第52話 カワウソさんのお土産
僕は何を買おうかなぁ~。
のんびりしゃがみ込んで見ていると、いつの間にか隣にやってきて、僕と同じようにしゃがんだドリーちゃんが、ひとつの商品を指差した。
「あの魔除の鈴を買うといい。あっちのリボンには幸運の
「へぇ、ダンジョンで役に立つかな?」
手に取ると小さな土鈴にストラップがついている。
胸ポケットに吊り下げたらいいかもしれないね。
「なんだい。お前さんがダンジョンに行くなんて、変な感じだねぇ」
ネズミ耳幼女が、しゃがんだ膝に腕を乗せて頬杖をついていた。
「僕もそう思うよ!」
力いっぱい答えれば、ドリーちゃんは笑っていた。
それからいくつか品物を買って、ドリーちゃんと一緒にテーブル席に向かい、軽食を食べながらダンジョンの話をした。
そのうち精霊さんたちとバートンもやってきて、好きなものを屋台で買って食べている。
さらにナガレさんとオコジョさんとカワウソさんが走ってくるから、あっという間にテーブル席は賑やかになったよ。
その席でカワウソさんがお土産を手渡してくれたんだ。
「ハクちゃん、久しぶり!」
「いらっしゃい、カワウソさん。元気そうだね?」
ハグをすればモフモフがちょっと濡れていた。
僕の服も濡れたけど、まぁそのうち風で乾くだろう。
カワウソさんは笑顔で近くの椅子に座ると、ポシェットからいろいろ取り出している。
「こっちは北の海にいる魔物の魔石ね! 大きな骨もあるから別の場所に出すね! それでこっちがそこで見つけてきた草の実なの! ハクちゃんが喜ぶと思って!!」
ピッカピカの笑顔で手渡されたそれは、青い小粒な実だった。
植物鑑定で見てみれば、『元気の実』と出て驚いた。
『元気の実 / 極寒の大地に夏に青い実をつける低木の実。/ 短い夏に短期間しか実らないため、探すのが非常に困難。実は甘酸っぱく、食べると気力が回復する。/ 抗うつ剤の材料になる。毒性はないが、食べ過ぎ注意』
なんてタイムリーなものを持ってくるのだろう。
ダンジョンで心が折れやすい僕には、打って付けな木の実だね。
「ありがとう、カワウソさん! この実のおかげでこの先も乗り切れそうだよ!」
もう一度ハグをすれば、カワウソさんは嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
「ハクちゃんが喜んでくれてよかった! お父さんのところに寄ってよかったよ!!」
んん?
カワウソさんのお父さんって、例の暑さに弱い元夏の精霊王さんだっけ?
首をかしげながらも、カワウソさんのおしゃべりを聞いていた。
お昼を過ぎたころ、レン兄がミケーレを伴ってやってきた。
早速露店を眺めているね。
品物が減っても次から次へと補充されるんだよ。
ミディちゃんがダルタちゃんの指示で陳列しているんだ。
そのあとも家人が交代で買い物に来て、ミディちゃんたちもワラワラやってくるので、三時過ぎには商品がほとんどなくなっていた。
残りは全部植物園で引き取ることにして、あとはミディちゃんたちが店じまいしてくれるよ。
ようやく遅い昼食にありつけたダルタちゃんが、屋台からいろんな料理を持ってきて、モリモリ食べていた。
「完売御礼ニャよ!」
メッチャご機嫌だね!
別の席ではタックンとそのお兄さん家族が、楽しそうに軽食を食べていたので、僕は挨拶しに向かった。
タックンのお兄さんはリックンで、その奥さんはニコさん、その息子さんはコリン君。
ドリーちゃんとダルタちゃんが通訳をしてくれて、無事に挨拶を終えることができた。
言葉は通じなかったけれど、感謝の気持ちが伝わってきて、心がほっこりしたよ。
タックンのお兄さん一家は精霊村の家から、カミーユ村屋敷と行ったり来たりして生活していくそうだ。
カミーユ村屋敷はまだ使用人がいないので、今の内に屋敷の構造を把握するみたい。
ラビラビさんが隠し転移門の
夜に活動することが多いようだから、めったに会うこともないだろうけど、これからよろしくお願いね!
夕方植物園に戻ると、ラビラビさんに『元気の実』の増産をお願いした。
青い実をしげしげと眺めたラビラビさんは、鼻をピクピクさせていた。
「これ単体でもいいですが、ポーションの原料にできそうですね! 極寒冷地にすぐに植えつけます! 次のダンジョン出発までにはご用意しますよ!!」
ラビラビさんは楽しそうにテッテケ走っていったよ。
それから数日はカワウソさんやダルタちゃんと遊んで過ごした。
ドリーちゃんは幼女の姿をしているくせに、「酒がうまいねぇ」と言って、真昼間から飲んで昼寝をしていた。
見た目は幼女だけど、中身はドリアードのお婆さんだから真似しないでね。
ダルタちゃんは「お土産を買うぞ!」と叫んで、植物園内のショッピングモールへ出かけていった。
今回メエメエさんはいないけど、ダルタちゃんは自由に選んでいたみたい。
最近の新作はラビラビさんが勧めていたよ。
ほかにもダンジョンで取れた、浄化済みの素材や宝石なんかも喜ばれるらしい。
「巨大カメの甲羅はドワーフに売るニャ!」
宝箱から出たハンマーとツルハシとノコギリの複製品を買っていた。
「これでドワーフに商品を作ってもらうニャよ!!」
ダルタちゃんは飛び跳ねて喜んでいた。
姿は子ネコなのに商魂たくましいね!
それから一週間くらいして、ようやくメエメエさんが戻ってきた。
「ついに! 宝箱を発見しました!!」
そう叫んで、メエメエさんはお食事処の床に落下した。
ずいぶんとやつれているから、五階層の宝箱探しは、相当過酷だったんだろうねぇ……。
メエメエさんは暗躍部隊の黒子ちゃんたちに、担架で運ばれていったよ。
お大事にね。
それを見送っていると、一緒に同行したメンバーがぞろぞろ戻ってきて、温泉に直行していった。
通り過ぎるときに見た、全員の装備がボロボロだったよ。
あのアル様が無言で素通りするなんて、天変地異の前触れじゃないっ!?
いつでも元気なジジ様の肩も、心なしか落ちているように見えた!
えぇ??
いったい何があったのさ?
全員が温泉に消えるころ、バートンがポツリとつぶやいた。
「おや? ピッカちゃんとセイちゃんはどうしたのでしょう? ミディ部隊の子たちも」
んん?
そういえば、ふたりは一番に僕のところに飛んできそうなのに……。
「何かあったのかな?」
だんだん心配になったので、グリちゃんたちに声をかけてみた。
「みんな! ピッカちゃんとセイちゃんの居場所はわかる? それからミディちゃんたちも!!」
みんなは大きなスプーンでかき氷を食べながら、キョトンとこっちを見た。
ユエちゃんが僕の側まで飛んできて、「んー」と探知してくれている。
「あ! あそこ! ハクのお布団の中!」
えぇ?
僕とバートンと精霊さんたちは、大急ぎでお屋敷に戻り、階段を駆け上がって僕の部屋の扉を開けた!
すると僕のベッドに小さな膨らみがふたつある。
静かに近づいてそっと布団をめくってみれば、中で胎児のように丸まって眠るふたりを発見した。
ほっと安堵の息をついたのも束の間。
なんか臭うんですけど?
「くさー」
「ふたり、くさーい」
「きたないよー」
「どろどろ~」
「やだ、メッチャ臭くて汚くて、お布団もドロドロ!!!」
ユエちゃんの的確な表現に、僕の意識が遠退きそうになったよ!
バートンは苦笑していた。
「まずは坊ちゃま、浄化魔法をお願いできますか?」
おお、そうだった!
早速ふたりと一緒に布団もきれいにしよう!
窓から入ってきたのかな?
よ~し、部屋も丸ごとピッカピカにお洗濯だよ!
ものの数秒できれいにリフレッシュした!
「きっと、ハク様の下に辿り着きたかったんだと思います。ですが力尽きて、ハク様の匂いの残る布団に包まって、安心して眠ってしまったのでしょう」
優しいほほ笑みで、バートンがふたりの丸い背中を優しく叩いていた。
まるで赤ちゃんをあやすように。
ちなみにミディ部隊はとっくに精霊村に戻っていたらしい。
くたくたで泥のように眠っていると、ラビラビさんから報告があった。
「それにしても、ハク様。マッピングスキルがあるんですから、それで精霊の居場所を特定できますよね? なぜ便利なスキルを活用しないんですか?」
ラビラビさんが本気でわからないといったふうに、首をかしげている。
忘れていただけだよ。
面目ないね!
てへ。
ラビラビさんは心底呆れたように、大きなため息をついていた……。
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