第34話 第四階層 あぶり出し大作戦!

「危険かどうかわからないけど、眠れる獅子を起こせるかもしれないよ?」

「ほう?」

 僕の言葉にメエメエさんも興味を持ったみたい。

 そこでメエメエさんにコソコソ耳打ちしてみた。

 膝に座ったポコちゃんもちっちゃなお耳を寄せて、頑張って聞こうとしている。

 その仕草がかわいいねぇ。


「わっかりました~! おもしろそうなのでやってみましょう!」

 メエメエさんが飛び上がって叫んだよ。

「ソラタン、全速前進! 目的地はふたつの班の中間地点がいいでしょう!」

 うん。

 アル様とジジ様の二班は、左右に向かっているから、僕らは真っ直ぐ前進しよう。

「あっちの小山の辺りがいいかも!」

 なんて言葉に出した瞬間に、僕が指差す先に向かって、ソラタンは全速力で飛んだよ!

 グンッと引っ張られて、うっかり足が離れそうになった!

 咄嗟にポコちゃんが腕を掴んで支えてくれたんだ!!

 土精霊のポコちゃんは力持ちだからね!

 ふと見れば、メエメエさんが後方に吹き飛んでいたけど、自力で飛べるから大丈夫だよね!

 ほかの精霊さんたちも、慌ててソラタンを追ってきていた。

 次からはちゃんと伝えてから発進しなくっちゃね!


 間もなく目的地上空へ到着。

 精霊さんたちも遅れて到着。

 メエメエさんだけは、「いきなり発進するなんって!!」と、お冠だった。

 そんなメエメエさんは放っておいて。


 久しぶりに、スキル倉庫さん、出番ですよ!

 小山の上空に魔法陣が現れる。

「ソウコちゃん! ここに椿油粕を全部バラ撒いてください! 在庫一掃セールだよッ!!」

 その言葉に反応して、バラバラとアラレのように椿油粕が降り出した!

 僕はすぐにフウちゃんに指示を出す。

「フウちゃんは風で満遍なく飛ばしてくれる? 散布量が均等になるように!」

「いいよ~」

 笑顔とともに、のん気な声が返ってきたよ。

「ほかのみんなは、応援を頑張って!」

 笑顔で告げると、みんなはフウちゃんに声援を送っていた。

 膝のポコちゃんも、「がんばれ~! フウちゃん!」と声を張り上げている。

 なんだか運動会の応援みたいでほっこりするよね~。


 どれだけため込んでいたのか、椿油粕の雨は数分間降り続いた。

 最後の欠片が落ちるころ、魔法陣の奥から『不良在庫完売ひゃっほ~いっ!』と言う声が聞こえたよ。

 思わずホロリと涙がこぼれそうになった。

「ソウコちゃん、ありがとうね~!!!」

 僕は消えゆく魔法陣に向かって、万感の思いを込めて叫んだ。

 横ではメエメエさんが、「シラ~」としていたけどさ。


 一仕事終えて戻ってきた、フウちゃんの頭をなでなでする。

「ムフー」とご機嫌さんだね。


「お次はクーさんにお願い! この一帯に集中豪雨を降らせてくれる? 無理なら区画を決めて順番に回ってもいいけど?」

 小山ひとつ分だから、ちょっと荷が勝ち過ぎるかな?

 けれどクーさんはふんすと鼻息も荒く、拳を握っていた。

「だいじょぶ! おおあめ、いくよーっ!!」

 叫んで大きな雨雲を呼び出すと、一気に大雨を降らせたんだ!

 ドーッと音を立てて降る雨に、先の景色が見えないくらい!

 ワオ!

 凄い集中豪雨だね!

「椿油粕が溶けて、泡立ったものが地中に浸透すれば十分だよ!」


 地表を白い泡が流れているのを確認し、クーさんの雨をストップした。

「よし! みんな少し離れて様子見だよ! 地中から何か反応があったときは注意してね!!」

「らじゃ~!」

 七人の精霊さんはシュタッと敬礼して、一斉に小山から離れていく。

 もちろんソラタンも遅れずに飛んだ。


 椿油粕の肥料効果は極々微量なんだけど、水に成分が溶け出すと白く泡立って、それが粘膜に触れるとメッチャ沁みるんだよ。

 人間でも目に入ったりすると悶絶ものらしいんだ。

 それを地中に潜む虫も嫌がって、逃げるように地表に飛び出してくるから、芝生のミミズ退治に使われたりするよね。

 殺虫効果はないから、最期は結局『手で捕~る』なんだけどね!

 今回はその刺激効果を狙ったんだよ。

 魔物だって、目と口と鼻に粘膜があるでしょう?


 ちなみにだけど、椿油粕は魚にとっては毒になるから、川に流れないように注意してね!


 そんなわけで、一定の距離を取って、固唾を呑んで小山の様子を窺っていると、やがて何かの音が聞こえてきた。

「反応があります! 全員注意してください!?」

 メエメエさんが叫んだ。

 七人の精霊さんがソラタンに乗る僕を守るように、陣形を組んでくれている。

 キリリ眉毛のかわいい小人精霊さんたちに守られる僕って……。

 絵面が残念な気がしてきたけど、気にしてなんていられないよ!

「開き直りました!!!」

 メエメエさんが叫んだ!?



 ズズズズズと、大地を揺らす振動が空気にも伝わってくるんですけど……。

 たぶん、ふたつの班も気づいていると思う。

 勝手なことをしたって、怒られるかなぁ?

 今ごろになって心配になってきたよ!

「ビビリですね! 今さらあとには引けません! 腹を括って叱られなさい!!」

 えぇーーッ!?

 メエメエさんが実行しようって言ったんじゃない!

 僕だけ怒られるのはおかしいでしょ!?


 なんてことはやっている場合ではなかった!

 眼前の小山に徐々にひびが入り、下から大きな何かが地上に浮かび上がってくるんだけど、同時に呻くような音が聞こえてくる!


 グォオオオオォォーーッッッ!!!!!


 その声に空気はビリビリと震え、同時に強烈な魔力が放出されてくるんだ!

 緊張と恐怖で落ち着かない僕は、咄嗟にメエメエさんを懐に抱え込んで、自分のお腹をガードしていた。

「ちょっと! また私を盾にする気ですかッ!!!」

 メエメエさんがジタバタ暴れても、僕は絶対にこの手は離さない!

「そういうのはヒーローがヒロインに言うセリフだと思いマッス! 決して雑魚キャラのセリフではナッシングーーッ!!」

 うるさいなぁ!

 両腕でメエメエさんをギュッと押し込んだよ!

 

 その直後に、目の前の地面が爆発したッ!?

 衝撃波が伝わってきても、ソラタンの周囲はバリアーが張られているから平気だよ!

 精霊さんたちもその範囲内に入っているから、影響を受けていなけど、それぞれ興奮して叫んでいた。

「でたーっ!」

「おっきい!」

「まっくろ!」

「すごーい!」

「びっくり!」

「何あのデカいのヤバくない!? ハクなんかプチッとされちゃう!!」

「あいあい!」

 ひとり余計なことを言っているけど、概ねみんなの意見に集約されている!


 大爆発と同時に、大量の土砂と岩石を吹き飛ばし、地中から巨大魔物が姿を現したッ!!

 僕とメエメエさんは、豆鉄砲を食らった鳩のように、両目と口をかっ開いていた!

 全身の毛穴という毛穴が開くような、そんな感じ!

 詳しくはわかんないけどッ!!

 咄嗟に叫んでいた。


「ギャァァァーーッ! ガッ! メッ!! ッッ!! むぎゅーーッ!?」

「ノンノンノーーンッ!! それ以上はアウトーッ!!!!!」


 メエメエさんに口を押さえられ、最期の一音を発することができなかった!

 僕の声に被せるように、大絶叫したメエメエさんと目が合う。

 メエメエさんが静かに首を振ったので、僕も静かにうなずいたよ。

 口に出してはいけないこともある。

 取り乱しました、すみません――――。


 椿油粕の液が目鼻口に沁みて、堪らず地表に踊り出た魔物は、巨大なカメの魔物だった。

 後ろ足で立ち上がったその巨体は、僕らが今いる高さの直線上にでっかい頭部があるよ。

 頭も腕も足も、すべてがトゲトゲだ!?

 頑丈な甲羅の側面には、鋭利かつ巨大な棘が無数に生えている。

 前世の電動草刈り機のような感じと言えば伝わるかな?

 あれで回転して空を飛んだらどうしよう……。



***

 白い泡の正体は天然のサポニン。

 川や田んぼに流れないように使ってね。

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