第15話 嘆きの迷宮 最終戦

 そんなわけで、安全地帯周辺を徘徊しているレイス&スケルトンをサクッと浄化すると、リッチまでの道を作ってから、ぐるり一周遺跡都市の旅をして戻ってきた。

 その後、ジジ様たちが「行くぞーッ!?」「オーッ!!!」と駆けていったので、僕はリッチの動向に気を配りながら、ミディ部隊とともに魔石やらの素材回収に向かった。

「何げにこれってボロ儲けじゃない?」

 大きな恐竜スケルトンの魔石を手に取ってみる。

 ずっしりと重く高濃度の魔力を含んだ魔石は、僕の浄化魔法ですでにきれいになっているので、ミディちゃんたちも素手で拾えるよ。

 ユエちゃんも徐々に影渡りの範囲を拡張し、一気に影の中へ引きずり込んでいた。

 今は回収作業が楽しくて仕方がないみたい。


「第一階層が死霊魔物で良かったですよ。何しろハク様の魔法と相性がいいというか、絶対的な優位に立てますからね。逆に言えばほかの方々との相性は最悪です。彼らにとってこの階層はより良い鍛錬になるでしょう」

 メエメエさんはシロちゃんの背に乗りながら、器用に魔石を闇に引きずり込んでいた。

「今ごろソウコちゃんがカッカしているんじゃない?」

 冷やかすように言えば、メエメエさんがキッと僕を睨んだ。

「考えないようにしているんですから、口に出さないでください!!」

 僕は思わず笑ってしまったよ。


 一周して戻り、最後に安全地帯周辺の魔石と素材を拾い終わるころ、「ハクー! 頼むー!」と声がかかったので、サクッと浄化魔法を飛ばして戦闘終了。

「クソッ! あと一歩が足らん!!」

「決定打に欠けるからねぇ……」

 そんな悪態をつきながらも、目をギラギラさせていた。


 安全地帯で休憩→リッチ戦→休憩→リッチ戦。

 リベンジ三回戦目でようやく討伐することができた。

 このころにはすでに真夜中だった――――。



 僕は精霊さんたちと一緒にウサウサテントの中で爆睡した。

 テントの中には個室が四部屋あって、ベッドや家具まで備えつけられている。

 さらにトイレと簡易シャワー、小さなキッチンスペースもあった。

 奥に小さな扉があって、そこから異空間の小部屋につながり、さらにその先の扉から植物園に行けるんだけど、今日はもうそれどころではなく、バタンキューで意識を失ったんだ。

 ちなみに、僕と父様とヒューゴと精霊さんが一緒のテントで休んだ。


 ジジ様とカルロさんとアル様は、もうひとつのウサウサテントで、ライさんとエルさんはワンワンテントを使用している。



 翌日はちょっと遅く目が覚めた。

 ゴソゴソと起き出して個室から出れば、すでに父様とヒューゴの姿が見えない。

 外から話し声といい匂いがしてきたので、手早く身支度を整えて、精霊さんたちと一緒にテントを飛び出した。

 グリちゃんたちのお腹が、キューキューグーグー大合唱しているよ!


「お早うございます! 寝坊しました!」

 安全地帯の中は薄暗いままで、なんだかシャキッとしないね。

「お早う。よく眠れたかい? みんなもお早う。すぐご飯だよ」

 父様が笑顔で挨拶すると、みんなも「おはよー」「おなかぺこぺこー」と返事をしていた。

 それぞれに挨拶して、僕は所定の位置に座った。


 精霊さんたちはマジックバッグから朝食を出して、モリモリ食べ始めたよ。

 メエメエさんが魔力の実を山盛り用意し、中央に置いていた。

「たくさん食べてください! 今日は最終決戦です! 特にピッカちゃんの燦燦パワーに期待です!!」

「まかせて~!」

 元気に返事をしていた。

 そう、死霊系にはピッカちゃんの燦燦ビームも効果ありだった。

 精霊王の核と融合して、徐々に力が馴染んできたようで、リッチ戦の最後はピッカちゃんが止めを刺したんだってさ。

 

 次に効果があったのがクーさんで、氷精霊獣のモモちゃんとアイスランスをぶちかましたらしい。

 クーさんの水が聖水の役目を果たすのを見て、アル様がナガレさんの聖水を樽ごとぶつけていたそうだ。

 魔導士なのに力技って……。

 セイちゃんの蒼炎も絶大な効果を発揮するんだけど、細かい操作ができなくて、逆に父様たちに延焼しそうになってやめたそうだ。

 セイちゃんはしょんぼりと項垂れていた。

 次は頑張ろうね!

 ポコちゃんとフウちゃんは、父様たちのガードをしてくれたそうだ。

 みんないい子だね。

 大活躍に感謝して、全員をハグしておいたよ。




 遅い朝食を食べ終えて、準備万端整った。

 いよいよ階層主の城に挑む。

 最後にもう一回、嘆きの迷宮を丸ごと浄化魔法で一掃し、全員で魔石と素材を回収した。

 フロアをきれいに掃除し終わって、あとくされなく開かれた城門橋を渡った。

 目の前には真っ直ぐ続く石畳を進み、その先の階段を上れば、暗く冷たい灰色の巨大扉に辿り着く。

 見上げるほどの大きな扉。

 一度足を踏み入れたら、中にいる魔物を倒さなければ出られないんだって。

 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

 初めてのことだから緊張するよね。

 というか、初心者なのにリッチ戦ってどうかと思わない?

 普通なら瞬殺されてもおかしくない。


 扉を前に、アル様から指示が出された。

「いいかい、ハク。中に入ったら壁際に身を寄せるんだ。うっかり前に進んではいけないよ? そこで敵の種族と数を確認するんだ。予想どおりリッチ、レイス、スケルトンなら、リッチ以外は瞬殺しておくれ。階層主には我々が挑むから、うっかり浄化しないでおくれよ?」

 アル様がニタリと不敵に笑っている。

 なんか、うっかりを二回言われた!

 僕ってどれだけうっかりだと思われているのよ!?

「うっかりから生まれた、うっかり小僧ですからね……」

 メエメエさんがため息をつきながら首を左右に振っていた。

 ひどくない!?


 ガコンと、重低音を響かせて巨大扉が開いた。

 隙間からのぞいた内部は真っ暗。

 ジジ様が堂々と先陣を切って足を踏み入れていく。

 僕は父様とヒューゴに挟まれて、おどおどと進んだ。

 今はシロちゃんに乗っていないよ。

「次はちょっと頑張るニャ!」と、騎獣を拒否された。

 なのでいつでもソラタンを呼び出せるようにしているんだけど、ソラタンの上はシェルターみたいなものだから、最初から乗っていたほうがよくない?

「入場口は混み合いますので、サクサク進んでください」

 メエメエさんにグイグイ背中を押された。


 とりあえず、言われたとおり壁に張りつく。

 メエメエさんを捕まえて、お腹を守るように抱き締めてみた。

「盾にされました!」

 ブツブツ文句を言っているけど、メエメエさんは雷撃でも死なないし、闇精霊だからリッチの攻撃に耐えるかもしれないよね!

 適材適所だよ!

 メエメエさんが手足をバタつかせて逃れようとしても、僕は絶対にこの腕を緩めない!

 顎でメエメエさんのモフモフ頭を抑え込んだ。

 そんな僕らの攻防を、父様とヒューゴはおもしろそうに見ている。

 ボス戦の緊迫感はどこへ行った!?


 全員が中に入ると同時に扉が勝手に閉まり、火の玉みたいな松明が灯っていく。

 巨大な円形の室内は天井が高く、そこに無数のレイスが漂っていた。

 赤い双眼が無数に光っていて気持ち悪いよ!

 正面の祭壇のような場所に、中央にリッチ、左右に恐竜スケルトン、その周りに獣型レイスがうごめいている。

 リッチは外の中ボスとは明らかに格が違う。

 体長十メーテ以上あって、王冠を被り、ゴージャスなマントを羽織っていた。

「予想どおり、リッチキングか……」

 ジジ様が低くつぶやいていた。


 巨大な髑髏どくろの杖に、生きた大蛇が絡まっているから気色が悪い。

 全体的にセンスがない!

 そう思ったけど口には出さない。

 お口チャック、ジー。

 以心伝心、精霊さんたちも口をすぼめていた。

 かわゆす!

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