第38話 宝箱の中身は

 到着するなりアル様が駆け寄って、「さぁさぁ、ここに出しておくれ!」とせっついてくる。

「じゃあ、皆さん離れてください。そうですね、二百メーテ四方くらい?」

「そんなにかッ!?」

 実物を見ていないスイさんとルカさんが、目を剥いて驚いていた。

 きっと現物を見たら飛び上がるんじゃないかな?

 ほら、エルさんとライさんとアル様が、悪い笑みを浮かべているよ?


 はいはい!

 スキル倉庫さん、サクッと吐き出しちゃおう!

 上空に魔法陣が現れると、そこから巨大な甲羅が降臨してきたよ!

 そう、ゆっくり下りてくるさまは、なんだか神々しささえ感じるんだ。

 ハイエルフさんたちは口を開けて呆気に取られているようだ。

 スキルさんはゆっくり慎重に甲羅を地上に下ろしてくれた。

 それでも地面に着地する衝撃は凄まじく、大きな音とともに僕らは浮かび上がり、砂埃がモウモウと巻き上がった。


 どこからか「キャピッ!」というざわめきが聞こえてきた。

 ラコラたちがそろってこっちをガン見していたよ。

 みんな同じ顔をして口を開けているので笑ってしまった。

 僕はラコラたちに向けて、口の前に人差し指を当てると、ラコラたちは一斉に口を押さえてクルリと背中を向けていた。

 頭の葉っぱが忙しなく揺れているけどね!

 

 埃が収まると、アル様が一目散で甲羅の中へ飛び込んでいった。

 メエメエさんも「ズルいです!」と叫んで、一拍遅れて追いかけていく。

 宝箱目指して競争だね!

 僕はまったり湖畔で休もうか。

 ほら、バートンが湖畔にテーブルセットと、パラソルの設置を終えているよ。

 スミちゃんのほかにも、この辺にいたミディちゃんたちが手伝ってくれたみたい。

 バートンがニコニコ笑ってお礼を言っていた。


 この辺はまだ若干風が冷たいので、バートンは羽織り物を肩にかけてくれた。

「身体を冷やさないよう、温かい飲み物にいたしましょう」

 バートンが気を使って、レモンティーを用意している。

 精霊さんたちにはオレンジジュースが振る舞われると、みんなはゴクゴクとおいしそうに飲んで、おかわりをもらっていたよ。

 もう、僕はまだ一口も飲んでいないのに!

 昨日頑張ったセイちゃんは、ちょっと目をとろんとさせながら、ゆっくりオレンジジュースを飲んでいる。

 モモちゃんとニイニイちゃんが、せっせと魔力の実をセイちゃんの口に押し込んでいた。

 甲斐甲斐しいその様子に、バートンも目尻を下げているね。


 僕が優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいると、ルシア様の邸宅からブランさんが飛び出してくるのが見えた。

 巨大甲羅に走っていこうとするのを、すぐにルシア様に注意されている。

 渋々立ち止まって振り返ったところで、うっかり僕と目があった。

 すぐさま方向転換して走ってくるんだよね~。

 バートンが用意してくれた熱々のスコーンに、蜂蜜をたっぷり載せて食べれば、ほっぺが落ちるようにおいしい。

 指がベトベトになってもやめられないんだよね!


「お~い、ハク! あれはなんだ! 凄く大きいぞ!!!」

 走ってきたブランさんが興奮した様子で叫んでいる。

 そのあとを追ってきたルシア様が、そんなブランさんをたしなめていた。

「まぁ、ブラン! きちんとご挨拶なさい!――――こんにちは、ハク君、バートンさんも」

 僕とバートンには優しい笑顔で挨拶してくれたよ!

「こんにちは、ルシア様、ブランさん」

「ごきげんよう。良いお天気でございますね」

 バートンはにこやかに挨拶し、ふたりに席を勧めていた。

 ブランさんは座るとすぐにスコーンにかぶりついて、またルシア様に叱られていたよ。

 まぁ、肝心のブランさんはどこ吹く風だけどね。


「あれはなんの魔物だ! あんな大きなものは始めてみるぞ!」

 ブランさんがはしゃぎながら指差すほうを見れば、宝箱と魔石が引っ張り出されるところだった。

 その魔石の大きさたるや、立っているアル様の腰くらいまでもあるんだ!

「わぁ、大きな魔石だねぇ!!」

「さようでございますね! あのような大きさの魔石は私も初めて拝見いたします!」

 バートンも目を真ん丸にしていたよ!

 ブランさんとルシア様も目を見開いて驚嘆していた。

 精霊さんたちは魔石には見向きもせず、スコーンもモリモリ頬張っているけど。

 もう、みんな口の回りが蜂蜜やジャムでベットリだよ!

 僕はおかしくて笑ってしまった。

 みんなもニッパーと笑うので、バートンとルシア様もほほ笑んでいたよ。

 ブランさんだけは、あっちに夢中なようだけど。


 ソワソワと落ち着かないブランさんに、僕は簡単に説明をした。

「あれは巨大なカメの魔物だよ。あの甲羅が硬くて、どうやって解体しようか考えているところじゃないかな?」

「そんなにかッ!」

 パッとこっちを見たブランさんの瞳が、少年のようにキラキラと輝いていた。

 女の子なのに、好奇心の塊みたいだよね。

 僕とは真逆だよ……、ふふ。

「危ないから近づいちゃ駄目だよ?」

「邪魔になるから近づいちゃ駄目よ!」

 僕とルシア様が被っちゃったよ。

 僕とルシア様は「うふふ」と笑い合い、ブランさんだけが憮然とした表情を浮かべていた。


 ミディ部隊とメエメエさんが、大きな宝箱を持って僕らの側にやってきた。

「まずは宝箱を確認しましょう! 開けますよ、皆さん!」

「アル様とハイエルフさんたちはあっちにいるけどいいの?」

「いいんです! 許可はもらってきました! あちらの皆さんは解体のことしか頭にないんです!!」

 そうなの?

 見れば確かに、甲羅を叩いたりして、素材を確認しているみたい。

「ちなみにオリハルコンではありませんでした!」

「さすがにオリハルコンのカメなんて、高額過ぎて尋常じゃないよね? 色も黒いしさ」

「そうですね!」

 僕とメエメエさんの会話を聞いて、ルシア様は口を押さえて笑っていたよ。


 ブランさんが興味津々で見守る中、棺ほどの大きさの宝箱が開かれる。

 相変わらず、金銀財宝がビッシリだね!

 太陽の光を受けてまばゆい輝きを放っていた!!

 目がチカチカするよ!

 メエメエさんが金貨をブランさんとルシア様に見せている。

「へぇ、これが人間の貨幣なのか……」

「さすがに三百年前とは違うわねぇ……」

 ふたりは妙に感心していたよ。


 金銀財宝はともかく、今回のお宝は、刃のない柄だけの刀剣だった。

 持ち手に装飾がない代わりに、細かな文様が刻まれている。

 のぞき込んだブランさんが、ガッカリした表情でつぶやいた。

「何これ? 刃がなければ使えないじゃない!」

 普通に考えればそうだけど……。

 僕の前世の記憶がうずいたよ!

「ちょっと触ってもいい?」

「はいどうぞ」

 僕が立ち上がってメエメエさんから受け取ると、テーブルから少し離れて、湖のほうに向かって柄を構える。

 僕の想像が間違っていなければ……。

 あえて浄化魔法を柄に流してみた。


 すると握りしめた柄の先に、白い光の刃が現れたんだ!

 おお!

 これって前世で見たアレだよね!!

 僕が湖面に向かって軽く白光の剣を振るうと、湖面が水飛沫を上げてスッパリ割れた!

 対岸まで届いたそれは、向こうの木々を何本か切り倒していたよ!!

「ワオ! 湖の底に道ができましたッ!!!」

 メエメエさんが絶叫すると、ミディ水精霊の子たちがおもしろがって飛んでいく。

 やがて水は重力に従って落ちるわけで、ドドーンと大きな音を立てて水の壁は崩壊した!!

 水精霊さんたちは大きく波打つ湖面で木の葉のように翻弄されながら、キャラキャラと楽しそうに笑っていたよ。

 いろんな意味でドン引きしちゃうね!



 ***

 某ビスケットが無性に食べたくなりました!

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