第51話 ダルタちゃんの露店は大盛況

 ちなみに、『第一階層チマチマ削り隊』には、ヒューゴとライリーに埒られて、双子が号泣しながら駆り出されていったよ。

 リオル兄もマーレ町で買ってきた「ブレスレットを試す」と言って、一緒に出かけることになったらしい。

 「青色サンゴに浄化魔法を込めて」

 早朝僕の部屋に押しかけて言うことがそれなの?

 無理やり起こされた僕は、寝ぼけ眼で充填させられたよ。

 朝っぱらから青色サンゴを十個も出すなんてどうかと思わない!

 ついでにセイちゃんとピッカちゃんを誘っているんだもん。

 さすがに僕とは離れないよね~と思っていたら、ふたりはキャッキャと行ってしまった!

 朝からハートブレイクな僕だった。

 ううう…………。

 ちなみにほかの子たちは、何事もなかったかのように二度寝に突入していたよ。



 その日は朝から快晴。

 いつ来ても天気がいいのは、きっと僕の日ごろのおこないがいいからだよね!

 ルーク村よりずっと北に位置するアッシュシオールの湖畔は、暑くもなく過ごしやすい。

 太陽の光は強いので、カンカン帽を被って薄手の上着を羽織っているよ。

「いいお天気でございますね」

 バートンが目を細めていた。

 湖畔にはすでにテーブル席や屋台の準備が進められている。

 ルシア様がブランさんと一緒に、ウッドデッキからこっちに向って手を振っているのが見えたので、僕も手を振り返しておいた。

 ここでマーサとリリーとは別行動だよ。

 

 周囲を見回せば、ダルタちゃんたちはまだのようなので、僕はゆっくり歩いてアッシュシオールの下へ向かった。

 足元の小道の横にはラコラ族と薬草が生い茂り、お日様の光を浴びてキャピキャピご機嫌に歌っている。

 草の青さと魔除草の紫が、いい感じに混ざり合っているね。

 自然に共生している感じで、ここは長閑な空気感で落ち着くよ。


 アッシュシオールはまだまだ若い樹だけれど、少しずつ幹の太さを増している。

 梢に茂る葉は青々として、ほんのりと白い産毛に覆われているんだ。

 ここへ来るたびに魔力を注いでいたけれど、これからは浄化魔法を馴染ませていこうと思う。

 そうすることで、いつかこの樹そのものが浄化の樹となって、遠く未来まで、グリちゃんたちの道標になってくれればいいと思うんだ。


 千年でも万年でも、永劫にこの地に残ることを願って、僕はその幹に浄化を注ぎ、枝葉のすべてに行き渡らせる。

 精霊さんたちもこの樹が大好きだから、みんなは瞳を輝やかせて、浄化の力に満ちる梢を見上げていた。

 ちょうどそこへ爽やかな風が吹き抜けて、髪や衣服の裾を揺らしていった。



 湖畔のほうがにわかに騒がしくなった。

 振り返れば大きなシートが敷かれて、ワイワイと商品を並べ始めているようだった。

「戻ろうか、バートン」

「さようでございますね」 

 連れ立って戻れば、湖で遊ぶナガレさんとオコジョさんと、夏の精霊たちとカワウソさんの姿が見えた。

 相変わらず元気に水上スキーを楽しんでいるね。


 露店では品物を並べるミディちゃんたちに混ざって、タックンと三人の妖精さんの姿が見えるよ。

「タックンのお兄さん夫婦とそのお子さんです。カミーユ村屋敷で働いていただきますので、のちほど顔合わせをお願いいたします」

「わかったよ」

 バートンの話では、昨日のうちにレン兄様と合っているそうだ。

 カミーユ村屋敷を見学してもらったら、三人は嬉しそうにしていたんだって。

「ハク様がお造りになった庭園も草花が咲き乱れ、たいそう美しく、感激していらっしゃいましたよ」

 バートンがにこにこと笑って教えてくれた。


「向こうの庭はオールドローズメインだけど、一季咲き品種はまだまだ咲いているだろうね!」

「ええ、村人も柵の外にあふれ咲くバラを見に集まって、さながら観光名所のようになっているのです。隣接します『精霊の森商会』でポプリを販売いたしましたところ、これが大盛況で、バラの香りの化粧品がないかと、問い合わせが来ているそうですよ」

 えぇ?

 いつの間にポプリを作っていたのよ?

「ビリーが毎日花がら集めをしていて、『もったいない』とつぶやいたのが切っ掛けのようでございます。ラビラビさんがポプリ作りを教えていたんです」

 へぇ。


 ポプリ作りに使うバラは、もちろん落ちる前の花びらだ。

 新鮮な花びらを、風通しのよい日陰で四~五日乾燥させれば出来上がりだ。

 しっかり乾かさないとカビが生えたりするからね。

 香りが足りないときはローズアロマを足したりもするけど、自然の香りを楽しむのもいいよね。


「ラビラビさんが村でもバラの栽培を始めてはどうかと提案されて、開花株を無人無料配布所に並べましたところ、大変人気となっておりました」

 それを聞いて僕は笑った。

「バラの手入れは大変だから、持っていった人たちは今ごろ悪戦苦闘しているんじゃない?」

「その辺はラビラビさんもよく考えられて、棘が少なく耐病性が強い、さらに四季咲きのバラを作っていたようです。なんでも定期的に浄化魔法をかければいいとか」


 ああそういえば。

 平民は生活魔法の浄化魔法が使える人が多いし、ラドクリフ領では流行病のときに、浄化石を各家庭に配っていたっけ。

 なんだ、そう考えれば、手はかかるけれど扱いにくいものではないのかな?

「いつかルーク村が、バラの名所になったらおもしろいかもね!」

「それは素晴らしいお考えです」

 バートンが目を細めてうなずいていた。


「バラすきー」

「ぼくもー」

「かおりもすきー」

「きれいー」

「棘が刺さると痛いけど!」

 ユエちゃんの言うことはもっともだね!

 精霊さんたちはキャッキャと手を叩いて喜んでいたよ。

 その様子に、僕とバートンは目を細めて笑った。



 湖畔に戻れば、ダルタちゃんが走ってくるところだった。

「一年ぶりニャ、ハク! 兄さんたちがいないニャ!!」

 挨拶もそこそこに眉を下げて言うことがそれなの?

「クロちゃんシロちゃんは今ダンジョンに行っているの。数日もすれば戻ってくるから、そのうち会えるよ。ダルタちゃんたちもしばらくここにいるんでしょう?」

「そうニャ! しばらくお世話になるニャ!」

 パッと表情を明るくしたダルタちゃんが、僕の手を引いて露店に連れていく。


 大きなシートにはさまざまな品物が並んでいて、すでに父様とイザークが魔導武器を物色していた。

 魔道具コーナーにはラビラビさんが陣取り、いろいろ吟味しているようだった。

 魔導武器や魔道具の類は専門の説明が必要なので、ダルタちゃんはそっちに走っていってしまったよ。

 僕とバートンは笑ってその背を見送った。


 ルシア様とマーサとリリーは、布や小物やアクセサリー類をじっくり見ているね。

 すでに糸の山が寄せられていた。

 チラホラとハイエルフさんたちもやってきているようで、ブランさんとルカさんとライさんは興味津々で、魔導武器の説明に聞き耳を立てている。

 里長のスフィルさんはいつかの女性魔導士さんと一緒に、織物をまとめ買いするみたい。

 妖精界のまじないが込められた不思議な織物は人気だね!

 魔導士のエルさんはラビラビさんの横にしゃがみ込んで、ふたりで何やらコソコソ話をし込んでいるよ。

 また変な物を見つけたのかな?


 僕はバートンと精霊さんたちと一緒に、小物を見て回る。

 精霊さんたちはおもちゃやぬいぐるみを、一生懸命選んでいた。

「これ、ピッカちゃんと、セイちゃんにー!」

 黄色と青い何かを掲げ持ったグリちゃんに、ユエちゃんが声をかけている。

「あのふたりは、すぐにぬいぐるみを破いちゃうよ?」

「う?」

 グリちゃんがユエちゃんをキョトンと見上げれば、クーさんとフウちゃんもうなずいていた。

 黄色と青の何かを握りしめたグリちゃんがしょんぼりしていると、ポコちゃんが音が鳴るボールを差し出してニッパーと笑った。

「これ! みんなで、あそぼ~!」

 それを受け取ったグリちゃんが上下に振ると、中に仕込まれた鈴が鳴るようで、すぐに笑顔になっていた。

 精霊さんたちみんながキャイキャイと喜んでいる。

 ふふふ、かわいいねぇ。

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