第24話 休養中 魔石を売ろう!
ある日ビクターにお願いされて、地下倉庫にやってきた。
狩ってきたあと、そのまま保管されている魔物の解体をお願いされたのだ。
僕のスキル倉庫に入れると、自動で解体・分別・浄化までおこなってくれるからね。
前にもお願いされたことがあったから、今日は自らの足で赴いたわけさ。
地下倉庫は薄暗いけど、比較的きれいに整頓されている。
「こちらがダンジョンの戦利品ですね。これはあとから分別収納しますが、こちらの魔物の解体をお願いしたいんです」
ビクターが指差す先にはマジックバッグが十数個置かれていた。
これは大森林で冬から春のあいだに狩ってきた魔物だという。
「マジックバッグに入れておけば劣化はしませんが、解体しないことにはお肉も食べられませんからねぇ……」
ため息交じりの言葉に、疲労感が滲んでいた。
「ラビラビさんに作ってもらった、この引き出し式のマジックボックスは重宝しています! このおかげでマジックバッグが何枚も空きましたからね。……ところが皆様が次々と魔物を狩っていらっしゃるので、在庫が減るどころか増える一方なのです……」
徐々にビクターの肩が下がり、声が沈んでいく。
ああ、うん。
いろいろ察したよ。
増え続ける魔物に、在庫管理が追いつかないそうだ。
というかすでに匙を投げている感じかな?
とりあえず、床に積み重なっているマジックバッグを、全部スキル倉庫に放り込んでおいたよ。
「浄化するまで時間がかかるけど、終ったら分別して、このマジックボックスに自動転送するように頼んでおくね」
「ああ、助かります!」
ビクターがむせび泣くようにハンカチで目を覆っていた。
どんだけなの……?
それにしても、解体したお肉は定期的にふたつの村に分配して、さらに植物園のミディちゃんたちが消費しているんだけどねぇ……?
「特に蛇肉とカエル肉と兎肉が捌けないんですよね……」
ああ、先のふたつは僕が嫌い。
精霊さんたちも好きじゃないって言っていた。
兎肉はきっとラビラビさんへの申し訳なさと、背徳感じゃないかな?
そういう意味では羊肉も嫌われる。
そっちは呪われそうで口にできない――――。
「今何か私の悪口を言いましたねーーッ!?」
メエメエさんが飛んできて、僕とビクターにモフモフアタックを食らわせていった。
「私は何も言っていませんが?」
ビクターに冷たい目で見られちゃったじゃない!!!
「とりあえず、忌避される肉は村に分配しておいて!」
「坊ちゃんって、案外鬼畜ですね……」
えぇ?
そんなこと、初めて言われちゃったよっ!?
そんなわけで、魔石だの素材だのがあふれて困っていると知ると、なぜかアル様が立ち上がった。
「ならば私に任せなさい! ハクが休養しているあいだに、マーレ町に魔石を売りに行ってこようかね?」
アル様がいそいそと旅支度を始めた。
父様にも声をかけて、どの魔石を売ろうかと話し合っていた。
そこへラビラビさんが飛んで出て、「これは植物園で使うだ」の、「こっちはいらないだ」の、まあまあ好き勝手言っているよ。
それを見ていたリオル兄が手を挙げた。
「ならば私も後学のために同行させてください!」
父様はふたつ返事で了承していたよ。
そんなわけで、あれよあれよという間に、出発の日取りが決まっていた。
小さい魔石はラドクリフ家お抱えのハルド商会にお願いできても、大きい魔石は高額品なのでおいそれとは頼めない。
そこで登場するのがマーレ町だ。
ラドクリフ領から東へ行くとラグナード辺境伯領があって、さらにそこから三つ先のウィンサー領が海に面しているんだよ。
北部最大の港町がマーレで、僕も父様と一度行ったことがあるんだね~。
マーレ港は別大陸との交易をしていて、経済が発展してる町なんだ。
そこに寄港する大型帆船は魔導式で、動力に魔石が使われているんだよ。
魔石が大きければ大きいほど安定して航海ができるそうで、高値で買ってくれるのだ。
魔石の値段から三割は税と手数料で引かれるけれど、七割の収入で輸入品や魚介類を仕入れてくればいい。
「珍しい魔導書が手に入らないかねぇ」
アル様もウキウキしていたよ。
メエメエさんもちゃっかりお金を用意していた。
「珍しい植物や鉱物などがあったら買ってきてください」
そう言って金貨の入った袋をリオル兄に手渡している。
ジャラジャラ鳴る袋の重さに、リオル兄が眉を上げていたよ。
「ずいぶん奮発したねぇ? 出所はダンジョンの宝箱かい?」
「そうですよ。レイスの階層は金貨と銀貨が多く、三階層の宝箱には白金貨が多かったんですよ! その輝きにうっとりして、うっかり寝そべってしまいました!! お金のベッドは最高~ッ!」
恍惚とした表情を浮かべるメエメエさんに、リオル兄と僕はドン引きした。
周囲の空気を察したメエメエさんは、コホンと咳払いをして誤魔化している。
「こちらの小袋には宝石が入っています。小粒の物だけ入れてありますので、ダンジョンの宝箱から出たと言えば疑問に思われないでしょう」
大粒のダイヤやルビーなどは、宝飾品だけでなく、魔道具にも使えるので取っておくそうだ。
「だけど最近は各地のダンジョンが活性化しているから、足下を見られるかもしれないよ?」
リオル兄がメエメエさんに確認するように聞いている。
言われてみれば、各地のダンジョンが活性化して難易度が上がっているってことは、お宝のレベルも上がっているということだよね?
どんなに良い品を持ち込んでも、買い叩かれる可能性があるんじゃない?
しかしメエメエさんは首を左右に振っていた。
「難易度とお宝の質は比例すると思いますが、果たして討伐に向かう冒険者の質はどうでしょう? 急にはレベルが上がらないんじゃないですか? それを鑑みると、決して悪い取引にはならないと思いますよ」
リオル兄が納得したように手の平を打つ。
「ああそうか! 上位の魔物を討伐できる冒険者の数は知れているね」
「逆に、今まで下層で魔石を得ていた下級冒険者たちが、討伐できずに困っているかもしれませんが……」
ああ、一長一短なんだね……。
圧倒的に底辺にいる数のほうが多いわけで、その人たちが食うに食われない状態になってしまうのは深刻な問題かも。
場合によっては盗賊になったりする者がいるかもしれない。
そうなれば治安が悪化するし、ダンジョンの討伐数が減ってしまい、スタンピードの危険性も増してしまう。
「負のスパイラルですね」
メエメエさんが腕を組んで大きくうなずいていたよ。
メエメエさんはおもむろにマジックバッグを取り出した。
「このマジックバッグには魔石が詰まっています。まずはこちらの買い取り価格を確認してください。仮に安く買い叩かれるようであれば、各地のダンジョン討伐がうまく行っているということです。得たお金で品物だけでなく、国内外の情報を買うという方法もあります」
メエメエさんの目がキラリと光った。
「それこそ、島や別大陸のダンジョンのようすなども探ってきてください」
「ふむ。了解した」
リオル兄はマジックバッグを受け取って、お金と宝石の小袋をウエストポーチにしまっていた。
「マーレに来る異国の商人たちが高額で買ってくれれば万々歳デッス!!」
メエメエさんは飛び跳ねて踊っていたよ。
リオル兄は苦笑しながらも、合点がいったようにうなずいていた。
メエメエさんって、こういうことにはよく気が回るよね!
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