第46話 第五階層 川からワニ!

「このテントを畳むと元どおりに復元されるようだから、たぶん大丈夫だろう?」

 他力本願も甚だしい内容を、さも当然のように語っている父様に驚いた。

 僕にとっては新事実だった。

「え、そんな高機能テントだったの? 初耳だよ!」

「んん? ハクは寝起きに部屋を掃除していないだろう? 起き抜けの布団そのまま、ここを来ているだろう?」

 父様が不思議そうに僕を見ていた。

 言われてみれば、一度も畳んだことがないね。

 今だってそのままになっているはずだ。


 次に寝泊まりするときは、いつでもきれいにお掃除されて、真新しいフカフカの布団が敷かれているよ!

「何げに高機能なテントなんだね!」

「今ごろかい?」

 父様が大きな声で笑っていたよ。

 イザークは精霊さんたちにポンチョを着せながら、横で感心したように聞いていた。

 

 クーさんがイザークに突撃して、「かみ、むすんでー」と、青地に白いラインが入ったリボンを差し出している。

 ユエちゃんとフウちゃんは、お花のモチーフがついた髪留めを自分でつけていた。

「はいはい、お姫様。ここにお座り」

 イザークは胡坐の片膝を叩いてクーさんを座らせると、見事な手際で左右に三つ編みを作り、仕上げにリボンを結んでいたよ。

「ほい、出来上がり!」

「ありがとー!」

 輝く笑顔でお礼を言うと、イザークのほっぺにチュウしていたよ。

 イザークも嬉しそうに目を細めていたね。

 ちっちゃい子を見守るお父さんの目になっている。

 僕と父様は一連の流れを、ほほ笑ましく見守っていた。


 それからみんなで朝食の準備をするよ。

 父様の話では、現在別のウサウサテントにアル様とジジ様とカルロさんが、ワンワンテントにエルさんとスイさんが、ニャンニャンテントにはケビンとカレンお婆ちゃんが休んでいるそうだ。

 ミディちゃんたちは、それぞれのテントに別れて彼らをサポートしている。

 この四つのテントを並べて設置することで、結界の範囲が連結されて、外に出て移動できるんだってさ。

 ラビラビさんのテントも日々進化しているねぇ。

 そのうち内部の移動が可能になったりしてね。


「さぁ、まずは朝食にしよう! 一時間後には出発だぞ」

「は~い」

「は~い!」

 僕と精霊さんたちはそろって返事をした。

 今日の朝食はホットサンドと野菜スープ。ミルクとフルーツを添えて。

 見ればメエメエさんがボサボサの頭で、ホットサンドメーカーを魔石コンロに複数並べていた。

「私だけ寝過ごしました!」

 プリプリ文句を言いながらも、せっせとホットサンドメーカーをひっくり返しているので、そっと浄化魔法を飛ばしておいたよ。


 イザークが野菜スープをカップによそい、全員に行き渡ったところで、そろって食べ始めた。

 すぐさま精霊さんたちから「おかわり」の声が上がり、メエメエさんは自分も食べながら、せっせとホットサンドを焼いていた。

「やれやれ、落ちついて食べられやしない!」

 口では文句を言いながらも、職人のような手つきでひっくり返している。

 まめまめしいね。

 イザークが苦笑しながら手伝っていたよ。


 ちなみにクロちゃんシロちゃんは、朝から骨付き肉をガツガツと食べていた。

 精霊さんたちも第四階層で取れた鳥のローストレッグをかじっている。

 相変わらずの豪快な食べっぷり!

 僕はフルーツを多めに食べようかな~。

 もちろんミルクを飲むのも忘れないよ!

 この一杯が明日の成長につながるはずだから!!



 食事を終えて装備を整えれば、いざ出発のとき。

 今日は薄緑で全身コーデを決めてみた。

 というか、一式セットでクローゼットに用意されていたんだよね。

 デザインも少しずつ違って、今日はちょっと裾が短めだよ。

 外套にはきれいな植物の図案が施されているけど、この中に防御の魔法陣も刻まれているそうだ。

 フウちゃんが飛んできて、「いっしょ~! むふー!」と笑っていたよ。

 同じ色だから嬉しいみたい。

 そう言えば、ほかの子たちと同じ色の服もあったから、次はまた違う色にしようかな?

 みんなもきっと喜ぶよね!


 そんな姿を見たアル様も喜んでいた。

「やぁやぁ、森の民のような衣装だね! なんとも懐かしい配色だ!」

 エルフは緑系の服装が多いみたい。

 ハイエルフさんたちも、「いい色だ」と言って褒めてくれたので、僕はフウちゃんと一緒に「むふー」していた。



 テントの外の河原を見れば、魔石やら素材がたくさん転がっているね。

 夜のあいだにバンバンぶつかって消滅したんだろう。

 見れば急流のあちこちに見え隠れする、大きなワニの姿。

 どうやらこの辺はワニゾーンのようだね。

 テントの結界の外にも、どんどん集まってきているのが見えるよ。

「しかし、本当に物量で押してくる階層のようですね」

 メエメエさんが頭部モフ毛を整えながら、呆れたようにつぶやいていた。

 僕も朝から憂鬱な気分になってくるよ。


 このままでは出られないということで、弓術スキルの保持者たちが一斉に矢を放っていく。

 ほかの面々は狙いを定めて単槍を飛ばしていた。

 ケビンが物凄い勢いで何本も飛ばしているわけは、昨夜カレンお婆ちゃんと一緒のテントで、散々こき使われた腹いせらしい。

 ケビンとイザークでジャンケンをして、負けたほうがカレンお婆ちゃんの下僕と化すようだ。

「いや~、俺はジャンケンに強いみたいで!」

 イザークがいい笑顔で三本の矢を一気に放っていたよ。

 肝心のカレンお婆ちゃんは、ミディちゃんをひとり抱っこして、「かわいいねぇ~」と頭をなでていた。

 それを見たシルルちゃんが、単槍を投げる父様の頭にしがみついている。

「どうした、シルルちゃん?」

 父様は頭の上に手を伸ばして、シルルちゃんを気遣っているね。

 その様子を見ていたジジ様とアル様が、嫉妬の炎を燃やし「ぐぬぬ」していたよ!

 なかなか相性のいい子に出会えないんだね……。



 周辺のワニをやっつけ終わると、手早くテントを畳んで移動する。

 もちろん魔石と素材の回収も忘れない。

「ワニ肉です! しかもこの大きな塊はなんですかッ!」

 メエメエさんがワニ肉に向かってキックしていた。

 ワニ肉は鶏肉に近いと聞くから、その辺で不満が爆発しているようだ。

「次は魔牛の集団だといいな」

 ボソリと父様がつぶやいていたよ。

 うん!

 魔牛はおいしいから、みんなも大好きだよ!

 村人に配給しても大喜びされるもんね!


 僕とメエメエさんとエルさんがソラタンに乗って、ほかのみんなは巨大化したニャンコズに分譲して川を渡った。

 ワニが何頭か大口を開けていたけど、その口はニャンコズの巨大な足に踏まれて、無惨にも真っ二つにされていたよ……。

「なんか踏んだニャ」

「チクッとしたニャ」

 ワニの牙が刺さってもチクッと程度だから、巨大ニャンコズは頑丈だよね。


 対岸に渡るころ、背後の急流が大きく盛り上がっていた!

 口だけで五メーテもありそうなワニが、水の中から生まれてきたよ!?

 この水そのものがワニの素になっていたりして?

 大きな水音を立てて浮かび上がるさまは圧倒的で、あふれ出した水が河原に大波となって押し寄せてくるんだけど、その水もまたワニに姿を変えていく!!

 ソラタンはワニの射程範囲から速やかに離脱し、ニャンコズは上空高く跳躍していた。

「濡れるのは嫌ニャ!」

「水がワニになったニャ!」

 シャーッと毛を逆立てていた。

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