第12話 嘆きの迷宮 魔物の正体

 しばらくジッとしていると、メエメエさんとユエちゃんが何かを察知したようだ。

「来ます! 備えてください!」

「何か来るよ! 警戒してっ!?」

 ふたりが同時に叫ぶと、瞬く間にアル様が結界を張った。


 一同が緊張する中、周囲の空気が揺らめく!


 古代遺跡の窓や入り口から、黒い影が一斉に飛び出してきた!

 もの凄い数の黒い影が、アル様の結界と浄化魔法のベールにぶつかって、豪快に砕け散っていくんだよ!

 バンバンバンバン、やかましい!?

 周囲は黒い風で埋め尽くされ、何が何やらさっぱりわからない。

 ゴーグルに映し出される、おびただしい数の赤いマーカーに戦慄した。

「ひゃぁ!」

 結界に守られているとわかっていても、思わず身体を縮こまらせてしまうよ!

 知らず大杖を握る手に力がこもるのを、メエメエさんによって止められた。


「今ハク様が浄化魔法を発動すると、振り出しに戻ります! 怖くても抑えてください!!」

 そう言って、なぜか僕の顔にしがみつくメエメエさん。

 いやいや、前が見えないし、僕は羊吸いをする趣味はない!

 メエメエさんはほのかなシャボンの匂いがしたけど!?

 獣臭くなくて良かったよ!

「私は獣ではありません! 精霊獣です!!」

 抗議の声を上げていた。

 のん気に僕らのやり取りを見ていたアル様が、「獣に違いはないねぇ」と、笑ってツッコミを入れていた!


 今ってそういう感じでいいのッ!?


 メエメエさんのおかげで視界が奪われ、耳で聞こえる情報しか入ってこない。

 気持ちが少し落ち着いて、冷静になれたみたい。

 バンバンぶつかる音のほかに、カンカン音が響いているんだけど、浄化魔法のベールに触れた瞬間に、魔石に変わって落ちているのかな?

 それってこの浄化笠の浄化魔法が強力なのか、それともここの魔物が弱いのか……。

 うむぅ。

 

 しばらくするとぶつかる音が消えてきた。

 魔物の襲撃が終わったのかな?

 するとアル様のため息交じりの声が耳に届いた。

「ああ、これはいけないねぇ……」

 心底困ったような響きに、顔に張りついたメエメエさんを剥がして、周囲に視線を向ける。

 結界の外から、こちらを窺い見る黒い影の双眼が、無数に赤く輝いていた。

 

 そこにいたのは、実体のない亡霊レイス

 嘆きの迷宮って、レイスの巣窟ってことぉーーッ!?

 背後にちらほら白い骸骨も見えるよ!


「いやはや、レイスには物理攻撃は使えないねぇ。ここはどうやらハク向きのようだねぇ?」

 にっこり笑って僕を見るのはやめて!

「僕の魔法で二時間おきに一掃してもいいけど、それだと僕はここから動けないよ!」

 そう言ってからハッと気づいた。

 それはそれで、ここより危険な下層に行かなくていいってことでは?

 打算が頭を駆け巡った!


「アッハッハ~! なぁに、やりようはあるさ!」

 急にアル様が笑い出し、大きな弓を取り出した。

「まずは改良版『モクモク君三号DX』をぶつけてみよう!」

 アル様がつがえた弓の先には、進化系の小粒魔除玉がくっついていた!

 わお! 不格好だね!

 アル様が放った矢は放物線を描きながら飛んでいき、着弾と同時に大爆発を引き起こし、レイス&スケルトンを建物ごと吹き飛ばしていた!!

 モクモクと上がる紫の爆炎と煙に、周囲にいたレイスがのた打ち回って魔石に変わっていく。

『モクモク君三号DX』恐るべし!

 スケルトンさえもガラガラと崩れていくんだ。

「あとは止めを刺せばいいだろう」

 アル様は楽しそうに矢を放ち、あちらこちらで大爆発させていたよ!


「よし! ならばわしがこの剣で払ってやろう!」

 ジジ様は妖精界で買ってきた緋色の大剣を、右手前に掲げ持った。

 ホームラン宣言かな?

「危ないから結界の外でやってくれ」

 しっしっと、アル様が素っ気なくジジ様を追い出していた。

「おお、すまんな!」

 ジジ様はまったく気にする様子もなく、一歩二歩と結界の外へ足を踏み出し、大きく振りかぶって縦一閃に斬撃を放ったよ!


 その直線状にいた無数のレイスが一瞬で蒸発するのを、僕は口を開けてみていた。

 ハイエルフのライさんは瞳を輝かせて、「素晴らしい剣だな!」と絶賛している。

 ジジ様に続けとばかりに、父様とヒューゴも自慢の武器を振るっていたよ。

 ラビラビさんプレゼンツの魔導武器は、見事にレイスを打ち滅ぼしていた。

 負けじとライさんとエルさんも参戦している。


「ハク様の出番はなさそうですね。精々打ちもらしを一掃処分でしょうか?」

 メエメエさんがそうつぶやいた。

 まるで僕はワゴンセールの売れ残り担当のようだね!

 

 見ればグリちゃんとユエちゃん以外の子たちも参戦しているよ。

 わぁ、セイちゃんの蒼炎に建物が一瞬で融けたよ!

 魔石が融けないのが不思議だよね~。

 僕はグリちゃんとユエちゃんと一緒に、手を叩いてみんなを応援した。


「つまらないニャ」

 悪態をつくクロちゃんの声が聞こえたよ!

 シロちゃんは背中をワシャワシャしてあげたら、喉をゴロゴロ鳴らしてご機嫌だった。


 僕はみんなを応援しながら、レイスを観察していた。

 レイスは人のような形をしたものが五割、動物の形をしたものが三割、そして大きな魔物型が二割混じっている。

 そのほかに上位種と思しき、魔獣型の大型スケルトンが混ざっているね。

 

 人型レイスの中にも階級があるのか、落とす魔石の大きさが違った。

 上位種のレイスは自ら腐敗の魔法を放ってくる。

「あの魔法に触れると身体が腐り落ちます。あっちのレイスは毒を吐くようですね!」

 メエメエさんが興奮したように、魔道具を取り出して撮影していた。

「それ何?」

 気になったので聞いてみれば、「撮影の魔道具です!」と返事が返ってきた。

 えぇ?


「ラビラビさんが作った魔道具です! これで撮影したものが、ラビラビさんが持つ録画の魔道具に転送されます! リアル再生可能ですから、今ごろお屋敷でも観戦しているかもしれませんよ!」

 メエメエ・カメラマンの言葉に、アル様が振り返ってウィンクしていた!

 いったい何を作っているのよ!!

 グリちゃんとユエちゃんが、録画の魔道具の前に出て、ニッパーと笑っていたよ。

「あ! 邪魔しないでください! 後ろが映りません!!」

 メエメエさんが慌てていた。

 もう勝手にしてよ。




 そうそう、レイスにも階級がある、だっけ?

 大きな動物型のレイスがジジ様に飛びかかった!

 緋色の剣で一閃されて霧散したけど、また別の場所に集まって形作っているよ。

 人型よりも動物型のレイスが上位なのかな?

 さらにヒューゴが戦斧を振り下ろしている骨の大型魔獣は、なんというか恐竜の化石のようだった。

 骨は一瞬で砕け散るものの、すぐに再生を始めてしまう。

 そこへエルさんの魔法の槍が飛んでいった!

 それでも骨の魔物は復活するんだよっ!?


「あれはさすがにヤバくない?」

 手に汗握る激戦を見ていた僕の口から、思わず声がこぼれていた。

 メエメエさんも撮影の魔道具片手に、難しい顔をしている。

「どこかに核があると思うのですが……」

「それって魔石じゃないの?」

「魔石によって動いているわけではないと思いますよ? 心臓部はほかにあるはずです」

 そんな会話をしていると、シロちゃんが欠伸をしながら教えてくれた。

「大森林にいる魔物には心臓があるニャ」

「そうニャ。骨は知らないニャ」

 クロちゃんが毛繕いをしながら相槌を打っている。

 参戦する気は微塵もなさそうだ。

 これがワンコ型精霊獣だったら、喜び勇んで駆け出したのだろうか?


「ふむ、そうなると魔石は真珠のように形成されるのでしょうか?」

 メエメエさんが撮影の魔道具を放り投げて、探偵のポーズで推理していたよ。

 ミディちゃんが飛んできて、魔道具を持って撮影を再開していたけど。

「ねぇ、スケルトンの心臓部はどこなのよ?」

 僕の質問に答える声はなかった――――。


 とりあえず、頑張れヒューゴ!

 僕は応援の拳を振り上げた。

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