第35話 第四階層 階層主転倒!
バビューンと超高速で、安全地帯に向かって飛んでいくソラタン。
あっという間に安全地帯の前に戻ってくると、左右からクロちゃんシロちゃんも全速力で走ってきた!
その背に乗るみんなの顔を見て、僕はホッと胸をなで下ろした。
全員無事みたい。
ニャンコズに乗った面々は、呆れたような、だけど楽しそうな顔をして降り立った。
アル様は満面の笑みで駆け寄ると、ソラタンの縁に腕を乗せ、まくし立てるように質問してくる。
それにはメエメエさんが「かくかくしかじか」、魔法の言葉で説明していた。
聞き終えるとアル様は大爆笑していたよ。
父様とライさんは呆れ顔で、ヒューゴとエルさんは苦笑したように、ジジ様とカルロさんはピッカピカの笑みを浮かべていた。
「やぁやぁ! 手段はどうあれ、結果は上々だねぇ! あの巨大カメの魔物を倒さなければ、どうしたってここからは出られないんだから、でかしたぞ、ハク!」
「ああ、やることは最初から決まっているんだッ! 気にしなくていいぞ!」
アル様とジジ様が、メッチャ楽しそうに笑っていた。
父様は頭を押さえていたけどさ。
振り返ってみれば、遠くで巨大カメが大暴れしていた。
メッチャ沁みているんだろうな~。
痛いんだろうな~。
「浄化魔法をかけたら、静まるかなぁ?」
うっかりつぶやくと、メエメエさんが首を振っていた。
「ただ単にきれいになるだけでは? 痛みが薄れれば、間違いなく怒りをぶつけに襲いかかってくると思いますよ?」
それは困るね!
僕はおとなしくしているよ!
「そう言って、うっかりの連続ですけどメェ……」
冷たい返しだねぇ…………、しょんぼりさんだよ。
僕が項垂れているあいだにも、アル様たちは作戦を練っていた。
「土属性のカメだねぇ。あの甲羅にはおそらく攻撃が通らないぞ」
「それこそ狙うなら、矢で目を射るくらいでしょうか? どこもかしこも刃が立たないような気がします」
「魔導武器しかないな! 火魔法でいけるか?」
「カメですから、氷魔法も効果があるでしょうか?」
大人たちはそんなことを話し合っていた。
「口から火を噴いたりして?」
ボソッとつぶやけば、メエメエさんにもう一枚マスクを追加され、ついでにモフモフアタックを食らった!
あうち!
ほら、可能性の問題であって、実際はどうかわからないよね?
するとアル様がそれを否定したよ。
「どうだろうね? あの様子だと、今は椿油粕の毒で目が見えていない状態だろう? 嗅覚や聴覚も怪しいんじゃないかね? 現状でなんらかの攻撃を受けたことは、あのカメもわかっているはずだ。だとすると、周囲に潜む得体のしれない敵に対して、怒りに任せて無作為に魔法攻撃を放ったとしても不思議ではないと思うが、
ほうほう!
アル様の洞察力に感心するばかりの僕。
メエメエさんも横でうなずいている。
「確かに、頑丈な甲羅と外皮は、鉄壁の防御力ですね。さらにあの大きさですから、魔法に頼らずとも、大抵の敵はひと踏みで終わりそうです!」
「そうなんだよ。あの大きさは厄介だねぇ……。天にそびえるあの巨大さは、私も初めて見るよ!」
リッチとかも十メーテ級で大きかったけど、その十倍はあるもんね。
僕が知っている大きな生物は、百メーテ級の水龍のナガレさんだけだ。
あの巨大カメは、水龍と同等の体長さで、横幅は比べるべくもない。
龍とカメを比べちゃ駄目だけどさ。
「さて、奴が正気に戻る前に、攻撃を仕掛けてみようか? なぁに、いざとなったら安全地帯に逃げ込めばいいのさ!」
アル様はカラカラと笑っていた。
メッチャ前向きだね!
それを合図に、クロちゃんシロちゃんの背に飛び乗ると、全員で戦いを挑みに行ったよ。
みんなの顔に悲壮感はなかった。
なんとなく、みんな楽しそうだね。
僕はソラタンに乗って、安全地帯のすぐ上空へ飛んだ。
ここからでも、巨大カメの姿がよく見える。
「皆さんの戦い方をよく観察しましょう。ミディ部隊は録画の魔道具を装備して、遠距離から撮影してください! 危険を感じたら全速力で戻ってくるのですよ!」
メエメエさんの合図で、ミディ部隊はワーッと飛び立っていった。
グリちゃんたちは相変わらず僕を守る陣形を維持したまま、魔力の実をモリモリ食べていた。
いつでもどこでも平常運転だね!
予想どおり、巨大カメには物理攻撃が効かなかった。
たとえ頭でわかっていたとしても、とりあえず剣で立ち向かっていくジジ様たち。
二足で立っている巨大カメの足をガンガン叩いているよ。
魔法を駆使しても傷つけることができないみたいだけど、巨大カメも痛覚はあるみたいで、片足を振り払うように振っていた。
だけども、巨大なカメさんよ。
その重量級の身体を、片足と尻尾だけで支えることができるのかい?
答えはノーだよね。
自らバランスを崩して、巨大カメは前方に向かって倒れた。
「カメが倒れるぞーーッ!!」
メエメエさんが叫んでいるけど、ここからじゃ聞こえないと思う。
「ほら見て、大丈夫だよ! みんな巨大カメの背後にいるからね!」
アル様たちだって、巨大カメの前側にいたら危ないってわかっている。
まぁ、運悪く仰向けに倒れたら、それはそれでカメが間抜けなだけだけど?
巨大カメはなんの抵抗もなく、重力に引っ張られて、そのまんまバターンと倒れた。
地面に腹から倒れ落ちる衝撃で、この限られた空間のすべてが揺れたんだ!
巨大カメ転倒の衝撃は凄まじく、全員が衝撃で吹き飛ばされていた。
爆風によってもうもうと巻き上がる砂煙と、容赦なく降り注ぐ土砂!
辺り一面が土色にかすんで何も見えなくなった!
だけどしばらくすると、それをものともせずに全員が立ち上がっていた。
砂煙が舞う中、彼らのシルエットが浮かび上がる!
巨大怪獣にたった七人で立ち向かうなんて、ジジ様たちカッコイイ!
人間なんて豆粒みたいなのに……。
それにしてもあのカメ、ジタバタと何しているのよ?
二度と二足で立ち上がれないじゃない!?
「カメは本来二足で立ちません。さっきの状態がおかしいんです!」
「そうだっけ?」
だってカメの怪獣は立つものだって、前世の記憶にインプットされているんだもの!
立ったまま敵の怪獣をヘッドロックしていなかったっけ?
「カメの身体からみると、物理的に無理ですね!」
そう?
メエメエさんの冷たい視線が突き刺さる。
そのまま黙って見ていたら、突如巨大な炎の球が飛んで着弾した。
だけどその爆炎でも巨大カメはビクともしない。
火魔法を一点集中で弱そうな外皮にぶつけているけど、巨大カメは素早く甲羅の中へ脚を引っ込めていた。
痛みは感じているのかな?
そのあとも水魔法・風魔法・土魔法を試しているけれど、これといって効果はないみたい。
「あ! 巨大カメの背中についていた岩が動いたよ!」
「岩飛びトカゲですね」
メエメエさんは僕の横でお茶を飲みながら、マッピング画面を勝手に開いてみていた。
「こうして詳しく観察しながら、敵の弱点を探っているのです」
ミディちゃんから送られてくる画像を、ポチポチ開いて観察していた。
ああ、そうね。
敵の弱点を探そうだっけ?
よし! 真面目に見るよ!!
「最初からそうしてください」
ピシャリと言われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます