 ルシア様はコロコロと笑っていた。

 ブランさんの場合は自業自得だね。


「ちょうどお昼ですし、一緒に海鮮焼きを食べましょう」

「まぁ、嬉しい! 私この貝がお気に入りなの!」

 醤油を垂らして焼いたホタテを前に、手を打って満面の笑顔を浮かべていたよ。

「ホタテは僕も大好物です! どうぞ召し上がれ!」

「いただきます!」

 ふたりそろって頬張れば、笑顔で笑い合う。

 ああ、おいしいねぇ!


 そんな僕とルシア様を見て、ライさんとスイさんが苦笑していた。

「もうすっかりこの空気に馴染んでいるな」

「ああ。だが確かにうまそうだ!」

 ふたりも席について、海鮮焼きを心ゆくまで堪能していたよ。


 隣の席ではジジ様とアル様が、海鮮焼きをつまみに昼酒を飲んでいる。

 メエメエさんと精霊さんたちもモリモリ食べているんだけど、君たちの胃袋は無限大なの?

 父様とリオル兄は普通の昼食として適度に食べているけど、父様がビールを飲みたそうにしているのを、バートンがピシャリと止めていた。

 このあと午後の仕事があるから、ジンジャーエールでも飲んで我慢してね。

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