第2章 草原と森で心が折れそう

第29話 第四階層 ネズミとツバメが行く

 六月に入って、再びダンジョンへ向かう日がやってきた。

 装備を整え外套を羽織り、例の浄化笠を被る。

 腰に差したドリアードの杖と、雷の杖。

 手には大杖を持って、えっちらおっちら進んだ。

 

 今回はジジ様とカルロさんとアル様と、クロちゃんシロちゃん&ミディ部隊が、先に岩塩採掘場へ飛び、そこでハイエルフのライさんとエルさんと合流する。

 その足でダンジョンに入り、転移ポータルから第三階層まで飛ぶそうだ。

 父様とヒューゴと僕と精霊さんたちと、おまけのメエメエさんはウサウサテントの転移扉から移動する。

 なるべく僕の負担を減らすために、そうすることにしたみたい。


 ちなみに第一階層では、別動隊がダンジョンに負荷をかける作戦を実行するため、交代で討伐をおこなっていくそうだ。

 最初のうちは探り探り、装備の過不足なんかを確認して、効率化を図るみたい。

「死霊じゃなければもっと先に進みたいのに」と、参加者全員が歯がゆい思いをしていた。

 まずはリッチと渡り合えるようになりたいと、一致団結しているんだってさ。


 

 第三階層の転移ポータルルームに来ると、やっぱり薄暗くて空気が悪かった。

 早速ドリアードの杖で浄化して、壁際に寄っているあいだに、ヒューゴが素早くウサウサテントを撤収していた。

 この部屋自体がそんなに広くないから、出しっ放しにはできないよね。

 少し待つとジジ様たちが到着し、最後にライさんとエルさんが現れた。

 エルさんはにっこり笑って僕に近づくと、「長い休養だったねぇ」とつぶやく。

 その横ではライさんが笑いを堪えていたよ!

 むぅ!


 僕がぷーと膨れると、ますます声を上げて笑っているんだもん!

 失礼しちゃう!

「まだまだ子どもなんだから、無理しちゃ駄目だよ?」

 そう言って浄化笠の上から頭をなでてくれた。

 千年を生きるハイエルフさんから見たら、僕なんて生まれたての赤子のようなものかな?

 百五十歳のブランさんでも、彼らにしたら庇護対象者なのだから。

 


 さて、これから挑む第四階層は、ジジ様と父様たちが事前に調査してくれているんだ。

「第四階層は草原だったぞ。軽く足を踏み入れた程度で、魔物の確認はできなかったがな」

 階段を下りながら、ジジ様が説明してくれた。

 草原フィールドとなれば、僕の浄化魔法は必要ないのかな?

 アル様がうなずいていたよ。

「草原だからといって、油断してはいけないよ? 魔物は土の中や空から襲いかかってくるかもしれないからね。ハクは常にシロちゃんの背に乗っていなさい」

「はい」


 先頭はヒューゴとライさんとクロちゃん。

 続いてジジ様とカルロさんが続き、父様と僕とシロちゃん、メエメエさんと精霊さんたち。

 最後にエルさんとミディ部隊が足を踏み入れた。

 そこは見渡す限りの大平原、丘陵地帯になっているね。

 視線を遮るような木などは立っていない。

 藪や低木の茂みはところどころに見える。

 つまり、視界は開けているけれど、敵が隠れる場所も多いということだ。

 気候は五月初めくらいの温度かな?

 高い空には雲があって、風が流れているんだよ。

 外の世界と遜色ない、自然の景色が広がっていた――――。


 今すぐ敵が襲いかかってくる雰囲気ではないね。

 ふと足下を見れば、雑草に紛れて薬草もあるみたいだよ。


「まずは索敵しようか?」

 アル様が声をかけると、メエメエさんが飛び出した。

「ここはネズミの斥候さんにお任せあれ!」

 メエメエさんは麻袋を取り出して口を逆さにすると、中からたくさんのネズミの魔道具が飛び出してきた。

 それは四方八方に走り出して、すぐに草の影に見えなくなったよ。

「お次はツバメ飛行隊でッス! 空から探索させましょう!」

 木製の巣箱を取り出すと、そこから無数のツバメの魔道具が飛び出していった!

 本物のツバメのように飛んでいく姿に、精霊さんたちが大喜びしていたよ。

「またおもしろいものを作るねぇ!」

 アル様が感心したように笑っていた。


 もちろん全員がゴーグルを装着しているから、自動で赤と青と緑のマーカーが表示されるんだよ。

 赤は敵、青は味方、緑は有用素材だ。

 今現在ゴーグルに反応する赤マーカーはない。

 周辺に潜む魔物がいないことを確認し、少しの距離を取りながらバラけて進んでゆく。

 シロちゃんに乗った僕とメエメエさんは、キョロキョロと周囲の素材をチェックしてゆく。

 気になるものを見つけると、メエメエさんがミディちゃんに採取するよう、指示を飛ばしていた。

 植物精霊の子たちは自分たちでいろいろ採取しているね。

 グリちゃんもお花を摘んで僕のところにやってきた。

「はい! おはな~」

 ニッパーと笑って差し出されたのは、変わった花色のポピーだった。


 いやいや、ヤバくない?

 メエメエさんが僕の代わりに受け取って、しげしげと眺めている。

「ダンジョン産ですからねぇ? 一応植物図鑑に入れておいてください」

 そう言って手渡された。

 そのあともグリちゃんは謎花を摘んでは持ってきて、全部植物図鑑に入れていく。

「毒もときには薬ですから、サンプルを取っておけば、いつか必要なときにハク様のスキルで作ればいいのです。ジャンジャン収集して、植物図鑑を充実させましょう!」

「おーっ!」

 メエメエさんの言葉に、七人の精霊さんとミディ部隊が拳を突き上げていたよ。

 ダンジョンでせっせと草を摘む精霊さんたちに、大人たちは笑っていた。



 しばらくすると僕のマッピングスキルに反応があった。

 ツバメ飛行隊がこの階層の端まで到達したみたい。

 スキル画面をのぞき込めば、おおよそ五千メーテ四方もあるようだ!

 階層を進むたびに千メーテずつ増えていない?

 下から顔をスポンと割り込ませたメエメエさんが、スキル画面の端っこをタップすると、ツバメ飛行隊の視点映像に切り替わった。

 このフィールドは、ある一定のところまでいくと見えない壁にぶつかるみたいで、何羽かのツバメたちが落ちていた。

 数は減っていないから、単に軽い脳震盪を起こしたのかも?

 小鳥さんあるあるだよね。


 分割された画像をザックリ見回しても、出口らしきものが見当たらないね?

 これはどういうことだろう?

「境界を曖昧にする魔法がかかっているのでしょう。人の目には無限の世界に見えるわけです。心理的に負荷をかけようとしているのかもしれませんね!」

 メエメエさんはそんなふうに分析していた。

 なるほど、巧妙だね。



 マッピング画面を切り替えれば、地面を走行するネズミの斥候さんの、数が減っていることに気がついた。

「メエメエさん、ネズミの斥候さんが何かに襲われているんじゃない?」

「むむ! そのようです! でもおかしいですね! 敵を感知すると赤マーカーが表示されるはずなんです! なのにゴーグルにもマッピングにも反応がありません⁉」

 えぇ?

 ツバメ飛行隊の様子を見る限り、空を飛ぶ魔物はいないんじゃない?

 メエメエさんはすぐにアル様たちの状況を伝えていた。

 そしてネズミとツバメの魔道具に、帰還指示を出している。


 戻ってくるネズミ画面に注視ししているときに、それは起こった。

 ネズミの斥候さんが走り抜ける地面の真下から、何かが一瞬飛び出し、掴まえ、地に潜ったのだ!

 僕は反射的に叫んでいた! 

「土の下に何かいるみたい! 気をつけて!」

 みんなが足下に視線を向けたとき、真下から無数のドリルがつき上がってきた!?

 マッピングスキル画面が一瞬で赤まみれだよッ!!


 ひょえぇぇぇぇ~~ッ!!!

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