第20話 第三階層 サクッと進もう!

 アル様が宝箱から取り出したものは、カッコイイ装飾が施された長槍だった。

 聖魔法の印が刻まれているよ。

 そのほかにも『聖火の杖』と『浄化の盾』が入っていた。

 その下には、金銀財宝がギッシリと詰まっていて、メエメエさんが「うふふ~」と宝石の輝きにうっとりしていたよ。

 みんながドン引きしていたね!


 ふむと、アル様が顎をさすりながら考え込んだ。

「第一階層の弓矢とローブと聖魔法の魔導書を、出してくれるかい? ほかの財宝はしまっておくれ」

 僕に声をかけてきたので、長椅子の上に出したよ。

 宝箱はメエメエさんがしっかりフタをして、影の世界にしまっていた。


「みんな聞いておくれよ。第一階層はレイスとスケルトンとリッチの死霊だった。第二階層はゾンビだったねぇ。さて、この先の第三階層はどうなると思うね?」

 アル様の問いかけに、みんなが渋い顔をしていた。

「ふたつの宝箱から出た品物を考えると、次もこれらが必要になるんじゃないかね?」

 アル様の言葉にビックリしたのは僕だけだった!


「えぇぇ! もう臭いのは嫌だよ!!」

 全力で叫ぶと、グリちゃんたちもコクコクとうなずいていた。

 クロちゃんシロちゃんも嫌そうに顔をしかめて、グルルと牙を剥き出しにしている。

「まぁまぁ、臭いのは皆嫌いさ。臭い汚いキツイ、死霊系ダンジョンが嫌われる理由だねぇ」

 アル様がしみじみつぶやいていた。

「わしもアルの意見に同意だな。おそらく次の階層もこんな奴らがうじゃうじゃしているだろう」

「残るはグールでしょうか?」

 ジジ様と父様までそんなことを言い出さないで!

「その可能性は高いねぇ」とアル様が相槌を打って、宝箱のアイテムの分配を決めていた。


 最終的に、聖魔法の長槍はライさん。

 聖魔法のローブはエルさん。

 聖魔法の弓矢はアル様。

 聖火の杖はカルロさん。

 浄化の盾は熊男のヒューゴが持つことになった。

 聖魔法の魔導書は保留して、あとで適性のある者に使わせるそうだ。


 三階層も雑魚は僕が一掃して、みんなでボス戦に当たると決まったよ。


 第二階層のボス戦が瞬殺で終わったので、そのまま三階層へ向かうことになった。

 階段を下りて三階層フロアをのぞき見れば、ゾンビやらがウロウロしていたけど、このフロアには建物が建っているようだ。

 第一階層の乾いた廃墟都市とは違って、鬱蒼とした暗い森の中で朽ち果てた村という感じだった。

「これは一直線に駆け抜けるのは無理そうですね」

 先頭のヒューゴが顔をしかめていた。

 だって目の前に、目玉を垂らしたゾンビが立っているんだもん!

 こっちの気配に気づいているのかな?

 思わず父様の腕を掴んでしまったよ。


「ゾンビならいいが、グールだったら面倒だな」

 父様が僕の頭をなでながらつぶやいた。

「ゾンビはわかりますが、グールってなんですか?」

屍食鬼ししょくきのことだな。意志を持って死肉を食らう鬼の一種だ。ゾンビよりも邪悪な存在だぞ」

「ピョッ!」

 思わず飛び上がった僕の肩口で、メエメエさんがつぶやいた。

「ゾンビは死肉を食らいますが、そこに意志はありません。ただ唸りながら徘徊しているだけです。しかしグールは意志を持って襲いかかってくるのです! 真っ白で目立つハク様は一番の標的になるかもしれませんよッ!!!」

 バァッと、白目を剥いて舌を出す黒羊を、思わず大杖の先端で打って、壁に吹き飛ばしてしまった!

 メエメエさんはバウンドして階段の角で頭をぶつけて悶絶していた。

 それを見ていたエルさんがつぶやいたよ。

「なんというか、因果応報ですね……」

 まったくだね!


 恐ろしさで、きっと僕の顔は青くなっていることだろう。

 父様が苦笑して僕の背中をなでた。

「ダンジョンではどんな敵も危険な存在に変わりはないんだ。冷静に対処すれば、ハクの浄化魔法が通用する。深呼吸してごらん」

 言われたとおりに深くゆっくり呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 そのあいだにアル様がメエメエさんを拾い上げていた。

「大事なときだ。ハクを脅かしてはいけないよ?」

 珍しくまともに注意していた。

 メエメエさんは「すびばぜん」と痛そうに涙目で謝っていたよ。



 さて、冷静になったところで、父様と一緒にシロちゃんの背に乗って、大杖を構える。

 ほかの面々は走って第三階層を抜けるという。

 僕が渾身の浄化魔法を放つと、クロちゃんが先導するように駆け出し、そのあとをシロちゃんが、その周りをジジ様たちが走って追従する。

 腐敗した廃墟村を駆け抜け、森に入った。

 グリちゃんたちとミディ部隊は浄化魔法の効果範囲から外れないように、やや上空を飛行している。

 メエメエさんとユエちゃんは、道すがら見える範囲で魔石を回収しているようだ。


 地形と森と廃村に阻まれて、なかなか移動スピードが上がらない。

 第三階層の入って間もなく三十分というころで、リポップが始まった。

 まずは周辺に『モクモク君三号DX』を、着火しながら転がしていく。

 カンファオールとチモチモリ草の精油入りの魔除玉は、それ自体が魔物を寄せつけないんだけど、ここでは効果が薄いみたい。

 第二階層のゾンビはすぐに倒れていたけれど、第三階層では煙を避けて尻込みしているだけだ。

 足止めできているだけでも御の字かな?

 稀に煙に飛び込んで、突っ込んでくる個体もいて、各自が切り伏せていた。

「なるべく離れるな!」

 アル様の号令にそれぞれが武器を持って敵を倒していく。

 ダンジョンの宝箱から得た聖具を使って、難なくゾンビとグールを倒していたよ。

 聖魔法のローブをまとったエルさんは、長槍のライさんとうまく連携してほふっていた。


 僕は先頭を走るクロちゃんの前に向けて浄化魔法を放つ。

 精霊さんたちもそれぞれの魔法を駆使して、進路を確保してくれているよ!

 疾走するクロちゃんの横に並んだピッカちゃんとセイちゃんが、光と炎の矢を無数に放てば、クーさんとモモちゃんのアイスランスが、横から飛び出してくる大きなグールを粉砕していた!

 フウちゃんの風が暴風となって無数のゾンビを吹き飛ばし、ポコちゃんが土壁を生やして接近を阻んでいる。

 グリちゃんは森の木々の根や枝葉を動かして、ジジ様たちを援護していた。

 それはミディちゃんたちも同じで、それぞれが勇敢に戦っているよ!

 僕も頑張らなくっちゃ!


 クロちゃんシロちゃんが森を飛び出せば、開けた広場とその先に新たな廃村が目に飛び込んできた!

 四つ足の犬のような顔をした、蹄を持った巨大なグールが複数待ち構えていたよ!

「中ボスです!」

 メエメエさんの声に、僕は迷わず浄化魔法を発動する。

 そこへセイちゃんの蒼炎弾が無数の飛んでいき、辺りは青い炎で吹き飛ばされた!


「ニャニャ! 行く手が燃えているニャ!!」

「シロちゃんは熱いのは苦手ニャ!?」

 二匹の巨大ニャンコズが悲鳴を上げた!

 すぐさまクーさんが渦巻く水のトンネルを作り出してくれた。

 フウちゃんの風がその中へ吹き抜けていけば、飛び込んだニャンコズが加速した!

 ニャンコズのあとを、遅れてジジ様たちが駆けてくるので、僕は後方に向けて魔法を発動した。

「中ボスの魔石だけは回収しマッス!」

 メエメエさんが必死の形相で叫んでいたよ。

 妄執っていうのかな?

 メエメエさんって執念深いよね!



 そんな感じでこのフロアを駆け抜けた。

 森を抜けた先に砦が建っていて、大きな木戸が開いていた。

 ようやく全員が門を潜ったときには、懐中時計の針が午後の二時半を回っていたよ。

 クロちゃんシロちゃんはともかく、戦いながら疾走してきたジジ様たちは若干息が乱れていた。

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