第17話 第二階層に向かおう
昼食を済ませ、装備を確認したら、いよいよ第二階層へ向けて出発する。
階層主部屋の祭壇奥に扉が隠されていて、そこから次の階層へ行けるようだ。
重い扉を開ければ、三メーテ幅の階段が下へと伸びている。
ここには魔道具の照明もなく、辺りは真っ暗でジメジメした感じだよ。
なんていうか、先の見えない恐怖をかき立てるような不気味さが漂っていた。
「二階層以降は何も資料が残っていないんだよね?」
一階層はハイエルフの魔導士さんから情報をもらったけど、二階層の名前は知らない。
ハイエルフの魔導書を携えたエルさんも、首を振っていた。
「この先に関する記述はありませんでしたが、走り書きのようなメモが挟まっていましたよ」
聞けば手記のようなものだという。
「もともと第一階層の魔物は死霊ではなかったようですよ。スタンピードで下層から上がってきた魔物が滞留して、なんらかの変化が起き、嘆きの迷宮になってしまったようです」
へぇ、何が起きたんだろう……。
「ふむ。単純に考えれば、下層からリッチが上がってきたところで、運悪く封印されてしまった、などかねぇ? そのときに第一階層にいた魔物がレイスとなり、スケルトンと化したと……」
アル様がそんなことをつぶやいた。
「その可能性はあると思います。リッチは上階にいるような魔物ではないですからね」
エルさんも相槌を打っていた。
そういえば、葉っぱさんの話では、最初は飛べない魔物ばかりがあふれてきたって言っていたよね。
レイスは飛べるんだから、ダンジョンに大きな変化が起こったことに間違いはない。
そんなことを考えているうちに、階段を下り切った。
第二階層も薄暗い闇に包まれているね。
「中が見えるか?」
父様が低い声でつぶやけば、先頭に立つヒューゴが首を振っていた。
「いえ。足を踏み入れれば確認できると思いますが……」
動こうとしたヒューゴをアル様が止めた。
「いや、まずはハクの浄化魔法をぶち込もう。何しろリッチ戦のあとだからねぇ。嫌な予感がするよ」
んん?
嫌な予感って何かな?
首をかしげつつも、前に出てヒューゴとアル様の真ん中に並んだ。
「足を踏み出さない限り、魔物は襲ってこないからね」
アル様の言葉にうなずいて、緊張しながら大杖を構え、少しだけ第二階層に差し入れたとき。
バンッ!!?
阻まれた空間の見えない壁に、ベチョリと手形がついてビビッた!?
「ひえっ!」
思わず杖を引っ込めたら、そのグチャグチャに濡れた手が離れていった――――。
「ああ、あれだねぇ……」
「あれだなぁ……」
アル様の残念そうな声に、ジジ様も心底嫌そうにつぶやいた。
見ればヒューゴも父様も、ライさんもエルさんも顔をしかめている。
メエメエさんが僕の肩口に顔を出して、空中に浮かんだ手形をマジマジと見ていた。
「ハク様の浄化魔法で一掃したあとは、全速力で階層主を目指しましょう! ここでの戦闘は回避です! 全員クロちゃんとシロちゃんの背中に乗ってください!!」
「そうだね。ここでの魔石はあきらめようか」
アル様がため息をついて同意した。
その言葉を合図に、みんなが動き始める。
何が何やら、僕は襟首を掴まれて、シロちゃんの背にポイッと乗せられた。
すぐに父様が後ろにまたがり、その後ろにエルさんとヒューゴが乗り込む。
クロちゃんにはアル様とジジ様と、カルロさんとライさんが乗ってスタンバイしている。
僕の前にちゃっかり座ったメエメエさんが指示を出した。
「全員マスクを装着してください! 防臭効果があります!」
慌てて指示に従った。
「階層主部屋はおそらく直線状の真正面にあるでしょう! クロちゃんシロちゃんは迷わず突っ走ってください!」
「わかったニャ」
「真っ直ぐニャ」
二匹が返事をしていた。
「それではハク様! 遠慮なくガツンと浄化魔法をぶっ放し、フロアを一気に制圧しましょう!!」
行け行けゴーゴーと、蹄を振り上げていたよ。
困惑しつつも、ここは素直に指示に従おう。
大杖の先に魔力を集めれば、白い光が輝き出す。
いつでも魔法を発動できるようにして、シロちゃんの頭上に杖を差し出し、真正面に構え持つ。
杖の先端が境界を超えた瞬間に、見えない壁にバンバンバンッと、無数の手形がついたと思ったら、腐敗した顔の側面が押しつけられたよッ!?
まごうことなく、ゾンビ集団が入り口にあふれ返っていたッ!!
そのおぞましさといったらッ!
「ひょえぇぇぇぇ~~ッ!!!!!」
大絶叫と同時に浄化魔法を発動していた!
なぜかアル様がクロちゃんの上で大笑いしていたよ!
何がおかしいのよッ!?
第二階層に放った白光が階段にもあふれ出してくると、「行くぞ!」と言うアル様の合図に合わせて、巨大ニャンコズが軽やかに走り出した!
第二階層の境界を超えるとき、まだ浄化の魔法が空間を満たしていた。
暗視ゴーグルでも周囲をハッキリと視認できなかったけれど、前にいるメエメエさんの黒毛は見えた。
お腹を支えてくれる父様の力強い二の腕も感じる。
大丈夫だ、落ち着いていこう!
「ハク様! 周囲の状況が判明した時点で、すぐに二発目を発動できるように準備していてください!」
「うん! 大丈夫だよ!」
すぐにメエメエさんの声に反応した。
近くにはグリちゃんたち七人の気配が感じられるから、落ち着いていられる。
ほかの人たちも大丈夫。
ミディちゃんたちもはぐれず、しっかりついてきている。
シロちゃんが迷わず駆けていく先に、景色が薄らと見え始めた。
そこにあるのは無数の石の墓標。
足元には鈍色に輝く無数の魔石が転がっている。
後ろを見れば、クロちゃんが遅れずついてきていた。
ミディちゃんたちが大きな魔石だけをポツポツ拾っているようだけど、スピードを落とさない範囲にとどめているようだ。
ちょっともったいないなぁと思ったとき。
ずっと後ろのほうで、地面や墓石の下から、湧き出るように腐敗した死体があふれ出てくるのが見えた!
「チッ! リポップが早いぞ!」
クロちゃんの最後尾に乗ったライさんの声が聞こえた。
同時にヒューゴとカルロさんが、『モクモク君DX』を後方に向けて転がしている!
そこへミディ火精霊の子が魔法を飛ばすと、一気に紫の煙が吹き上がる。
その煙に触れたゾンビ軍団がバタバタと倒れ、のたうち回っていたよ!
蚊取り線香ならぬ、ゾンビ線香だねッ!!
「アホなことを考えていないで、もう一度前方に魔法を放ってください!」
メエメエさんのツッコミが入ったよ!
耳元で父様の押し殺すような笑い声が聞こえた。
緊張感がなくて、ごめんね~っ!
よ~し、第二弾、発射ッ!
大杖に満ちた光が、前方に走っていく。
フウちゃんとセイちゃんが背後に向かって魔法を飛ばすと、湧き出るゾンビ集団を暴風が吹き飛ばし、シロちゃんクロちゃんが爆炎の追い風を受けて加速した。
グンと正面にかかる風圧に押されても、父様が支えてくれるので吹き飛ばされることはない。
シロちゃんクロちゃんは、一目散で駆け抜けていった。
「あそこに教会のような建物が見えます! あれが階層主部屋ですね!」
メエメエさんの声が聞こえて前を向けば、僕らの行く手に魔獣型の巨大なゾンビが複数体待ち構えていた。
「中ボスだ! セイちゃん、火魔法用意!」
アル様の声に、セイちゃんが一行の前に飛び出すと、「放て!」の合図で、口から息をフッと吐き出した。
軽い息吹。
けれどそれは、地形を変えるほどの爆炎となって、腐り落ちるゾンビの死肉をも一瞬で蒸発させたんだ!
「アッツいニャ!」
先頭を行くシロちゃんが抗議しているけど、その背に乗る僕らも同じだよ!
すぐに僕らの周りに魔力のバリアーを張った。
アル様もクロちゃんの周りに結界を張っている。
「私の美毛が燃えました!?」
見ればメエメエさんの頭頂部に火の粉が飛んでチリチリしているので、仕方なく手でバシバシ叩いて消してあげたよ!
僕って優しいよね!
感謝してね!!
「もっと早くバリアーを張ってください! というか、力を入れて叩くなんて、痛いデッス!! 酷いデッス!!!」
文句を言われたよ!
親切を
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