第13話 嘆きの迷宮 中ボス登場?
ヒューゴが巨大な戦斧に、土魔法と剛力を載せて振り下ろす。
硬い骨を粉々に打ち砕き、地面をも粉砕していた。
自分の足場も崩れ、軽いステップで背後に飛んでいるよ。
熊男とは思えない身軽さだ。
飛んだ先にも大きなスケルトンが鋭い牙を剥き出しに襲いかかる!
それを横に回避しながら、あばら骨を真横に一閃していた。
おお!
ヒューゴ、カッコイイ!
ミディちゃんがその雄姿を撮影しているよ!
しかし、叩いても砕いても終わりが見えない。
さすがに疲労の色が浮かんできた。
そこで僕は短いドリアードの杖を取り出す。
修復し始めた恐竜スケルトンに向かって、普通の『モクモク君三号』を投球し、それめがけて浄化光線を放つ!
浄化の光が再生しかけた骨の中心をうがち、その真ん中で紫煙が上がった。
「これは奇跡です! 運動音痴なのに命中しましたぁぁッ!」
メエメエさんは黙って!!
スケルトンは中身がないとはいえ、身体の中心で強力魔除玉を受けては堪ったものではないようだ!
「普通の魔除玉でも弱体化できるみたい! セイちゃん、
「あいあい!」
遠くにいたセイちゃんが蒼炎の弾丸を打ち出した。
それは着弾と同時に爆ぜ、スケルトンは塵も残さず消失したよ!
「やったね!」
僕はのん気にグリちゃんとユエちゃんとハイタッチをした。
セイちゃんも上空でガッツポーズを決めていたよ。
もう一体のスケルトンに、ヒューゴが小粒の魔除玉爆弾をぶちかましていた!
いつかのあの失敗作を改良した、悪夢の小さな魔除玉が爆ぜると、一気に紫煙が膨らんで、木っ端微塵になっていた。
「ああ! 最初から使えばよかった!」
ヒューゴが忌々しそうに叫んで、タブレット型ポーションをガリガリと齧っていた。
それから別の大型恐竜スケルトンに向かって、猛然と突撃していったよ!
脳筋だね!
ヒューゴが走っていったそのあとには、僕の頭の大きさほどの魔石が転がり、砕けた骨が残されている。
ミディ部隊が飛んできて、魔道具のトングでそれらを回収していたよ。
ミディちゃんたちも大忙しだね!
その後もドリアードの杖から浄化光線をあちこちに飛ばした。
これくらいならみんなの邪魔にはならないだろう。
父様もシルルちゃんの応援を受けて、問題なく戦っている。
あ、シルルちゃんはミディ部隊の選抜メンバーに入っているんだよ。
父様の頼れる相棒だね!
ジジ様とカルロさんとアル様は心配ないだろうし、ライさんもエルさんも余裕で戦っている。
とりあえず、地道にレイスとスケルトンをやっつけていけば、この階層はなんとかなりそうかな?
そんな油断をしていると、不意に背後に巨大な魔力の塊を感じた!
「むむ! 階層主ではないと思いますが、このフロア最大の敵です!!!」
メエメエさんが叫んだ。
振り向けばそこに、襤褸ローブを羽織った巨大な骸骨が浮かんでいたよ!
メエメエさん、メエメエさん!
あれは噂のリッチではないでしょうか?
「なんということでしょう! 一階層の中ボスにしては凶悪過ぎだと思いマックス!!!」
メエメエさんが雄叫びを上げていた。
キャァァーーッ!
なんてやっている場合ではない!
シロちゃんとクロちゃんが身体を低くして威嚇の唸り声を上げた。
僕は大杖に持ち替えて構える。
迷っている場合ではないと思う!
渾身の浄化魔法を放つ準備が整った。
いざ!
「ハクーッ!」
「雑魚は任せた!!!!!」
アル様とジジ様が叫んで、矢のようにリッチに向かって飛んでいったよ!
エェッ!
背後に危険を察知した僕は、杖の先をグルリと巡らせ、一気に浄化魔法を放った!
視界を埋め尽くす白光の中から、父様たちが飛び出してくる。
そして僕を通り越し、みんながリッチに向かって駆けていったんだ。
すれ違い、通り過ぎるときに見た父様は笑顔だった――――。
きっと僕以外はみんな脳筋。
無言で杖の先を雑魚様一同に向けて振るったよ。
南無、成仏されたし!
合掌。
とりあえず。
「ユエちゃん、みんなに強化魔法をぶっ放してあげて?」
「いいよー!」
ユエちゃんの明るい声とともに、なぜか精霊さんたちもリッチに向かっていったんだよね。
君たち力をつけてから好戦的になったんじゃない?
グリちゃんは僕と一緒に応援要員だけどさ!
植物魔法でリッチに向かうのは無謀だもんね!
浄化魔法の光が消えるころ、地面に落ちた無数の魔石と素材を、ミディ部隊がせっせと回収していた。
仕方がないと言って、メエメエさんも闇魔法で広範囲の掃除を始めていたよ。
「これはお金! これはお金ぇぇ~~ッ!!」
念仏のように唱える声が聞こえていた。
メエメエさんもまた、金の亡者となり果てていた。
ヤバいね、メエメエさん!
とりあえず、あのリッチ戦の周囲を一周して、レイス&スケルトンを討伐に行こう。
シロちゃんの駆け足とともに浄化しながら、ぐるり一周して戻ってきた。
何げにクロちゃんはシロちゃんの後ろを走っていたね。
戦う意思がまったくなかった。
そんな最中に僕は考える。
思うんだけど、ここに嘆きの迷宮って名前をつけたのは、大昔のハイエルフさんたちだよね?
思い返せばレイスたちは、おぞましい唸り声を上げていた気がする。
結界にぶつかる音のほうがうるさくて、すっかり忘れていたよ。
そうあれは、幽霊の嘆き声だ。
今はもう聞こえないけど。
ところで、迷宮ってなんだろう?
ここは大きな遺跡都市のようで、その家々からレイスが飛び出してきたよね?
あれが彼らの家だとすれば、この都市全部がお化け屋敷のようなものだ。
薄暗い曇天と相まって、全体が灰色に染まっているよ。
そこであらためてマッピング画面を見てみれば、なるほど、ずいぶんと入り組んだ構造をしているね。
僕のように
迷宮と呼ぶにはちょっと規模が小さい気もするけど。
そんなのん気なことを言っていられるのは、僕のスキルがあればこそだよね。
しみじみと、マッピングスキルと浄化魔法に感謝する。
元はただの生活魔法だったのに。
よくも化けたものだと思うよ。
考え込む僕に、グリちゃんが「どうぞー」とマドレーヌを恵んでくれた。
ふたりでうまうま食べているとユエちゃんも戻ってきて、一緒にシロちゃんの上に座って食べる。
「魔法を使うとお腹が空くよね!」
ユエちゃんが笑顔で言うと、グリちゃんがコクコクとうなずいていた。
グリちゃんは特に何もしていない。
だけどかわいいから許します。
ほのぼのする僕らのもとに、回収を終えたメエメエさんとミディ部隊が戻ってきた。
「みんなも休憩してね。あっちはまだ時間がかかりそうだから、ゆっくりおやつでも食べていてね?」
声をかければミディ部隊は笑顔でうなずいていた。
「ずいぶんのん気ですね! あっちは大丈夫なんですか?」
メエメエさんが呆れたように言いながらも、グリちゃんからお菓子をもらっている。
リッチ戦に視線を向ければ、父様やジジ様が飛び回っているのが見えるよ。
「戦うことが楽しいみたいだよ。手を出すと怒られそうだから様子見中なの」
メエメエさんは糸目になって、遠くで暴れるリッチを見つめていた。
あ、目からビームが出た!
口から黒い霧を吐いているよ!!
さすが上位の魔物だよね~。
「ああそうだ、どこかに安全地帯はないかな? あの様子だと戦闘のあとはしばらく動けないと思うから、先に探しておいてくれる?」
メエメエさんにお願いしたら、糸目のまま振り返って、モフモフアタックを食らわせてきた!
「人使いが荒いですね!」
そう言いつつも、メエメエさんは影に消えた。
それを追うように「ボクも行くよ!」とユエちゃんが続き、ならばとミディ闇精霊の子もついていった。
ユエちゃんは実地で影渡りを学ぶようだ。
頑張ってね!
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