第39話 ダンジョン引率?

 いきなり湖が天高く水飛沫を上げて、割れたことに驚いたアル様が、猛スピードでこっちに向かって走ってくる!

 その形相が凄くて、ブランさんとルシア様が驚いていた。

 僕の前でピタリと止まると、瞳を輝かせて叫ぶアル様。

「何をしたんだねッ!?」

 顔は笑っているけれど、目が血走っていて怖い!

 僕の手を両手できつく握りしめるのはやめて!!

 降参した僕はすぐに刃のない刀剣を手放した。


「宝箱に入っていたの! ほら刃がなくて柄に魔法回路のようなものが刻まれているでしょう? もしかして魔法を込めたら刃のようになるんじゃないかと思って!」

 ほら、光の刀剣とか、あれを想像したんだよ。

 口に出しては言えないけど。

「おお! 素晴らしい! 今込めたのは浄化魔法だね!! 浄化魔法で深い湖の底を露わにし、対岸の木々を切り倒すとは、魔法の威力だけで押し斬ったのかね?」

 さすがにそこまでは僕にもわからないよ。

 だって本当に軽く振り下ろしただけだもん!


 メエメエさんが面倒臭そうに、アル様の背中を押していた。

「属性魔法を込めて、あの甲羅で試し切りでもしてはいかがですか?」

「おお、それはいい!」

 アル様は喜色満面で「ヒャッハーッ!」と走っていってしまった。

 僕らからしたらいつものことだけど、初見らしいブランさんとルシア様はドン引きしていた。

 アル様を見る目が、今後変わらないことを祈ろうね!


 気を取り直して、ほかのお宝も見てみよう。

 向こうから騒音が聞こえるけど無視だ、無視!

「ほかのお宝はノコギリとツルハシとハンマーかな? ドワーフが喜びそうだね?」

 それも特殊な金属が使われているのか、刃の部分に青い波紋が浮かんでいる。

「そうですね。あのカメの解体や加工に使えそうです」

「ああ、なるほどね」

 あのダンジョンは意地が悪いけど、討伐者にはそれなりの報酬を与えてくれるんだね?

 まぁ、普通はあの甲羅を丸ごと持ち帰れる冒険者はいないと思うけど。

 ダンジョン的には大赤字だったりして!


 ふと見れば、メエメエさんがお宝を寄せたあとの財宝の上に寝ていた。

「…………」

 みんなの無の視線がメエメエさんに注がれる。

 目を閉じて「むふむふ」笑っているメエメエさんは気づかないので、僕はそっと宝箱のフタを閉めておいた。


「お宝はあとでちゃんと、ハイエルフさんにも配分するから安心してね!」

 笑顔でブランさんに告げておいたよ。

「お、おう……」

 ブランさんの口元が若干引きつっていたね!


 そのあとは、のんびりお茶とおしゃべりを楽しんで、三時くらいに冷えてきたのでお開きとなった。

 メエメエさんが入ったままの宝箱は、ミディちゃんが植物園に運んでいったよ。



 後日、ジジ様と父様とヒューゴが駆り出され、甲羅の解体が本格的に始められた。

 あの柄だけの刀剣は予想どおり、レーザーのように頑丈な甲羅にメスを入れることができた。

 ツルハシも見事に食い込み、ハンマーで打ち砕き、ノコギリはチェーンソーのような働きをした。

 甲羅の素材研究はラビラビさんとエルさんが進めている。

「新たに強力な武器が開発できそうです!」

 ラビラビさんの目が充血していた。

 いつもだけど。


 アル様は刃のない刀剣に刻まれた、魔法回路の研究を進めているよ。

 おかげで次のダンジョンアタックの日程は未定になった。

 まぁ、ゆっくり開発してください。

 武器が強力になればなるほど、ダンジョンの攻略が捗るだろうし、ジジ様が落ち着くと思うんだ。

 そのジジ様はカルロさんと一緒に、肉体強化に勤しんでいた。

 もっと高みを目指して日夜自らを鍛えている。

 のんびり木陰で休んでいる僕とは大違いだね!

「少しは体力をつけてくださいよ」

 メエメエさんにお小言を言われたけど、人はそんなに急には変れない。


 そんな感じでのほほ~んとしているあいだに、一週間が経っていた。

 その間の記憶があまりない。

 精霊さんたちと遊び惚け、一週間を無為に過ごしてしまったようだ。

 ちょっと反省。

 

 ある日そんな僕のところへ、ケビンたちがやってきたんだ。

 ロイおじさんやカミーユ村にいるテオ&ライリーもいるね。

 どうしたの?

 キョトンとして見上げたら、全員がそろって僕に頭を下げた!

 ええッ!!

 何事なのッ!?

 すると代表してケビンが口を開いた。


「坊ちゃん! 俺らをまとめて第三階層まで引率してくださいッ!!!!!」


 えええぇぇぇーーッッ!?


 話を聞くと、レイスとスケルトンはつまらないらしい。

 リッチにも挑んでみたけど、決定打に欠けるのだそうだ。

「確かに第一階層でチマチマ討伐する方法も間違ってはいません! ですが飽きるんです! こう、俺たちの闘争心が、もっと先へ行きたいと騒ぐんですッ!!」

 ケビンが珍しく敬語で訴えているよ!

「下の階層へ行くためには、すべての階層の踏破が必要なのは、どこのダンジョンでも同じですからね。ポータルまでは進めておいたほうが、後々便利だと思うんです!」

 イザークが真摯に訴えてくるよ。

 イケメンパワーに押される僕!

 白い歯がキラリと光ってまぶちーっ!?

「交代で第一階層チマチマ作戦は続けるッス! だから転移ポータルまで引率してほしいッス!!」

 ルイスはいつもと同じ調子だった。

「俺らも関わっておきたいので、一緒にまとめてお願いします!!」

 テオ&ライリーが頭を下げる後ろで、ロイおじさんが腕組をしてうなずいていた。


 えぇ~~ぇ?

 あの臭くて汚い階層に、また行かなきゃいけないの?

 僕と精霊さんたちの眉が過去最大で八の字になったよ!

 だけど彼らの熱意も、言いたいこともわかるにはわかるんだ。

 ぐぬぬぬぬ!


 僕は大きな声で叫んでいた。

「まずは父様の了解を得て! それからクロちゃんシロちゃんを説得して! あそこは臭過ぎて、ニャンコズの鼻が曲がっちゃうんだよ!!!」

「了解ッス!!!!!!」

 全員が低い声で叫ぶと、一目散で離れのほうに駆けていった。

 騎獣のニャンコズが首を縦に振らなければ、絶対に踏破できない階層だからね!

 きっとクロちゃんシロちゃんは簡単には応じてくれないよ!

 獣の嗅覚には耐え難い臭さだったからね!


 僕って天才!


 そう思ってのんびり構えていたら、三日後に装備をつけられて、神輿のように担がれてダンジョンへ向かうことになった。

 僕の恨めし気な視線に父様が何度も頭を下げていたよ。

「私も一緒に行くから、ハクも頑張ろうな? な?」

 むぅー!

 口を尖らせる僕を、なぜか精霊さんたちが励ましてくれた。

「またくさいのやっつけるー!」

「うめるよー!!」

「おみず、ぶっかけるよー!」

「ピカってやるよー!」

「ふきとばすよー」

「素材の回収に徹します!」

「あいあい!」

 そのやる気はどこから来るの?

 メンバーは僕と精霊さんたちと、ニャンコズとメエメエさん。

 父様と我が家の従士(ケビン・イザーク・ルイス・テオ&ライリー兄弟)とロイおじさん、カレンさんの背後に、項垂れるキースと涙目の双子ユノとノアがいた。

 ここまではまぁいい。

 なぜかそこに、レン兄とリオル兄も混ざっているんですけど。

「やぁ、この機会を利用しない手はないだろう? 転移ポータルに履歴を刻めば、いつでもどこでも行けるからね!」

 レン兄の笑顔がまぶしかった。

 目がショボショボしてきたよ……。

「安全に楽していけるこの機会を有効利用するのさ」

 リオル兄はケロッとそんなことを言っていた。

 なんて図々しい!!

 口には出さず、心の中でつぶやくだけだけど。


 ダンジョンの聖堂には、ハイエルフのスフィルさんとスイさんとルカさんまでそろっていた。

 ねぇ、連絡網とかできていないよね?

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