第45話 第五階層 魔狼王戦決着!
森の奥から真っ黒な巨体の魔狼が、咆哮を上げて迫ってくる。
矢が魔狼の右足のつけ根に刺さっても、ものともしないで突っ込んでくるんだ!
風魔法の刃に切り裂かれても、その速度は衰えることがない!!
明らかな怒りの感情を剥き出しにして、周囲の木々を薙ぎ倒してでも、一心不乱に突っ込んでくるさまは、異様にさえ感じられた!
その圧倒的な迫力に、僕は目を見開いたまま動けなくなっていた。
僕の横を父様とスイさんとケビンが駆け抜けていく。
迫り来る魔狼王に一番先に肉薄したのは、日本刀を持ったカレンお婆ちゃん。
大地を蹴って風のように舞い上がると、魔狼王の頭上で一回転しながら日本刀を振るっていた。
疾風の刃が巨大な魔狼王の肩口を切り裂き、大量の血飛沫を上げている!
バランスを崩した魔狼王は、耳をつんざく咆哮を上げ、口の端から泡を吹き出しながらも、スピードに乗ったままこっちに迫ってくる!
そのギラギラと赤く輝く双眼には、ありありと憎悪の色が浮かんでいた。
なんか、完全に僕を見ている気がするんですけど!?
がむしゃらに後ろ足で地面を掻き、パックリと割れた傷口から大量の血を吹き出している魔狼王。
グリちゃんがその勢いを止めようと、魔狼王の身体にツタを巻きつけ、ポコちゃんが重力操作で上から圧迫して抑え込み、完全に失速させた!
地面に頭を押さえつけられる形になった魔狼王は、凄まじい咆哮を上げて
そんな魔狼王の背後に着地し、すぐさま飛んで返したカレンおばあちゃんは、大地を掻く後ろ脚をあっさりと切断していた。
魔狼王に追いついた父様たちが、それぞれ急所めがけて剣を突き刺していく!?
一連の動きはスローモーションを見るようで、だけどそれは一瞬の出来事で――――。
ガアァァァァーーッッッ!!!!!
周囲の木々を揺らすほどの断末魔を上げて、魔狼はついに絶命した。
やがてその亡骸は塵となって霧散し、あとには静寂だけが残される――――。
息を止めていた僕の背中を、アル様がポンポンと叩いた。
「もう大丈夫だ。力を抜いて深呼吸しなさい。……ああ、そうだ。それでいい」
穏やかな声と、背中を叩くリズムに合わせて、呼吸を整えていく。
僕はようやく身体の力を抜くことができたけれど、まだ手は冷たく小刻みに震えていた。
そこへピッカちゃんが飛んできて、僕のお腹に飛びつくと、優しい光で温めてくれたんだ。
僕の横に座っていたメエメエさんも、緊張が解けたのか、ソラタンの上にパタリと倒れ込んでいた。
「いやはや、手に汗握る緊迫感でした! 羊な私は汗をかきませんが!!」
その言葉にアル様とエルさんが笑っている。
背後に戻ってきたジジ様とカルロさんも苦笑していた。
クロちゃんとシロちゃんはネコ型に戻ると、ソラタンの上に軽やかに乗り込んでくる。
「疲れたニャ」
「ダンジョンの魔物は地上のものより
ニャンコズの身体が汚れていたので浄化魔法をかけてあげれば、グリグリと僕の脚に頭を押しつけてくる。
労いの気持ちを込めて、それぞれの頭をなでてあげた。
ああ、ここまで来るだけで、気力がどっと失われたよ……。
この階層も、まだ半ばだというのにね……。
まずはここを離れようということになり、少し進むと広い川に出た。
見通しの良い河原にウサウサテントを出して、今日はここで休憩することにしたんだ。
よく考えたら、第一階層から休みなく第五階層まで来たから、地上ではとっくに夜だよ。
朝から働き詰めだったんだ。
遅い夕食を食べているあいだに眠くなってきて、ウトウトする僕を父様が支えてくれた。
「食べるのをやめて、今日は寝てしまいなさい」
「……は~い……」
のろのろと食器を置いて立ち上がろうとすると、シロちゃんがトコトコやってきて、僕のお腹の下に潜り込み、そのまま一気に身体を大きくして僕を持ち上げてくれた。
「運ぶニャ」
素っ気ない言葉に中にも、なんとなく温かいものを感じる。
そのままシロちゃんに運ばれてお布団に潜り込むと、抱き着いたまま眠っちゃったみたい。
朝目が覚めると、相変わらず僕の回りは精霊さんまみれだった。
腕の中にはネコ型のシロちゃんとクロちゃんが丸まって寝ていたよ。
部屋の中を見回せば、壁際にニイニイちゃんとモモちゃん用の袋がぶら下がり、足下に置かれたカゴの中でメエメエさんが眠っていた。
珍しく僕の上で寝ていないね!
まぁ、人様の上で寝ることのほうがおかしいんだけど。
ああ、昨夜は着替えもしないで寝ちゃったから、白装束が皺だらけになっているよ。
髪もなんだかベタベタするので、朝だけどシャワーを浴びようかな?
僕が動き出すとみんなも起き出して、目をこすって大きな欠伸をしている。
「僕はシャワーを浴びてくるから、もうちょっと眠っていていいよ?」
声をかければ、みんなは小さくうなずいて、座ったまま頭をコックリコックリさせていた。
ふふ、かわいいね。
小部屋から出れば父様とイザークが起きていた。
「おはようございます。シャワーを浴びる時間はありますか?」
「おはよう。まだ早いからゆっくり準備しなさい」
父様が笑顔でうなずくと、イザークも声をかけてくる。
「おはようございます。坊ちゃん着替えを持ちましたか?」
あ、忘れたかも。
慌てて小部屋に戻れば、壁に小さなクローゼットが設置されていた。
開ければパステルカラーの服が並んでいたので、今日は薄い緑色の装備にしよう!
毎回真っ白じゃ飽きるもんね!
着替えを持ってシャワー室に飛び込めば、小さなネコ足の浴槽が増設されていた!
しっかりお湯を張ってくれているよ!
手早く髪と身体を洗って湯船に浸かれば、朝からリラックス効果満点だよね。
カラスの行水でお風呂から出れば、脱衣所で精霊さんたちがせっせと服を脱いでいた。
「みんなも入るの?」
「はいるよー!」
「かみベタベター」
「ふくも、こうかん!」
そんなことを口々に
ちびっ子精霊さんたちだけで大丈夫かな?
なんて考えていると、「クチッ」とくしゃみが出たので、慌てて身体を拭いて服を着込む。
タオルで頭を拭きながらリビングに飛び出し、イザークに精霊さんたちのことを伝えた。
「グリちゃんたちだけでお風呂に入っているけど、大丈夫かな?」
イザークと父様が顔を見合わせて、小さくうなずき合った。
「まずは坊ちゃんの髪を乾かすのが先ですね」
イザークは風魔法で手早く僕の髪を乾かし、フカフカのタオルを載せると、お風呂場に向かって歩いていった。
「どれどれ、おチビさんたちの様子を見てきますか」
イザークは頼りになるね!
しばらくすると、肌着姿のちびっ子軍団が、ワーッとリビングに飛び出してきた!
みんなはイザークに髪を乾かしてもらったらしく、フワフワになっていた。
父様が笑顔でコップを差し出せば、両手に持ってゴクゴクと聖水を飲んでいるよ。
プハーッといい笑顔で父様にお礼を言って、おかわりをもらっていた。
「ハクもお飲み」
「は~い」
僕も精霊さんたちと一緒に並んで座り、水を飲み干した。
そのうちイザークが戻ってきて、困ったように笑っている。
「湯場が結構ヤバいんですけど、あのままでいいんですかい?」
聞けばどこもかしこもアワアワなのだそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます