第43話 第五階層 哀れなケビン
途中で向こうからも魔法が飛んできていたみたいだけど、精霊さんたちの活躍の前に霞んでしまって、記憶に残っていない。
ふと見れば、ゴブリン魔術師はジェネラルの背後で、杖にすがりついて地面に膝をついていた。
肩が激しく上下しているところを見ると、どうやら魔力枯渇を起こしているようだった。
顔は緑色なので、顔色で判断がつかないけど。
アル様が素早くアイスランスを飛ばして、あっさり倒していたよ。
「やぁやぁ! 魔力は無限ではないのさ! 使いどころを間違えばああなるから、ハクも気をつけるんだよ?」
「ハク様は無限に近い魔力の持ち主です! あんな無様な姿をさらす前に、体力が尽きて倒れますからッ!!!」
メエメエさんが大声で反論していた。
褒めて落とされた僕の眉間に青筋が浮かび、反射的にメエメエさんのモフモフ頭をグリグリしていた!
おのれ、メエメエさんめ!
「ぎゃーーっ!?」
今さら後悔しても、もう遅い!
アル様だけではなく、ほかの面々も大笑いしていたよ。
意図せず緊張が解れたね!
精霊さんたちによる雑魚掃除が終わると、ジジ様が叫んで走り出した。
「あとはわしに任せろ! ゴブリンキングはわしが討つ!!!」
そのあとをカルロさんがピッタリと追っていく。
さすが主従だ! 息ピッタリは、阿吽の呼吸だね!
「だったらあたしは右のジェネラルをもらおうか」
カレンお婆ちゃんは刀を斜めに持ったまま、忍者のように音もなく走っていった。
メッチャ早いね!
「では左は私が受け持とう」
父様が敵に向かって、力強く走るその背がカッコイイ!
「中央は……」
ケビンが前に出ようとしたその瞬間。
背後から三本の魔法矢が鋭く飛んで、真ん中のジェネラルに命中したよ!
敵は一歩も動くことなく、前方に傾いて地面に衝突する瞬間に、憐れ塵となって消えた。
ジェネラルが立っていた場所を、今まさにジジ様が
そのあとには大きな魔石と大剣だけが残されていた。
「瞬殺だったね……」
「そうですね」
メエメエさんは興味なさそうに返事をしていた。
空を見ればジェネラルを射抜いた三本の矢が、放物線を描きながらこちらへ戻ってくるのが見えた。
それを目で追えば、イザークの矢筒にストンと納まった。
ケビンが「ぐぬぬぬぬ!」と、鬼の形相でイザークを睨んでいたけど、当の本人はとっても涼やか。
「開けた場所で遠距離にいる敵なら、俺の出番でしょう?」
弓を掲げてみせたイザークの意見はもっともだ。
危なげなく、
「やぁやぁ、魔法矢の威力は素晴らしいね!」
アル様がイザークの肩を叩いていたよ。
その横ではハイエルフのスイさんとエルさんがイザークを褒めている。
「いい腕をしていますね」
「ああ、君は鷹の目スキル持ちかい?」
イケメンの回りにはイケメンが集い、弓矢に関する談議が始まっていた。
ポツンと佇むケビンが不憫になったのか、優しいグリちゃんがお菓子を恵んであげていたよ。
「グリちゃんだけは俺の味方だよな? な!」
ケビンがハグしようとしたけれど、グリちゃんは一瞬早くケビンの包囲網から逃げ出して、僕の胸に飛び込んできた。
「よしよし。怖かったでしゅねー」
グリちゃんを抱きしめてあげれば、キャッキャと笑顔になっていた。
残されたケビンの悲壮感たるや。
それを見ていたメエメエさんがポツリ。
「憐れなものですねぇ…………。あとでラビラビさんに『愛されポーション』でも作ってもらってください」
んん?
そんなポーション作れるの?
「まぁ媚薬に近いですね? ケビンさんが急にモテ出したら、周りが不審に思うかもしれませんけど」
そうね。
イザークだったら違和感ないけど。
馬鹿にされていることがわかっているケビンは、メエメエさんに向かってメッチャ顔をしかめていたよ。
メエメエさんも口の端を引っ張って、舌を出してベロベロしていた。
もう、どっちも子どもっぽいんだから!
「どっちもどっちだねぇ」
アル様が周辺の残党狩りをしながら、楽しそうに笑っていた。
なんてくだらないことをやっているうちに、ゴブリンキング戦が終わっていた。
ハッと気づいたときには、ジジ様の歓喜の雄叫びが聞こえて、見れば魔石と王冠と大剣が落ちていたんだ。
うっかりジジ様の活躍を見逃してしまったよ!
思わずキョロキョロと空を見上げれば、そこに録画担当のミディちゃんを発見した!
おお!
あとで動画を見せてもらおう!
カレンお婆ちゃんと父様は、疲れた様子もなくこっちに手を振っているね。
何はともあれ、無事にゴブリン種の討伐を終えて、ホッと安堵の息をついた。
そのときふと、思い出したんだけど。
「ねぇ、クロちゃんシロちゃんはどこに行ったの?」
今ごろと思ってはいけない。
「そういえば、途中から姿が見えませんね?」
んん?
最初に駆け出して行ってから、まったく目撃していない気がするよ?
僕とメエメエさんが首をかしげていると、向こうの森の奥から恐ろしい獣の鳴き声が聞こえてきた!
木々が爆発し倒れる音まで聞こえるよッ!!
全員がそっちに顔を向け、「行くぞ!」と叫んで走り出していた!
今しがた戦闘を終えたばかりなのに、みんな元気だねぇ……。
ニャンコズのことだから大丈夫だと思うけど、僕らも急いであとを追った。
ゴブリンキングがいた草原を抜けると、今度は森に入る。
といっても適度に光が入っている森で、
「浅い森だな……。こういった森には角ウサギやボア、狼などが出ますぜ」
背後で追走するイザークが教えてくれたけど、さすがにまた角ウサギは出ないんじゃないかな?
それはおいといて、マッピング画面を見てみよう。
この先でニャンコズと無数の赤マーカーが、激しい戦闘を繰り広げているみたい!
近づくほどに激しい戦闘音が聞こえてくる。
森という場所柄とネコ科の聖獣ということで、敵に取り囲まれても不利な状況にはなっていないようだ。
青いふたつのマーカーが森の中を縦横無尽に走り回り、確実に敵を撃破しているのがわかる。
木々を足場にして、地上の敵を倒しているようだ。
だけどここでも次から次へと敵が湧いてくるので、ニャンコズも徐々に形勢不利になってきているのかも……。
急いで追いつけと、全員が全力疾走していた。
うっかりソラタンから浮き上がったメエメエさんは、僕の腰につながれたロープのおかげで、風に翻弄されながらも飛んでいくことはないようだ。
ソラタンは周りの速度に合わせて、斜めになったりしながら木々を避けて飛んでいくんだけど、絶対に離れないとはいっても、それなりに重力とか遠心力を感じるんだよね~。
ほら、森は木々の間隔が狭くて、先が見通せないでしょう?
ソラタンが手前の木を華麗にかわしても、その先で激突しそうになって、慌てて直角に曲がったり、真横に垂直になったり、うっかりS字を描きながら進んで、途中一回転することもあった。
ソラタンも必死なのか、まったく乗り手のことを考えていない。
重力に従って横に倒れていく身体を、横を飛んでいたポコちゃんが押さえてくれたよ!
「ありがとうね、ポコちゃん!」
ポコちゃんはニッパーと笑ってうなずいていた!
背後でイザークが笑っていたけど!!
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