第50話 第五階層ともおさらば!

「さて、ニイニイちゃん! 少し私と遊ぼうか!」

 アル様に呼ばれたニイニイちゃんが、僕のポケットから飛び出していく。

 ピョンピョコ飛んでアル様の肩に上る。

「いいかい、この杖の先に雷撃を集中させておくれよ?」

「ニイニイ!」

 ニイニイちゃんは嬉しそうに弾むと、アル様の杖を持つ手先に飛んで、短い手足を出してガッチリしがみついた!

 えぇ!

 いつの間にそんな形態を身につけたのよ!?


 僕が目を丸くしている横で、アル様が楽しそうに笑っている。

 杖の先がパチパチと放電を始めた。

 タイミングを計ってアル様が魔法を放つと、一気に雷撃がほとばしった!!!


 轟音とともに雷が折れ曲がりながら中空を走り、大型の大足鳥に落雷している!

 感電した大足取りは、その衝撃で宙に浮かび上がった!?

 バリバリ放電しながら真っ黒に焦げついて、やがてそのまま塵になって消えていくんだ。

 雷撃は大気の中を移動して、隣の大足鳥にも感電している。

 若干の時差はあったけど、三羽の大足鳥が瞬く間に倒れて消えたよ!!

「おお! ニイニイちゃん、凄い威力だねぇ!!」

「ニイニイ!!」

 普段役に立つことがないニイニイちゃんは、活躍することができて凄く嬉しいみたい。

 興奮気味にピョンピョコ飛び跳ねていた。

 アル様も一緒に戯れながら喜んでいる。

 この一人と一匹は、混ぜてはいけない気がする……。



 そんなことを何回か繰り返しているうちに、大足鳥の数が徐々に減って終わりが見えてきたころ。

 ついに大足鳥の王が姿を現した!

 体長十メーテにも及ぶ巨大な鳥だけど、首から頭が細いので、実際の圧迫感はそんなに感じないかな?

 大足鳥王は目を真っ赤に染めて、大股で仲間を踏み潰しながら、一直線に向かってきている!

 吹き飛ばされ宙を舞う大足鳥が憐れに思えた。

 ワニもそうだったけど、もうちょっと仲間に対する情とかないのかな?


 大地に砂煙を巻き上げながら迫る大足鳥王に、勇ましく立ち向かうのはジジ様だった!

 僕の視線の先三百メーテ付近で、両者が相見あいまみえる!?


「ウオォォォォッ!!!」

 ジジ様の勇猛な雄叫びが大気を震わせ、ここまで聞こえてくるんだよ!

「クエェェェェ~~ッ!!」

 大足鳥王も負けてはいない!

 一瞬あとに両者が激突!?

 ジジ様の緋色の大剣が唸ると同時に、大足鳥王が一刀両断にされて、呆気なく決着がついた――――。


「なんだい! おもしろくもなんともないじゃないかッ!!」


 地上でカレンお婆ちゃんが地団駄を踏んで激オコだった。

 刀を振り回し、転がっている大足鳥を細切れにしているよ。

 ケビンはヤジを飛ばしていた。

 なんて大人げない。

 ソラタンの上ではアル様も、「つまらないねぇ」と口を尖らせている。

 当然のようにジジ様も激怒していた。

「なんたる軟弱!? もっと強敵はいないのかぁぁーーッ!!!」

 空に向かって絶叫していた。


 僕的には簡単に終わってとってもラッキーだけどね!


 雑魚を殲滅し終えた一行は、魔石と素材を回収して先へと進んだ。

 真っ直ぐ草原を進んでいくと、第六階層へと続く階段を発見したよ!

「お家へ帰れるかな?」

 僕が明るい声で叫べば、アル様が「転移ポータルがあればね」とつぶやく。

 えぇ~?

 まさか休みなく第六階層には行きたくないよ……。

 心底嫌そうな僕の顔を見て、アル様は大きな声で笑っていた。


 その騒がしい声を聞いても目を覚まさない、メエメエさんには驚きだよね。

「いやいや、図太いねぇ!!」

 アル様が愉快そうに、メエメエさんのお腹をポンポコ叩いていた。

 羊から狸に進化しそうで怖いね!

 

 第五階層の奥にはちゃんと転移ポータルがあったよ!

 あ~よかった、よかった!

 なんやかんやいっても、第一階層から第五階層まで踏破してきたわけだから、それなりに疲労が蓄積しているでしょう。

 特にスイさんとケビンとイザークとか。

 いったん戻ろうということになったので、僕は精霊さんたちと万歳をして飛び跳ねたよ!

 その喜びように、大人たちは苦笑していたけどね!


 何事も無理は禁物。

 ゆっくり休み休み攻略していこうね!



 早速お屋敷へ戻れば、「まぁ、薄緑の衣装も素敵ですわね!」と、マーサが褒めてくれた。

「え~? 無事に帰ったことを喜んでくれないの?」

 僕が口を尖らせて首をかしげると、マーサは破顔して両手を広げた。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま! 無事に戻られてマーサは嬉しいですよ」

「うん! ただいま、マーサ!」

 遠慮なくマーサの胸に飛び込んで抱きついたよ!

 優しい温もりに包まれて、僕もやっと肩の力を抜いたんだ。

 

 そのあとはバートンにも抱き着いて、精霊さんたちも順番にハグしてもらっていたよ。

 マーサもバートンも本当に嬉しそうに笑っていた。

 ここが僕らの心安らぐ場所なんだよ!



 その日は温泉に入ってゆっくり疲れを癒やした。

 夕飯をお食事処で食べていると、ラビラビさんが軽い足取りでやってきた。

「ああ、ここにいらっしゃいましたか! 昨日からダルタちゃんとドリーちゃんがいらしてますよ! 明日の午前中にアッシュシオールの湖畔で露店を開きますから、是非いらしてくださいね!」

 用件だけ告げると、「あ~、忙しい! 忙しい!!」とつぶやきながら、ラビラビさんはテッテケ走って行ってしまった。


 しばらくすると、今度はメエメエさんが幽鬼のような顔をして、フラフラと飛んでくるんだよね。

 ポトリと落ちるように僕の側に座ると、大きなため息をこぼしていた。

「どうしたのよ? 陰気な顔をして」

「陰気とは酷い言い草ですね! ですが聞いてくださいよ! あの第五階層は宝箱が出なかったんです!? こんなことってありますか? あんなに苦労して踏破したというのに!」

 メエメエさんはハンカチで目頭を押さえ、「ううう」と泣いていた。

 マジで泣いているようだ。

 宝箱に対する執着が凄いね……。


 言われてみれば、王級の魔物を五体倒してきたけど、確かにそれらしいドロップ品はなかったね。

「ねぇ、もしかして、あの階層にはボスがいないとか? それとも階層が広過ぎて、ボスのいる場所に至っていないだけかもよ?」

 僕はバニラアイスを食べながら、適当なことを言ってみた。

 するとメエメエさんが顔を上げ、「それだ!」と叫んだよ。

 すっかり涙も渇いたみたい。


 正直、第五階層は敵の数が多いだけで、僕がいてもいなくてもよかったと思うんだ。

「ジジ様やカレンお婆ちゃんは暴れ足りないみたいだったから、新たな討伐メンバーを募って、宝箱探しにでも行ってみたらいいんじゃない?」

 参加者がいればの話だけどさ。

 メエメエさんはパッと表情を明るくし、元気に飛び上がった。

「それはいい考えです! そうと決まればお祖父様に相談してみましょう!!」

 メエメエさんは風のように飛んでいったよ。

 その背を見送り、僕はのんびりとアイスを食べて満足した。



 翌日、ジジ様率いる討伐隊が編成され、朝早く出発していったんだよね。

 ジジ様とカルロさんとアル様に、カレンお婆ちゃんの道連れにされたキース、ケビンとルイス、さらにロイおじさんが参加していた。

 もちろんクロちゃんシロちゃんに、空飛ぶジュータン・メエメエ号に乗ったメエメエさんと、ミディ部隊二隊が同行している。

 今回ハイエルフさんの同行がない分は、ラビラビさんの武器と『モクモク君三号DX』で補うらしい。

 そういえば、すっかりその存在を忘れていたかも!

 あれを使えば、あんな大群に襲われなかったんじゃないかな?


 次は最初から使うようにしようと、僕は心に誓った。

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