第31話 第四階層 ハク、宿敵と遭遇!

 父様たちはなんだかつまらなそう。

「なんだ、あれは!!!」

 ジジ様は手応えのなさに激怒し、鬼の形相で滅多斬りにしていたけど、あっという間に砕けて消えて、ドロップ品が転がっていた。

「根性が足らんッ!!」

 魔物が弱過ぎると文句を言うなんて、さすがにどうかと思ったけど、口に出したりはしない。

 僕はジジ様大好きっ子だから!


 岩飛びトカゲのドロップ品は、小さな魔石と拳大の石の塊がひとつ。

 スキル画面には魔鉄鉱石と出ている。

「精錬された魔鉄鉱石だね。塊は小さいけれど、すぐに加工できるよ」

 ほうほう。

 エルさんもアル様と同じで知識人だね。


 小山の岩草原では岩飛びトカゲが集団で襲ってくるだけだ。

 空を行くソラタンの旅は、控えめに言っても快適だった。

 手応えのなさにみんなの集中力が切れてきたみたいなので、ある程度進んだところで、ウサウサテントを出して昼食を食べることにした。

 このウサウサテントは強力な結界魔法が刻まれているので、魔物が出没するフィールドの真ん中でも、安全地帯の役目を果たしてくれるのだ。

 安心して休息できるよ!


 中のリビングでサンドイッチやハンバーガーを食べる。

 転移扉からひょっこりラビラビさんが顔をのぞかせて、ミディちゃんから魔石と素材を引き取ると戻っていった。

 何しに来たのよ?

 自動で転送されるはずでしょ?

「気になって仕方がないんじゃないですか~?」

 そう言いながら、メエメエさんは笹団子を食べていた。

 なるほど、それも携帯食にできるね。

 ライさんとエルさんにも強引に進めていた。

 ハイエルフの里にお米を売りつけようとしているみたいだよ。


 食べながら、大人たちは「手応えがないな」と話し合っている。

「ドリルモグラもそうだが、岩飛びトカゲもポップするまでゴーグルに感知できないねぇ。目視で確認すればいいだけだが……」

「そうですね。ゴーグルに頼り過ぎないことも大事ですね」

 再認識するように、アル様と父様がうなずき合っていた。

 便利な道具に頼り過ぎちゃ駄目ってことだね。

「初心忘るべからずですね!」

 メエメエさんがきな粉餅をモッチモチ噛みながらつぶやいていた。

 粉が飛ぶから、話すか食べるかどっちかにして?



 食後は身体を伸ばして、ストレッチをしよう。

 ピッカちゃんとユエちゃんが固い背中を押してくれたけど、足を延ばして身体を曲げても、指先がつま先につかない!

「まだ十六歳なのに、肉体の衰えが深刻ですメェ……」

 メエメエさんから冷たい視線を浴びせられたよ!

 単に身体が固いだけじゃない!

 衰えと言わないでッ!!



 休憩を終えると、父様たちはテントの外に出て、周辺の様子を窺っているみたい。

 僕ものろのろとブーツを履いて出てみれば、ウサウサテントの結界の外に、魔石と魔鉄鉱石が山のように落ちていたよ!

「やぁやぁ! 結界にぶつかっただけで討伐できるなんて、こんな楽なことってあるかい? 誰かがテントで休んでいれば、その間魔石が取り放題じゃないかっ!! これは愉快だ、あっはっは~!」

 アル様の笑い声が虚空に響いていた。

 とはいえ、ドリルモグラと岩飛びトカゲには、正直旨味がないので、サクサク進もうということになった。



 今度はソラタンにアル様と、ネコ型クロちゃんシロちゃんが乗り込んできた。

 二匹はそろって「つまらないニャ」と言って、ふて寝していたよ。

 ニイニイちゃんとモモちゃんも、その懐で丸くなって寝ている。

 寒くないからお昼寝にはちょうどいいかも?

 しばらく進むと、また新たな魔物が現れた!

 なんと僕の宿敵、二メーテサイズの二本角の角ウサギだった⁉

「ちょっと! 生意気にドリル角が二本も生えているじゃないッ! 地上の角ウサギに謝ってッ!!!」

 こちらに向かってくる二本角ウサギを指差し、抗議してみた!

 アル様が横で大爆笑しているけど、それどころじゃなくない?


 真っ赤な目を三角にした二本角ウサギが、後ろ足で地面を蹴り、ソラタンよりも高く上空に飛び上がり、今まさに僕めがけて落ちてくる!


 きゃあぁぁぁーーッ!

 僕が狙われているのッ???


 そのとき横からポコちゃんが飛び出して、二本角ウサギの懐に入ると、ポコちゃんミラクル・キッーク! を食らわせたんだ!!

 その衝撃で飛んでいく二本角ウサギを矢のような速さで追い、ポコちゃんミラクル・パーンチ! を、流星のように打ち込んでいたよッ!!!

 憐れ二本角ウサギは、粉々に砕け散って霧散した。

 ダンジョンの利点は血肉が飛び散らないことだよね!

「おお! ポコちゃんカッコイイ!」

 天に向かって勝利の拳を掲げるポコちゃんに、僕とアル様と精霊さんたち一同は、惜しみない拍手を送ったよ!

 ヤンヤヤンヤの大喝采だ!


「あんたたちは、よくこのノリについていけるな…………」

 背後でライさんが小さな声でつぶやくと、父様もジジ様もカルロさんもヒューゴも、いい笑顔で親指を立てていた。

 ポコちゃんぐっじょぶ!

 エルさんは「楽しいですね~」と一緒に拍手をしていたよ。

 乗り遅れちゃ駄目だよ、ライさん!


 二本角ウサギのドロップ品は魔石とモフモフ毛皮だった。

 二メーテ級のウサギなので、毛皮の面積が大きいね!

「ふむ、最高品質だね。これは高値で売れそうだねぇ」

 アル様が毛皮の表面をなでている。

 高値の言葉を聞いて、メエメエさんが瞳を輝かせていたよ。

 それからも、二本角ウサギが休む間もなくバンバン襲ってくる。

 父様たちが運動がてら、バッサバッサと斬り伏せていた。

 


 そうこうしていると、一行は見えない壁にぶつかった。

 アル様がソラタンから飛び降りて、手で触って確認している。

「ふむ、ここが境界のようだねぇ。しかしボス戦もなければ、張り合いもないと……」

「真っ直ぐ歩いてきましたが、正面には下の階層に続く階段がありませんね」

 アル様とエルさんが話し合っていた。

 ここまで出た三種の魔物は下級に分類される魔物だそうだ。

 草原地帯にいる魔物で、大森林では見かけないという。


「それにしてもおかしくないか? 三階層との落差が大き過ぎるぞ?」

 ジジ様は至極不満そうに仁王立ちしていた。

 一階層でリッチが出たのに、四階層で下級魔物だもんね。

 期待外れなのか、それとも別の罠が仕掛けられているのか?

「まずは油断せず、壁際を移動して出口を探してみようか。このままで終わるなら、それに越したことはない。次へ進めばいいだけさ」

 アル様が笑って言えば、みんなもうなずき合っていた。


 僕とアル様はそのままソラタンに乗って、ほかのみんなは巨大化したニャンコズの背に分譲して、時計回りに回ってみる。

 どうやら壁際は魔物の出現が極端に少ないようだ。

 おかげでニャンコズは足止めされることもなく、軽快に駆けていける。

 半周して第三階層の階段があった辺りに戻ってきてみれば、なぜか上に続く階段が消えていた。

 代わりに安全地帯があるだけだ。

 あれ?

「ねぇ、これって、閉じ込められたってこと?」

「そうですね」

 メエメエさんが相槌を打った。

 えぇ!


 そこでさらに残りの半周を確認してみることに。

 結局この階層を一周しても出口は見つけられず、仕方なくもう一度安全地帯まで戻ってきた。

 途中で出くわした魔物は先の三種のほかに、アルマジロみたいな鎧ネズミと、鋭利な三十センテの嘴を持った地上を走るサーベル鳥だった。

 キーウィっぽい見た目だったよ。

 サイズは一メーテ級で、ジジ様たちの敵ではなかった。

 サクッと倒して魔石と素材を回収すると、今日は安全地帯で休むことにしたんだ。

 お疲れさまね。

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