第19話 第二階層 教会の主
適当なところで切り上げて、ウサウサテントの簡易シャワーを浴びたら、個室のふかふかお布団に丸くなる。
寝る前に念入りに浄化魔法をかけておく。
思ったよりも疲れていたみたいで、精霊さんたちがやってくる前に意識を失ったみたい。
翌日目を覚ますと、僕のお布団は精霊さんまみれになっていた。
寝相の悪い足で顎を蹴られて目を覚ましたんだよね。
ムンズと掴んだ足はモフモフ黒毛で、イラッとしたので個室から放り出してやった!
主人の顔を蹴るなんて、とんでもない黒羊だ!
時間が早かったのでもう一眠りよう。
目覚めて身支度を整えていると、テントのリビングがザワザワしている。
起き出してみれば、全員が集まって朝食を食べるところだったよ。
「起きたか、ハク? おはよう、顔を洗っておいで」
父様が優しく笑って挨拶してくれた。
「おはようございます!」
僕と精霊さんたちは慌てて洗面台で顔を洗って戻ってくる。
席につけば、「今日はここで食べてから打ち合わせをするぞ!」と、ジジ様に言われた。
外はゾンビが見えるから、精神衛生上良くないもんね。
朝食は各種おにぎりと味噌スープ。おかずは地鶏のステーキが切り分けられていた。
「昨夜はあまり食べていなかったでしょう? 朝は頑張って食べてくださいよ。フルーツもデザートもあります!」
熊男のヒューゴに気を使われた。
ミルクとオレンジジュースも用意されている。
「バートンさんに、ハク様の健康管理には、くれぐれも気を配ってと言われていますからね」
そういうメエメエさんはムシャムシャと地鶏の足をかじっていた。
「メエメエさんは全然気を配っていないよね? 今朝も僕の顔を蹴ったし! ムッとしたから投げ飛ばしても気づかずグーグー寝ていたんでしょ?」
ジト目で見れば、周りのみんなが吹き出していた。
「ああ、それで! ここの真ん中でうつ伏せのメエメエさんを見たときは、死体かと思って驚きました!」
ヒューゴが破顔していた。
外はゾンビ、中にもメエメエさんゾンビがいたら事件だね!
精霊さんたちは魔力の実をモリモリ食べて、いざ準備万端。
キリリ眉毛で勢ぞろいしていた。
グリちゃんたちとミディ部隊は、本来は穢れを嫌う精霊さんなんだけど、こんな不衛生なダンジョンでも元気溌剌としているね。
「それはそうですよ。植物園の食事にはそれだけパワーがあります。これくらいの穢れに怯む我らではありませんよ! あと、全員のほほん族ですから!!」
なぜかメエメエさんが胸を張っていた。
のほほん族って、何も考えていないってことかな?
精霊さんたちのニッパーと輝く笑顔がまぶしいねぇ……。
とはいえ、僕もひと晩しっかり寝て魔力が全回復している。
今日もバンバン浄化魔法を飛ばせるよ。
とっととゾンビのボスを倒して、この階層からはおさらばしたい!
「今日はハクの魔法で瞬殺しておくれ」
アル様が無表情で告げた。
もうゾンビは嫌だと、みんなの顔に書いてあるね。
各テントを畳んで、いざ出発。
といっても、敵の本拠地は目と鼻の先だけど。
目の前に建つのは、寂れたようすのシンプルな教会だ。
それでもルーク村の神殿より立派な感じがして、ちょっと不満。
三段の階段を上ればすぐに扉に届く。
第一階層のときと同じように、中に入って壁側に寄るように指示された。
事前にメエメエさんからマスクの二枚がけを指示され、全員が浄化笠を被っている。
笠の下は常に浄化されて、新鮮な空気を吸うことができるんだ。
見た目はあれだけど、装着してみれば使い勝手の良さがわかる。
もちろん精霊さんたちもミディ部隊も、クロちゃんシロちゃんも装着していた。
メエメエさんがニャンコズに鼻に綿を詰めるかと聞いて、キッパリ拒否されていた。
メエメエさんはしっかり鼻に詰めている……。
真っ黒い中にふたつの白が超目立つね!
その姿を見て、みんなが笑いを堪えていた!
教会の内部は中央の通路を挟んで、左右に長椅子が設置され、正面には巨大なゾンビが鎮座している。
いやいや、ミスマッチでしょう!
思わずツッコミを入れたくなった。
それにしても大きい。
第一階層のリッチほどもあるんだ。
表皮がただれ、肉が崩れ落ちて、汚物のようにボトボトと床に零れている。
ところどころ腐った内臓や骨が見えたりして、おぞましいの一言に尽きる!
腐臭が漂う中、足下から震えが上がってくるようだった。
ゾンビが動き出すと同時に終わらせよう!
サクッと決めるよ、超絶浄化魔法でお掃除だい!
ジジ様が一歩を踏み出せば、巨大なゾンビの目玉が赤く光った!
わぁ! 怖い!
階層主が動き出すと同時に浄化魔法を放てば、白光のレーザービームが飛んでいく!
同時にピッカちゃんとセイちゃんが、魔法を放ったよ!
ジュッ、ピカッ、ゴウゴウ!
浄化魔法に粉砕され、光に貫かれ、蒼炎が爆ぜる。
その間わずか数十秒。
巨大ゾンビは一歩も動かず、声も出せずに消滅したよ!
僕とピッカちゃんとセイちゃんはハイタッチでお互いの健闘を称えた!
「呆気ないねぇ」
アル様がつまらなそうにひとりごちると、ジジ様までもが大剣を担いで首を振っていたよ。
「つまらんな」
ふたりして大きなため息をつくなんて、酷くない?
瞬殺してって言ったじゃん!
僕が釈然としないでいると、「まぁまぁ」とメエメエさんが肩に乗ってきた。
「これが最適解です。ああ言っていても、ゾンビと戦いたい人はいません。それよりも、今すぐお宝を見に行きましょう!」
目をお金マークにしたメエメエさんが叫んだ。
メエメエさんが蹄で示す先に、大きな魔石と宝箱が現れていた。
「ゾンビは骨も残らないんだね? リッチ戦のドロップ品のほうが良かった気がするよ」
メエメエさんを肩に乗せながら、父様たちと一緒に教会の通路を進む。
「だが、魔石は大きそうだぞ。宝箱も
「父様! 棺なんて縁起でもないことを言わないでよ!」
「そうです! フラグですよ!!」
僕とメエメエさんに抗議されて、父様は「すまんな」と頭をかいていた。
そんな僕らを追い越して、軽快に駆けていくのはアル様だ。
「危険なものが入っていたらいけないねぇ! どれ私が先に開けてみよう!」
言葉とは裏腹に、声音は明るいね。
そんなアル様をジジ様たちは笑っていたよ。
「あいつは昔からああだぞ。宝箱を見つければ我先に開けてみていたな!」
「それって、ジジ様やボルドさんと冒険者をしていたときですか?」
反対側に並んだジジ様に聞けば、「そうだぞ!」と豪快に笑っていた。
「魔法書が出ればアルともうひとりの魔導士とで、取り合いになっていたな!」
ジジ様は懐かしそうに目を細めていた。
ジジ様が成人して辺境伯を継ぐまでのあいだの、若いときの話だよね。
昔を思い出しているのかもしれないね。
「いいですねぇ。ここの攻略が終わった暁には、ほかのダンジョンも見てみたいです」
ハイエルフのエルさんがニコニコと笑っていたよ。
「ハク君のおかげで、停滞していた経験値がたくさん入ってうれしいですよ!」
メッチャいい笑顔で言われちゃった。
ライさんもそれには同意していた。
「そうだな! もう上がらないものと思っていたのだ。――――それにしても、この先はレイスだのゾンビ以外と戦いたいな」
「まったくだ!」
父様とジジ様も同意して笑っていた。
視線の先ではアル様が宝箱を開けている。
転がり落ちた大きな魔石はミディちゃんが回収していた。
「おお! これはいい!」
アル様の声に反応して、メエメエさんがバビューンと飛んでいった。
「お金の匂いがしまッス!」
「本当にお金が大好きですね」
背後のヒューゴがつぶやいたよ。
「もういっそのこと、その宝箱に入って眠ったら?」
僕が呆れてそう言うと、みんなが大爆笑していた。
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