第36話 第四階層 キリリ精霊ほのぼの隊!


「そもそもカメの甲羅って肋骨が変化したものなんだよね? 南の森で大蛇と戦ったときみたいに、内側への攻撃が効くんじゃないかな?」

 思いつきを口にすれば、メエメエさんが僕を見てうなずいた。

「まぁ、そうです。問題は頭と手足を引っ込めてしまうと、内側への攻撃が難しいってことですね。皆さんもそれで攻めあぐねているんだと思います」

 マッピング画面を見れば、ミディちゃん視点の戦闘シーンが中継されていた。

 僕のスキルは便利過ぎ!


 見れば確かに、アル様とエルさんが甲羅の隙間をめがけて魔法を放っている。

 ジジ様たちも属性魔法をまとわせた武器で攻めているけど、細かい傷はついても、致命傷には至っていない。

 巨大カメはなんというか防戦一方な感じで、自ら攻撃しようとはしないんだよね。

「ダンジョンの魔物なのにやる気がないよね?」

「言葉のチョイスに疑問を感じますが、巨大カメにしてみれば、人間など取るに足らない小虫に思えているんじゃないですか? 圧倒的な対格差は容易には埋められません」

 うん、凄く大きいもんね。

 例えるなら、人間とアリくらい差があるんじゃないかな?

「敵が小さ過ぎて、円盤のように飛んで攻撃する必要がないんだね!」

「そもそも飛ばないと思いますけど! そこから離れましょうよ!!」

 えぇ~?

 

「じゃあ、あの無数の大きな棘はなんのためにあるのよ? あれで地面を掘って潜るとか?」

「穴を掘るのに必要ですか?」

「さぁ?」

 キョトンと首をかしげて答える僕に、メエメエさんは大きなため息をついて、視線を前方に戻していた。

「このままでは、こちらが疲弊するだけですね。何か対策を考えないと……」

 僕のことはまるっと無視して、ブツブツとつぶやいていたよ。


 そこへセイちゃんが飛んできた。

「ぼく、いくー?」

 メエメエさんは「ふむ」とうなずいた。

「そうですね。蒼炎の温度は、炉の温度よりも高いはずでしたね。セイちゃんの最大出力を一点集中でぶつけてみますか?」

「それならアル様たちにはいったん引いてもらってよ。人間は一瞬で蒸発しちゃうと思うから」

「そうですね」


 メエメエさんは最短距離にいるミディちゃんに連絡を取っていた。

「簡単な連絡が取れるように、カードを持たせてあるんですよ」

 メエメエさんが取り出した連絡カードを見る。

 青色の『作戦決行!』『応援要請!』カード。

 黄色の『一時退却!』『怪我人発生!』カード。

 赤色の『緊急事態発生! すぐ戻れ!』『助けてメエメエさん!(有料)』カード。

 緑色の『ご飯ですよ! とっとと戻りやがれ!』カード。

 気になるものもあるけれど、短い言葉で意味が伝わるようになっているね。

「『助けてメエメエさん!(有料)』カードはどんなときに使うのよ?」

「平身低頭で私に願い乞い奉るときですね!」

 メエメエさんは踏ん反り返っているけれど、絶対誰も使わないと思う。

 見なかったことにしよう。

 


 しばらくすると、クロちゃんシロちゃんに乗って、全員が戻ってきた。

 戻るなりジジ様は、「まったく歯が立たん!」と悪態をついていた。

 まぁまぁ、落ち着いて。

 いくらジジ様でも、あの巨大カメを両断するのは無理だと思うの。

 みんなは安全地帯近くの地面に座り込んで、ポーションを飲んでいた。

 そこへメエメエさんが飛んでいって、このあとの作戦を提案している。

「あの巨大カメに正攻法で挑んでも無理だと思います。時間が経てばまた地面に潜ってしまう可能性がありますよね? そこで、ここは一気にセイちゃんの超高温・蒼炎魔法を一点集中で照射してみようと思うのです! あの甲羅がたとえオリハルコンであったとしても、セイちゃんの最大出力魔法なら、穿つことができるのではないでしょうか?」

 さすがにオリハルコンはないんじゃないかな?

 伝説の光輝く金属だよね?

 あれ?

 まさかあの巨大カメ、自分の甲羅の重さで、身動きが取れないなんてことは……。

 そんなわけないよね~~、あはは~~。

 僕が能内ツッコミを入れている横で、真面目な話が続いていた。


「ふむ、仕方がないね。ここはセイちゃんに賭けてみようか?」

 アル様が顎をなでながら思案し、納得したようにうなずいた。

 そうと決まれば早速行動開始!

 セイちゃんとピッカちゃんとフウちゃんが、上空高く飛び上がった。

「ボクも付与魔法でセイちゃんを強化するよ!」

 ユエちゃんがすぐに追いかけていった。

 彼らは巨大カメの顔のほうに回り、百メーテの距離まで接近する。

 甲羅の中に顔を引っ込めている巨大カメは、彼らに気づいていない。

 相手がカメじゃなかったら、後方から攻撃するんだけどね!

「それもまた、哀れですね……」

 メエメエさんが無意識にお尻を押さえていたよ!


 ピッカちゃんが弱い光の線を出して、セイちゃんの蒼炎魔法がずれないように誘導する。

 フウちゃんは攻撃に集中するセイちゃんの護衛だ。

 ユエちゃんはセイちゃんに向けて、威力増強の付与魔法を放っている。

 もしも危険な状態になったときは、すぐにセイちゃんを抱えて離脱できるね!

 ちなみにポコちゃんとグリちゃんは、僕らの前方に待機し、万が一作戦が失敗し、巨大カメが襲ってきたときの防波堤になると意気込んでいた。

 水のクーさんは今回出番がないので、僕の膝に座ってなでなで担当だね!

 本人も嬉しそうにニコニコしているよ。

 かわいいね!


 アル様たちもポコちゃんグリちゃんの背後に待機している。

 ミディ部隊とクロちゃんシロちゃんも位置についた。

 いざ、作戦決行!

 

 ピッカちゃんのレーザーポイントが、真っ直ぐにカメの顔の穴に照射される。

 セイちゃんは両手の人差し指を前方で合わせ、指先に青白い炎を集中させる。

 遠く離れた安全地帯前からでも、その輝きが見えた!

 巨大カメも何事かと顔を動かし始めたそのとき。

 セイちゃんの指先から一直線に蒼炎魔法がほとばしった!!!


「おお! カッコイイ!」

 思わず手に汗握る緊張感の中で叫んでしまったよ!

「熱波が到達しますね! 危ないですからバリアーを張ってください! 熱いデッス!!」

 メエメエさんが横でうるさい。

 だけど確かに熱波が到達しているので、僕はバリアーを張った。

 前方にいる父様たちはと見れば、ポコちゃんの土壁が光と熱波を防いでいたよ。

 アル様もバリアーを張っているみたい。

 一安心だね!


「まぁ、いざとなったら神級ポーションをぶっかけて飲ませましょう!」

 メエメエさんは仕事が雑だよねぇ……。

「バリアーがもたないときは、クーさんお願いね!」

「まかせてー!」

 僕の膝の上でクーさんがガッツポーズをしていたよ。

 気合十分だね!


 あらためて視線を戻せば、焼けつくような音とともに、巨大カメの咆哮が響いて、この階層全体の空気を揺らしている。

 顔に向かって超高温の蒼炎が打ちつけられたら、いかに鉄壁の防御があれども、たまったものではないだろう。

 身体をよじろうにも、その巨体が邪魔をしている。

 巨大カメの下の大地までもが融け始め、ズブズブと足が赤いマグマの大地に沈む。

 それによってまた新たな激痛が巨大カメを襲うことになる。


 ゴのつく怪獣じゃなきゃ、あれはきついんじゃないかな?

「ノンノンノ~~ン! アウトーーッ!!!」

 メエメエさんが再び絶叫して、僕の目の前に踊り出た。

「前が見えないじゃない! どいて!」

 ベシッと手で弾き飛ばしておいたよ。

 大事なクライマックスシーンを妨害するなんて、メエメエさんって最悪だね!

「さいてー」

 クーさんにも冷たい目で見られて、メエメエさんはソラタンの端っこで打ちひしがれていた。

 そんなメエメエさんを見つめる、ニイニイちゃんとモモちゃんの目が憐みに満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る