第11話 迷いの迷宮 リポップ待ち

 特に問題が起きることもなく、広場に到着した。

 ロータリー広場の中心には大きな噴水があったけど、水は枯れて魔石が転がっているだけだ。

「魔物がいないニャ! 肩透かしニャ!」

 クロちゃんがつまらなそうに不貞腐れて、床に寝そべっているよ。

 シロちゃんもその横に伏せたので、僕は降りて噴水の縁に腰かけた。

 その横にエルさんも座って、魔導書を引っ張り出して読んでいる。

 研究大好のエルさんもまた、新しい知識に目がないみたい。


 僕はのんびりと周囲を観察してから、マッピングスキル画面を呼び出した。

 それを見れば三チームの動向が確認できるし、俯瞰ふかんでこの遺跡都市を見渡せる。

 もちろん全体を見れるわけではない。

 僕はフウちゃんとピッカちゃんに上空高く飛んでもらった。

 するとさらに広範囲が見渡せたよ。

 さっきいた聖堂の奥は何もないみたい。

 そこからおよそ三千メーテくらいの半円形に、浄化魔法が浸透したようだ。

「あれ? これって第一階層の全域に浄化魔法が届いたのかな? 聖堂の反対側にお城があるみたいだよ。もしかしてそこが二階層の入り口かな?」

 僕がつぶやくと、メエメエさんとエルさんがスキル画面をのぞき込んできた。


「君のスキルには驚かされるねぇ……。一度の魔法で二千メーテ四方を浄化するなんて、規格外だけどおもしろい!」

 エルさんがニコニコ笑っているよ。

「ふむ、第一階層でおよそ二千メーテ四方ですか……。下の階層がこれより狭ければいいのですが、逆だった場合は攻略に時間がかかりそうですね? あとは魔物のリポップ時間が問題ですよ」

「そうだねぇ。今まで長いあいだ攻略されず、力が有り余っているダンジョンだから、短い周期でリポップする可能性があるね……」

 左右からそんなことを言われて戸惑う僕。


「ここに来てから、まだ二十分も立っていないけど、普通のダンジョンだとどのくらいでリポップするの?」

 不安になって聞いてみた。

「私が聞いた話では、初級ダンジョンで一時間くらいでしたか? そのダンジョンによって違うようですよ?」

 メエメエさんが又聞き情報を教えてくれたよ。

「ということはさ、早めにあのお城まで行ったほうがいいんじゃない?」

「おそらくですが、あの城に階層主がいると思います。ここの魔物を知らないまま突入するのは、さすがにリスクが高いですよ」

 え? 階層主??

 何それ、おいしいの?

「この階層最強の敵です! ハク様はプチッと踏まれて瞬殺ですね!」

 メエメエさんが無常の言葉を吐いた!


 しばらくするとユエちゃんたちが、周辺の魔石回収を終えて戻ってきた。

「だいぶ慣れたよ! 五メーテ四方なら見ないでも感知できるようになった!」

 ユエちゃんが得意げに大きな魔石を見せてくれた。

「それでは回収したものを、まとめてソウコちゃんに転送しましょう。送ると念じれば闇の中で勝手に転送されます」

 メエメエさんの指示どおりやってみると、すぐにできたみたい。

 ユエちゃんはほかの子たちと一緒に手をつないで、ピョンピョン飛び跳ね喜んでいた。

 幼子がたわむれる姿がかわいらしい。

 エルさんもほのぼのしていたよ。


 マッピングスキルを観察していると、父様たちが集まってくるのがわかった。

 あらかた回収と探索を終えたのかな?

 ちなみにスキル画面上に、目立った緑色マーカーは見当たらない。

 魔石と素材はまだまだ散らばっているみたいだけど、細かいものまでは全部回収できないかな?

「取り残した魔石とかはどうなるの?」

「一定時間後にダンジョンに吸収されます。次の魔物の材料になるんじゃないですかね?」

 メエメエさんが適当な返事をしているけど、あながち間違っていないだろう。

 ダンジョンは完全リサイクル空間なんだよね?

「ここで死ぬと人も装備も吸収されます」

 ああ、ハイエルフさんたちも朽ちて飲み込まれたと言っていたね……。


 魔石は魔力の結晶だ。

 持ち帰れば高値で取引され、魔道具の動力になる。

 マーレ町に寄港する船も魔道具で動くんだよね。


「魔物を討伐して魔石や素材を持ち出すことで、ダンジョン自体の力を削ぐことになるのかな?」

「そうですね。魔物の数を減らせば減らすだけ、ダンジョンは新たな魔物を生み出します。減らす量が上回ればスタンピードは起こらないことになります。……そういう意味では、ハク様が最初に一掃したことで、ダンジョンの力を大幅に削いだことになりますね。通用するなら各階層で実行してみてもいいでしょう」

 まぁ、一気にフロアごと魔物を消されたら、ダンジョンはリポップにエネルギーを割かなくちゃいけなくなるもんね。

 浅い階層で負荷をかけることは、スタンピードを押さえるのに有効かもしれないね。

 下層であふれたらヤバいけど……。


「問題は一度で消した魔物の数が、徐々に回復するのか、それとも一気に復活するかってことだよね。後者だったとしたら、一瞬で魔物に取り囲まれることになるんじゃない……?」

 想像しただけで恐ろしいよ!

 けれどメエメエさんはにんまりと笑った。

「そうなったらまた浄化魔法で無双してください! 返ってそのほうがダンジョンに負荷をかけられますよ」


 エルさんも横で僕らの会話を聞きながらうなずいていた。


「先を急がず、まずはこの第一階層で様子を見るべきだね。リポップ時間とこの階層の魔物が何かを確認するんだ。討伐に問題がないのなら、別動隊をここに常駐させて、常に数を減らすことを考えてもいい。何しろこの階層が最弱のエリアなんだからね」

 なるほど。

 ダンジョンだって一階層が目減りした状態では、飽和している下層の魔物を増やすことはしないかな?

 もちろんそれは、僕らが勝手に考えていることで、実際はどうかわからないけれど。



 それから数十分経つと、三つのチームが戻ってきた。

 なんだかジジ様とアル様が不満そうな顔をしているね?

「魔物がいなくてつまらん!」

「聞いておくれよ! 宝箱がひとつもないんだよ!」

 ジジ様とアル様はそれぞれ違った意味で憤慨していた。

 魔物がいないのは、僕が浄化しちゃったからだけど、宝箱がないのは、単にこのダンジョンを訪れる者がいないから、用意する必要がなかったんじゃない?

 父様とヒューゴとライさんは苦笑していた。

 カルロさんは相変わらずの無表情だったけど。


 そんな大人げないジジ様とアル様を諭すメエメエさん。

「一階層から欲張ってはいけません。かれこれ二時間が経過しますので、そろそろリポップに備えてください」

 メエメエさんはそう言って全員にポーションを配っていた。

 各自持っているけれど、それは緊急時用にしてもらうそうだ。

 全員がそろっているときは、メエメエさんやミディ部隊が補給を担当してくれる。


「ハク様も水分補給がてら飲んでおいてください」

「うん。わかったよ」

 ここは素直に従っておこう。

 グリちゃんたちとミディ部隊も、魔力の実を食べながらポーションを飲んでいた。

 シュワシュワ味変ポーションうまし!



 僕が被っている笠の浄化魔法は十メーテをカバーするから、その中に納まっていれば、いきなりリポップした魔物に襲われることはないそうだ。

 とりあえず、噴水から離れて、何もない平地に移動する。

 昼寝をしていたシロちゃんが伸びをしてから、僕を背中に乗せてくれた。

「リポップが長引くようならブラッシングしてあげるね」

「! 頼むニャ!」

「お願いニャ!!」

 クロちゃんも寄ってきて、二匹は尻尾をブンブン振り回していた。

 埃が舞うからやめて?

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