第33話 第四階層 主を探せ!

 翌日はスッキリ目が覚めたよ。

 昨日の疲れは残っていないね!

 布団から跳ね起きれば、メエメエさんがゴロゴロと転がって、扉に頭をぶつけていた。

「痛いです!」

「いい加減、僕の上で眠るのはやめてよね」

 自業自得だよ。

 呆れながらも布団を畳んで、手早く着替えて部屋を出る。

 父様とヒューゴは僕よりずっと早く起きているんだね。

 外で車座になって朝食を食べ、コーヒーを飲みながら今日の予定を話し合った。


「ハクを除いたメンバーで二班に別れよう。ミディちゃんたちも半分に分かれてサポートを頼むよ」

 早速アル様が班分けをしていた。

 クロちゃん組は、ジジ様とカルロさんとライさんとエルさん。

 シロちゃん組は、アル様と父様とヒューゴ。

 ちなみに僕はソラタンに乗って、メエメエさんとニイニイちゃんと、七人の精霊さんと一緒に上空で待機だ。

 モモちゃんも忘れちゃいけないね。

 この階層は上空まで襲ってくる魔物がいないから、たぶん大丈夫だろう。

 この階層では浄化の笠も必要ないね!

 ずっと被っているとちょっと頭が蒸れるんだもん。


「今日は左右に別れて隈なく探査してみよう。下層への階段を見つけるか、階層主を発見することだねぇ。できれば今日明日中には手掛かりを発見したいが……」

 チラリと僕を見て、アル様はちょっとだけ渋面を作っていた。

 きっと僕を心配してくれているんだと思う。

「ハク様の心が折れるのが先か、階層主を発見するのが先か……」

 メエメエさんが腕を組んで真剣に悩んでいたよ!

 どうかと思わないの?


 とはいえ、実はこの階層は閉塞感が薄いので、気持ち的には圧迫感を感じていない。

 第一階層から三階層までは、アンデッド系の陰鬱な世界だったからね。

 ここは空気も澄んで嫌な匂いがしない!

 それだけでもメンタルが救われるんだよね。

 ニャンコズも「ここは臭くないからいいニャ」と言っているよ。

 疲れたら異空間の扉からお屋敷に戻らせてもらえばいい。

 僕は最弱だから、無理は禁物だよね!

「とんだ最弱さんですね」

 メエメエさんに笑われたよ。



 各自のテントを畳んで、装備の確認をしたら出発だ。

 安全地帯を出る前に、アル様が僕に指示を出してゆく。

「ハクは我々の動きを、マッピングで常に確認していておくれ。どちらかが階層主と遭遇した場合は、モクモク君三号DXを燃やすから、すぐにもう一方に合流し、応援に駆けつけてほしい」

 アル様がポンと肩を叩いて告げた。

「はい!」

 真剣にうなずいたよ。

 僕がひとりで応援に駆けつけるなんて、危険なことはしないよ。

 自分の弱さは自分がよく知っている。


「できるだけ高いところにいるんだよ? うっかり落っこちないでおくれよ?」

 ニッコリ笑って言うことがそれなの?

 反論するほどのことでもないので、素直に返事をしておいたけどさ!

 むぅ!

 そこへメエメエさんがしゃしゃり出て、アル様に伝えていた。

「ソラタンとハク様が履いているブーツは、対のアイテムなのです。逆さになろうが超高速移動をしようが、決して離れられません。安全設計なんですよ!」

 そんな説明を、妖精界の空で聞いた気がするよ。

 なんだかあのころが懐かしいねぇ……。



 そんなわけで、僕はソラタンに乗って空を飛ぶ。

 風に乗ってフヨフヨと浮かび上がれば、この階層が見渡せた。

 地平の果てまで草原だ。

 ときどき小山のような岩山が見えるだけで、魔物がいなければ平和そのものだよ。

 ソラタンの縁から顔半分を出して、うつ伏せで下をのぞいてみれば、ニャンコズに乗った二班が左右に離れていくのが見えた。

 豆粒みたいだね。

 早速地面からドリルモグラが飛び出していたけど、ニャンコズは軽やかに跳躍して、難なく攻撃を回避している。

 ドロップ品はミディちゃんたちが回収していたよ。


 匍匐後退で元の位置まで戻って座れば、動悸が治まってくる。

 さすがにこの高さで、ソラタンの端っこに行くのは怖いよね。

 うっかり落ちたら死んじゃうもの。

「だから大丈夫ですってば」と、メエメエさんが呆れたようにつぶやいた。

 メエメエさんに対して、全幅の信頼がおけない。

 慎重に行動するように心がけよう!


 マッピング画面を出して全体図を確認する。

 二班が移動している青マーカーの付近にだけ、集中的に赤マーカーが見えるけれど、ほかの場所では魔物が徘徊している様子はない。

 侵入者にのみ対応するなんて、この階層は省エネ設計だと思った。

 第一階層から三階層までは、至るところに魔物が出現していたもんね。

 上空から目視で確認しても、フィールドを歩く大型魔物の影は見えない。

 マッピングにも反応がない。

「なんだかおかしな階層だね?」

「階層主を呼び出すには、なんらかの発動条件が必要なのかもしれませんね」

 メエメエさんも頭を捻っていた。


「条件ねぇ……」

「第三階層との落差で油断させたところで、強敵が襲ってくるのかもしれませんよ? ――――だとすると狡猾こうかつなダンジョンですが」

 確かに第三階層との落差がひどいと思う。

 第四階層は緩過ぎる。

 だけどここに閉じ込められているというプレッシャーが、誰の胸にもあるだろう。

 僕らはまだ二日目だけど、これがもしも三日四日と経過していくのなら、精神的に追い詰められてしまうんじゃないだろうか。

 地味だけど、心理的に確実に効いてくるはずだ。


 マッピング画面を食い入るように見つめながら、何か手掛かりはないかと探ってみる。

 この階層に空を飛行する魔物はいない。

 五種の低級魔物はテリトリーが決まっているように、単種類ごとにしか襲ってこなかった。


 僕は空を見上げてみる。

「この空に天井があるのかな?」

 現在、地上百メーテくらいの高さを飛んでいるんだけど、頭がぶつかる様子はない。

「気になるようなら、フウちゃんかピッカちゃんに飛んでもらいますか?」

「必要ないよ。何が起きるかわからないから、みんなでまとまっていたほうがいいと思う。精霊さんたちを不用意に危険にさらしたくはないもの」

 それにはメエメエさんも納得したようにうなずいていた。


「空の高さと同じだけ、地中の深さを持っているとしたら……」

 ポツリと、そんなことをつぶやくメエメエさん。

「階層主は土の中ってこと?」

「ここから見える範囲で大型魔物は発見できませんよね。雑魚なら突然リポップすることも不思議ではありませんが、ここはダンジョンなのですから、階層主は最初から存在するのがお約束でしょう?」

 へぇ、そういうものなの?

「そういうものなんです!」

 メエメエさんはハッキリと言い切った。


 土の中ねぇ……。

 僕が考え込んでいるとポコちゃんが飛んできた。

「つちー、ポコポコするー?」

「う~ん。気持ちはありがたいけど、地面に近づかないといけないでしょう? アル様に飛んでいるように言われたから、今は駄目かなぁ?」

 ポコちゃんをギュッとハグして膝に座らせた。

 ポコちゃんは下から僕の顔を見上げて、ちょっと残念そうにしている。

 そこへ今度はセイちゃんが飛んできて、「じゃあ、ひのたま、とばす?」と、物騒なことを聞いてきた。

「さすがに、大爆発が起こると地上班が驚きますよ?」

 メエメエさんが首を振ると、セイちゃんは「むー」っと、口を尖らせていた。

 そうだねぇ……。

 なるべく穏便に、探りを入れたいよねぇ……。


 そこでピンと閃いた!

「メエメエさん、アル様とジジ様たちから離れた場所に行ってもいい? ちょっと試してみたいことがあるんだけど」

「危ないことは駄目ですよ? ハク様はなんといってもキングオブ最弱なんですからね?」

 変な称号を勝手につけないでよ!

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