第41話 第五階層 緑の集団襲来!
見渡す草原に魔物の気配はない。
おそらく林に隠れているのだろうと、ジジ様が教えてくれたよ。
念のためと言って、階段部分に浄化石をひとつ置いていくことにした。
第四階層のときみたいに階段が消えると、心理的負担が大きいものね。
「相反する清浄の力である浄化石を消滅させるには、このダンジョンとて多少は時間がかかるだろう。……まぁ、たいした期待はしていないが、ちょっとした保険だね」
アル様がそんなことを言っていた。
やっぱり閉じ込められるのは、誰だって嫌だよね。
今回は草原から林ということで、クロちゃんシロちゃんを先頭に、全員がばらけて進むことになった。
僕はソラタンに乗って地上二メーテくらいの高さを飛んでいく。
のんびりしていられたのはそこまでで、間もなく林に入ったところでニャンコズが反応を示した。
動物の感覚器官は人間よりも優れているから、反応が素早いね。
マッピング画面に目を落とせば、
僕の位置からは魔物の正体が見えないけれど、ニャンコズが音もなく一気に駆け出し、木陰に潜む影を急襲していた。
「ギャッ!」と叫ぶ魔物の声が聞こえる!
ジジ様とケビンと父様、スイさんとカレンお婆ちゃんが、剣を持って走り出していた。
アル様とエルさんの魔法使い組は、様子見をしているようだ。
カルロさんとイザークは、ソラタンの背後を固めてくれている。
精霊さんたちはソラタンの回りを取り囲んでいるよ。
ミディ部隊は邪魔にならないように、上手に立ち回ってくれるだろう。
遠くの木々の合間から、戦闘音が聞こえてきたけど、すぐに音はやんだ。
息を殺してドキドキしていると、木陰から父様が顔をのぞかせ、「ゴブリンだぞ!」と言っている。
えぇ?
ここでファンタジーの定番魔物、ゴブリンが登場なの?
「本当におかしなダンジョンだねぇ?」
僕は思わず首をかしげてしまった。
ゴブリンって、第一階層とかその辺の定番魔物だよね?
「上位種がいるぞ! 油断するな!」
直後にジジ様の鋭い声が響き、周囲にいる面々の顔つきが変わった。
本格的な戦闘モードに切り替わり、ヒリつく緊張感の中、僕は脳内つぶやきをやめた。
ついでに口も塞いでおこう!
「ふむ、それでは我々も行こうか。ハクの前後は我々が守りながら進むが、ソラタンの周辺にバリアーを張りなさい。ミディちゃんたちもその中に入っているんだよ?」
「はい」
アル様に言われて強力バリアーを広めに張れば、すぐにミディ部隊が入り込んでいた。
精霊さん七人とミディ部隊十二人の大所帯だけど、彼らはバリアーの出入りが自由にできるから、臨機応変に活動してくれるだろう。
これで安心だね!
アル様とエルさんが林に入り、ソラタンに乗った僕も遅れずに進む。
イザークは弓に矢をつがえながら、いつでも放つ準備を整え、僕の背後を警護してくれている。
少し遅れて後ろをついてくるカルロさんは、相変わらずの無表情で、どっしりと構えている感じだ。
彼らもバリアー内の出入りは自由だよ。
「ねぇ、メエメエさん。ゴブリンの上位種って何?」
緑色をした小柄なゴブリンは見たことがあるよね?
「マーレの帰り道で見たあれは、一般的なゴブリンですね。全体の七割強は雑魚ですが、残りの三割弱が結構厄介なんですよ」
メエメエさんの説明を引き継ぐように、後ろからカルロさんが教えてくれたよ。
「一般的なゴブリンが人間の子どもサイズなら、その三倍以上の大きさのものがホブゴブリンです。ほかには魔法を使う者や、呪術を扱うものもいます。指揮権を持った大型のジェネラル、さらにキングが存在します。――――それらの上位種は、上級冒険者パーティーでも手を焼く魔物ですので、ゴブリンとひとくくりに侮ってはいけませんよ」
ほうほう!
カルロさんが長いセリフをしゃべったよ!
僕と精霊さんたちは素直にコクコクとうなずいた。
先を行く父様たちが今遭遇しているのは、どうやらホブゴブリンの集団みたい。
木々のあいだにチラリと見えたホブゴブリンは、大柄なジジ様や父様よりもふた回りくらい大きかった。
ソラタンの前方を行くアル様とエルさんが、左右に魔法を放っている。
ずっと先のほうからいろんな音が聞こえてきて、正直この先に進みたくないなぁ……。
なんてことを考えているとき、突然横の木々のあいだから、ホブゴブリンが大きな棍棒を振り上げて襲いかかってきた!
僕がその存在を視界に捉えたときには、イザークが刹那に矢を放ち、ホブゴブリンの脳天を見事に射抜いていたんだ!?
ホブゴブリンはその場にドウッ!と倒れ伏し、やがて塵となって消え、矢と魔石が転がり落ちるだけだった。
その間たったの数秒の出来事。
わぁ、肝が冷える一瞬だったね!
ドキドキしたよ!
「脳天を一撃とは見事な腕前ですね!」
メエメエさんが蹄をカチカチ打ち鳴らすと、イザークは片手を挙げてメエメエさんの声援に応えていた。
イケメンだけに、仕草がカッコイイね!
イザークが放った矢は間もなく飛んで戻ってきて、スポンと矢筒に納まっていたよ!
凄く便利な矢だね!
ホブゴブリンの魔石は三センテくらいの大きさで、ミディちゃんがサッと回収していた。
僕とメエメエさんはそれをのん気に眺めている。
「思ったより大きくないね?」
「雑魚ゴブリンに比べればかなり大きいほうですよ。もっとも、ホブゴブリンは上位種の中では数が多いですから、レア度は低いですね。持っている武器も価値の低い、錆びた鉄剣や石の鈍器が多いです。稀に品質の良い武器を持つ個体もいるそうで、そういったものはホブゴブリンの中でもさらに上位となるそうです」
へぇ、メエメエさんも物知りだね。
「ええ、事前調査はバッチリなんです! 褒めてもいいですよっ!!」
すぐ調子に乗って踏ん反り返るんだから。
あ!
今度は三体同時に襲いかかってきたけど、カルロさんに易々と斬られちゃったよ!
それにしてもホブゴブリンは見た目が緑の大男で、キモいのに変わりはなかった。
異臭を放っているしさ!
「大きさや姿が多少違っても、種族的にはみんなゴブリンです。ゴブリン皆、異臭兄弟!」
メエメエさんが叫んでいた。
変な標語を作らないでね?
それにしても、林の中だとソラタンが自由に飛べないよね。
木々に阻まれて、身動きが制限されてしまうんだ。
林の上空に逃げることは可能だけど、その先に別の魔物がいるかもしれないから、迂闊に上昇することもできないよ。
だってほら、南の森で襲ってきた大コンドルンとか……。
メエメエさんも周囲を見回してうなずいていた。
「この先ゴブリン以外の魔物が襲ってくるのは確実です。上空に出て仲間とはぐれるのも危険ですから、このままソラタンの操縦に任せましょう! ですがご安心ください! ソラタンは絶対にハク様を振り落としませんッ!!」
頭上に両手を振り上げ、熱弁を振るうメエメエさん。
ちょうどそこで、前方の木を避けたソラタンが急カーブすると、運の悪い黒羊が背後へ転げ落ちていったよ。
ちゃんと掴まっていたほうがいいんじゃない?
「あ~れ~~!?」
落下したメエメエさんをイザークが片手でキャッチし、ため息をついて僕にポイッと放り投げてきたので、仕方なく受け取っておいた。
メエメエさんは「ぐぬぬ!」しながら、どこからともなくロープを取り出して、なぜか僕の腰と自分の腰を縛っていた。
「一蓮托生デッス!」
ちょっと、縁起でもないことを言わないでよ!
思わずメエメエさんを手で押し退けてしまったよ。
メエメエさんの足がまたソラタンから離れたけど、ロープのおかげで飛んでいくことはなかった。
「酷いデッス!!」
いやいや、もっとちゃんとして?
そんなやり取りを見ていたイザークは呆れ、カルロさんは口の端を上げていた。
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