第42話 第五階層 僕は応援隊
前を行くアル様とエルさんが、それぞれ魔法を放ちながら笑っている。
「やぁやぁ、後ろで気の抜ける会話はやめておくれよ? こっちに集中できなくなるだろう? そ~れっ!!」
アル様が無数の風の刃を放ち、三体のホブゴブリンをバラバラにしていた!
「本当に、君たちといると楽しいですねぇ」
エルさんは土の槍を地面から無数に生やし、複数のホブゴブリンを串刺しにしていた。
うえぇ……、うっかりそっちを見なきゃよかったよ……。
ちょっぴり僕の心がしおれちゃった。
そんな僕らの前方では、戦闘が激化しているようだった。
汚いホブゴブリンの悲鳴やら、魔法や斬撃の爆発音が凄まじい。
林の木々が何本か一気に倒れていくのが見えた。
ジジ様や父様たちが、攻撃魔法を放ちながら剣で斬り伏せているようだ。
あっちでは『モクモク君三号DX』の煙が立ち昇っているね。
ホブゴブリンは紫の煙を避けて逃げ惑い、周りを巻き込んで何体かまとめて転倒していた。そこへアル様の魔法攻撃が襲う!
ちょっと哀れな感じがしないでもない?
「どうやら襲ってくるホブゴブリンの数が、尋常ではないようですね」
メエメエさんのつぶやく声に導かれ、僕はマッピング画面に目を落した。
周辺がほぼ赤マーカーで埋め尽くされ、仲間の青マーカーが分断されているのがわかる。
ときどき扇状に赤マーカーが消えて、無数の緑マーカーに変わるのは、ジジ様が剣でひと薙ぎにしているんだと思う。
「この階層はホブゴブリンが最下級かよッ! うっぜぇッ!?」
ケビンがメッチャ悪態をつきながら、ホブゴブリンを足蹴にしているのが見えた。
タブレット型ポーションをかじりながら、危なげなく戦ってはいるけど、木々のあいだにホブゴブリンがひしめき合って、次から次へと湧いてくるので埒が明かない。
数の暴力の前には、単身で挑むケビンが不利になる。
イザークも周囲に近づくホブゴブリンを射抜くのに忙しい。
カルロさんも僕から少し離れた場所で応戦していた。
あぁ!?
その奥に、ホブゴブリンより大きなゴブリンの影が!
林の木々より上に、頭部があるじゃないッ!?
「メ、メエメエさん、どうしよう大きな個体が奥からやってくるよッ! こ、ここは浄化魔法を打ってみる? それとも雷の杖のほうがいい?」
おどおどと声をかければ、メエメエさんがあっさりと答えた。
「何もしなくていいと思いますが……。もれなく仲間も感電してしまいますよ? そんなハク様は、きっと一生恨まれるでしょうねぇ」
えぇ!
ため息交じりで言うことがそれなの?
それは困るよ!?
僕はみんなのアイドルなんだから、嫌われちゃ駄目なの!!
メエメエさんが口元を蹄で隠しながら、横目でわざとらしく、「シラ~」とつぶやいていた。
その嘲りを含んだ視線は何よ?
思わず腰のロープを外そうとすれば、今度はメエメエさんが慌てていた。
コホンとひとつ咳払いして。
「まぁ、大丈夫でしょう。あの程度ならお祖父様の一撃必殺です!」
メエメエさんの言葉と同時に、ズドォーーンッ!! と爆音が響いて、林の木々が暴風で揺れたよ!
バシバシ木の枝や葉が飛んでくるけど、バリアーを張っているから大丈夫!
あれはジジ様ではなく、アル様が風魔法を放ったようだ。
周辺の木々もろともホブゴブリンを一瞬で吹き飛ばし、背後にいる巨大ゴブリンに向かって飛んでいき、ドミノ倒しになっていた。
「ワーッ! メッチャ自然破壊~!!」
思わず叫んだ声が聞こえたのか、アル様が大笑いしていた。
「大丈夫だ! ここはダンジョンだから、すぐに元通りさ!」
いい笑顔で、今度はアイスランスをバンバン飛ばしていたよ。
そんなアル様の肩には、なぜかモモちゃんが止まっていたんだ!
「いや~! モモちゃんのサポートがあれば、アイスランスも大盤振る舞いできるのさ! そぉ~れっ!!」
幾重ものアイスランスが前方に向かって飛んでいった!
ふと見れば、僕の側でクーさんが腕組しながら、ほっぺをぷーと膨らませている。
「ももちゃん、とられたーっ!」
ご機嫌斜めさんだった。
そんなクーさんを呼んで頭をなでてあげれば、すぐに輝く笑顔が戻ってきたよ。
いい子いい子。
モモちゃんはあとで、モフモフおにぎりの刑に処してあげなさい。
されるほうもするほうも、ご褒美だけどね!
エルさんを見れば風魔法で、ホブゴブリン集団を八つ裂きにしていたよ!
笑いながら殺戮を繰り返しているところは、アル様と似たり寄ったりだね!
前方のジジ様や父様はいつもどおり、豪快に危なげなく戦っている。
カレンお婆ちゃんは木々を足場に、軽業師のように跳躍して、ラビラビさんお手製の日本刀でバッサバッサと斬り伏せていた。
剣豪スキルと言っていたけど、無駄のない動きで一撃で
お婆ちゃんカッコイイ!
精霊さんたちも瞳を輝かせて見ているよ!
地上を走るスイさんも流れるような動きで、ホブゴブリンをサクサク倒していた。
魔法と剣を見事に使っているね!
「俺もあれくらいはできますぜ」
背後でイザークが謎の主張をしていた。
「イザークは僕に近づく魔物を、弓矢で瞬殺しちゃってね!」
「へいへい」
後衛がいるからこそ、僕はのんびりしていられるのさ!
僕と精霊さんたちは、みんなの応援に力を注ぐよ!
小一時間もすると、林が切れた先にぽっかりと開けた場所があって、そこに無数のホブゴブリンを従えたゴブリンキングがいたッ!!
「ジェネラルが三体いますね! その陰に魔術師らしきものも!? ――皆さん、中ボス戦です! 心してかかってください!!」
メエメエさんが叫んでいた。
たぶんみんなわかっているから、叫ばなくてもいいのにね?
のん気な僕ら以外の面々は、タブレット型ポーションをガリボリかじって、蓄積された疲労を回復させているようだ。
最終戦に向けて、気力も魔力も十分かな?
ちょっと目つきがヤバい感じだけど!
すでに雑魚と化したホブゴブリンの数が多いので、ここは精霊さんたちにホブゴブリンの一掃をお願いしよう!
「でっかいのはジジ様に残してあげて! 適当にみんなの魔法で周りのホブゴブリンを蹴散らしちゃってね!」
「わかったーーっ!」
七人の精霊さんが拳を天に突き上げて、かわいいお返事をしている。
「とう!」と叫んで一斉に飛び上がると、地上に向かって魔法を放った!
ポコちゃんが土魔法で敵を大地に固定し、身動きが取れないようにしている!
そこへセイちゃんの火の玉が無数に落ちて、フウちゃんの風の刃が吹き荒れる!
そこへクーさんが大雨を降らせれば、何ていうかグチャグチャドロドロ状態に!!
仕上げにグリちゃんが周辺の植物を動かし、瀕死のホブゴブリンたちを容赦なく呑み込んで、見る見る緑の大地へ変えていく。
ちゃんと魔石は葉っぱの上に押し上げているから、芸が細かいねぇ~!
ピッカちゃんは輝く太陽になって光合成を助けていた!
ユエちゃんは残った魔石を影の世界に引きずり込んでいる。
「なんか、ボクって地味だよね!」
ブツブツ文句を言っているけど、気にしたら負けだよ。
何もしていない僕とメエメエさんに比べたら、立派にお仕事をしているんだから、自信を持っていいよ!
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