第16話 嘆きの迷宮 討伐完了!
父様たちの気合も高まっている。
アル様が視線で僕に指示を出したよ。
リッチ以外を瞬殺だったね。
大杖ではなくドリアードの杖を前に差して、タクトのように振ると同時に、ジジ様とカルロさんとライさんが駆け出した。
アル様とエルさんも詠唱を始めている。
ジジ様たちが動くと同時にレイスが高速で襲いかかってくるんだけど、僕の浄化魔法の白光に焼かれて蒸発した!
レイスの数が多かったせいか、魔石が雨アラレのようにジジ様たちに降っている。
あれは地味に痛そう。
ごめんね~。
「大丈夫だ! 左右のスケルトンも頼む!」
笠の上から僕の頭をなでて、父様は笑顔で駆け出していった。
そのあとにヒューゴが続く。
グリちゃん以外の子たちと一緒に、クロちゃんシロちゃんが飛び出していく。
「みんな気をつけて!」
それだけ叫んで、暴れ出した恐竜スケルトンに杖の照準を合わせる。
まずは左の一体へ向けて直線で浄化魔法を放つ。
すぐに右のもう一体に向ければ、レーザービームのように走っていった。
数秒遅れて着弾すると、恐竜スケルトンはこちらへ向かってくるスピードのまま、ガラガラと砕け落ちて動かなくなった。
僕らの足元まで頭部の骨が飛んでくるのを、ミディ土精霊さんがパンチで粉砕してくれたよ。
残りの獣型スケルトンもサクサク浄化して、僕の役目は終わった。
ホッと息をつく。
「瞬殺ですね!」
小脇に抱えたメエメエさんが拍手していた。
気楽なもんだね。
あとはジジ様たちに任せよう。
いざとなったらすぐに浄化魔法を飛ばす準備をしておくよ。
僕の側に残ったユエちゃんとグリちゃんが一生懸命応援している。
ユエちゃんは強化魔法を全員に飛ばしていた。
グリちゃんは猛スピードで飛ばされてくる、ヒューゴの落下地点にツタのネットを出して、衝撃を押さえてくれている。
ヒューゴが片手を挙げて笑うと、すぐに戦線復帰していった。
リッチキングは手強い。
骨を剣で打ち砕いても、瞬く間に再生してしまうし、口から猛毒ガスを噴き出しているんだ。
髑髏の杖から魔法を放ち、さらにその杖に絡まる大蛇が襲いかかってくる。
「ああ! 骸骨の目玉の穴から何か出てきます!」
メエメエさんの声に弾かれて視線を向ければ、ドロドロとした液体があふれて床に落ち、それが人型のように立ち上がって襲いかかってくるんだ!
「やだ! メッチャ臭い!!」
鼻を摘まんで叫んだ声が、近くにいたエルさんに聞こえたみたい。
吹き出して詠唱に失敗していた。
「ごめんねー!」
謝っておいたよ!
あのドロドロ人間モドキに触れると防具が焼かれるみたい。
アル様とクーさんとモモちゃんが、氷魔法を放って動きを止めても、すぐに形を変えてあふれ出してくるんだ!
間髪入れずにアル様が指示を出す。
「全員いったん退避! セイちゃん頼む!!!」
「あいあい!」
全員が飛び退くと同時に、ドロドロヘドロとリッチキングが蒼炎に包み込まれた!
フウちゃんの風が熱波からみんなを守ってくれている。
そのあいだにタブレット型ポーションで回復を図り、次の攻撃に備える父様たちの姿が見えた!
ドロドロは蒼炎に焼かれて、床に黒いシミだけが残ったけれど、リッチは融けて崩れても、また復活してくるんだ。
再生させまいと、ジジ様が大剣を振るい、ヒューゴが巨大戦斧を叩きつける。
スイッチするように父様とカルロさんが飛び込み、アル様とエルさんは休むことなく魔法で攻撃をしかけている!
「手に汗握る攻防とはこのことですね!」
メエメエさんの瞳孔が開き切っていて怖い!
そこへピッカちゃんの閃光弾が爆ぜる!
「ああ! 目がッ!? 目があぁぁぁーーッ!!!!!」
メエメエさんが両目を押さえてジタバタしていた。
アホだね!
僕はとっさに目を閉じたから平気さ!
戦闘はしばらく続いた。
僕は湧き出るドロドロに杖の照準を合わせて、小刻みに浄化魔法を打ち出してみる。
幸いドロドロの動きは遅く、三割くらいの確率で当たったよ!
センスのない僕にしては上出来だと思わない?
仕損じた浄化魔法は戦うみんなに当たったりして、ピカピカリフレッシュさせていた。
戦いながらアル様が「あっはっは~!」と愉快そうに笑っていたけど。
それにしてもあのドロドロを何とかしたいよね。
よし!
あの目玉の穴を狙ってみよう!
いまだ目を押さえて悶えるメエメエさんを床に下ろして、ミディ部隊に見ていてもらう。
ドリアードの杖を構えようとしたとき、目の前に大口を開けた大蛇が迫っていた!?
ゲゲッ!
ビビッて動けなくなった僕の横から、グリちゃんが飛び出し、大蛇の口めがけて何かを放り入れた。
ユエちゃんがその真上から、お月様のステッキを蛇の頭蓋へ叩き込む!
どこにそんな力が眠っていたのか、物理攻撃で蛇の口を塞いだだけでなく、床に打ちつけていたんだよ!
大蛇はバッタンバッタンと、うねりくねりながら身悶える。
頭を床に押さえつけられたまま尻尾を振り上げ、僕を打ちつけようとしたその刹那、大蛇の身体が大きく膨らんで爆ぜた!!
その身が千切れ飛ぶさまを、うっかりガン見してしまったよッ!?
スローモーションのように破裂する肉片が、立ち上る紫のモクモクにかすむ!
そのときようやく、グリちゃんが投げたものの正体がわかった!
やがて大蛇は塵になって霧散し、あとには魔除玉『モクモク君三号DX』の紫煙と、魔石と蛇皮が残された。
ちりじりになったのに、蛇皮が残る不思議。
これがダンジョン産の魔物なのかッ!?
グロ光景を見せられた僕は、ちょっと動揺して変なことに感心してしまった。
おお……。
おお!
「ナイス! グリちゃんユエちゃん!!」
「やった~!」
「イエーイ!」
三人でハイタッチして、勝利の喜びを分かち合った。
ふたりが大蛇を倒してくれたんだから、僕も頑張らなくっちゃ!
再び体勢を立て直し、杖を構え、浄化魔法を放つ!
僕の魔法は父様たちを傷つけないし、リッチの頭蓋は十メーテの高さにあるから、思いっ切り遠慮なく発射した。
あのドロドロと口から出るガスごと祓ってしまえ!!!
複数の浄化ビームがリッチの頭部めがけて光の速さで走る。
ぶつかり、
ドパーンッ!? と爆音を挙げて粉砕した!
あれ?
リッチの巨大な身体が前に向かって、ゆっくりと倒れ込んできたよ。
その下にいたライさんとカルロさんとアル様が、慌てて横へ退避していた。
リッチの身体は床に激突すると同時に砕け散り、やがて塵となって消えていく。
あ然とするジジ様と父様の顔が見えた。
魔法の詠唱を止めたエルさんが、口元をヒクヒクさせながらこっちを見ている。
弾けるようなアル様の笑い声が響き、やがて全員が爆笑していた。
あれれ?
僕が討伐しちゃったみたい?
何はともあれ、第一階層討伐完了だね!
てへぺろ、ごめんね~!
急転直下で戦いが終わり、それぞれがその場にくずおれるように座り込んだ。
苦しさ半分、おかしさ半分で、お腹を抱えてヒーヒー言っているよ。
力が抜けたんだね……。
壁際に控えていたミディ部隊がポーションを持って飛んでいき、床に散らばる魔石を回収していた。
スケルトンとリッチの魔石は、中ボスのものより一回りも二回りも大きいね。
最初にリッチがいた祭壇には、宝箱が出現していた。
おお!
あれが噂のダンジョンのお宝さん!
「討伐したのはハクなのだから、開けてご覧よ」
ようやく笑いが収まったのか、アル様が目尻の涙を拭いながら僕を促した。
グリちゃんとユエちゃんと一緒にテクテク歩いて祭壇を上り、宝箱に近づいていく。
金具に手を触れるとき、不安になって聞いてみた。
「ここから別の魔物が出たりしない?」
ほら、ゲームだとミミックが出なかったっけ?
「討伐報酬だから大丈夫だぞ!」
ジジ様が笑いながら教えてくれたよ。
そうなのね。
意を決してフタを開ければ、中には金銀財宝が詰まっていたよ。
その上に弓矢とローブと魔導書が載っていた。
まずはその三つを寄せて、財宝は箱ごとマジックバッグにしまっておく。
アル様たちのところに戻って、三つのお宝を床に置いた。
そこでマッピングスキルを開いて鑑定してみる。
「弓矢は魔法銀製で、死霊退治の魔法が付与されているみたいだよ。こっちは魔除けのローブだって。最後の魔導書は聖魔法の習得ができるみたい」
僕の鑑定ではそのくらいしかわからない。
これが植物とか鉱石なら、もうちょっと詳しく出るんだけどね。
アル様とエルさんもそれぞれ鑑定してうなずいていたよ。
「ふむ。今後の攻略に役立つかもしれないねぇ」
「三人で分けたほうが良さそうですね」
そんなことを話し合っていた。
まずはここでゆっくり疲れを取って、食事を済ませることにした。
幸いこのダンジョンでは、このあとボス戦を控えるパーティーがいるわけではない。
この部屋を出れば、二階層へ続く階段があって、そこでも休憩はできるそうだよ。
ひとたびフロアに立ち入れば、魔物が襲ってくるんだってさ。
階段だとゆっくりできないから、ここでしっかり体力を取り戻そう。
みんなで笑いながらワイワイと食事を済ませた。
サクッと、これにて第一階層終了!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます