第9話 新たな光と闇の精霊王
僕は右手にピッカちゃん、左手にユエちゃんの手を引いて、魔法陣の中に足を踏み入れた。
父様たちは僕らを信じて見守っていてくれる。
宙に浮かぶふたつの球体の前に来ると、軽くお辞儀をした。
そのふたつの精霊王の核に向かって、ふたりを送り出す。
「君たちも僕と一緒に行こう!」
心を込めて宣言すると、ふたつの球が輝いて、ピッカちゃんとユエちゃんの中に吸い込まれていった!
まばゆい光の輝き。
労わるように影を作る闇。
陰陽の渦が巻く。
ここに新たな精霊王が誕生したよ!
ピッカちゃんとユエちゃんがフラフラと宙を漂うのを、僕は両手にキャッチして抱き締めた。
「苦しかったりしない? 眠かったら眠ってもいいよ?」
「へいきー!」
「ボクはちょっと眠い……」
うん、ユエちゃんには馴染むまで時間がかかりそうだね!
「ユエちゃん、まりょくのみ!」
グリちゃんがマジックポシェットから魔力の実を取り出して、ユエちゃんの口に押し込んでいた。
「ぼくのも、たべてー!」
「わたしのも~!」
ほかの子たちも次々と差し出していた。
ピッカちゃんは自分のを取り出して「あむあむ」と食べているよ!
「僕のもあげるからね?」
ふたりの頭をなでなですれば、みんなの笑顔が輝いた。
しばらくして、僕らは場所を譲った。
魔法陣の中心に残された魔導書と大杖を、ライさんとエルさんに引き渡すために。
ユエちゃんとピッカちゃんを抱っこして戻り、シロちゃんの背中にポンと乗せれば、父様が笑顔で僕ら全員の頭をなでてくれた。
「頑張ったな!」
「偉いよ」
ジジ様とアル様も目尻を下げてふたりを褒めていた。
カルロさんとヒューゴもほほ笑ましそうに見ているね。
メエメエさんだけは不貞腐れていたけれど!
視線を魔法陣に向ければ、ライさんとエルさんが深く頭を垂れ、何かの文言を唱えていた。
それはハイエルフの葬礼の言葉だったのかもしれない。
魔導士のエルさんが魔導書を、魔法剣士のライさんが大杖を持ち上げると、魔法陣が中心から光の粒子となって消えていく。
あの魔法陣が消えると、このダンジョンの結界が消えるということ。
ここから本当の戦いが始まるんだ。
だけどその前に。
この魔法陣の守護者であった、かつての英霊たちに、今は心から祈りを捧げたい。
いつか遠い未来に、あなたたちの命がつながることを信じて。
なぜなら僕が、そうだったのだから――――。
全員で黙祷を捧げたのち、第一階層とを隔てる扉に向き直った。
いよいよここからが本番だ。
気を引き締めないといけないね。
光と闇の精霊王の核と融合したピッカちゃんとユエちゃんは、一生懸命魔力の実を食べている。
ポコちゃんたちが融合したときは寝込んだのに、そうならないのは彼らが今まで頑張ってきたからだよね。
「うう、ねむい~」
「魔力の実を食べると回復するよ! 食べ続けて!」
ユエちゃんがピッカちゃんを励ましていた。
ほっぺを膨らませてリスのようになっているふたりを、ほかの子たちが応援している。
メエメエさんも魔力の実をどんどん取り出して、全員に食べさせていた。
ついでにハイエルフさんたちにも。
「これは南の大森林で発見した魔力増強の実です! あなたたちハイエルフなら大きな反動がないと思いますので、一日一個食べてください!! およそ半日で効果が現れますよ!」
メエメエさんが差し出すものに、かなり警戒をしているみたい。
それも仕方がないよね。
あのメエメエさんだから、信用なんかない……。
胡散臭そうに星形の魔力の実を見ているライさんとエルさんに、遠慮がちにヒューゴが声をかけていた。
「恐れながら。私は普通の人間ですが、これを毎日半量食べ続けて、二週間後に土魔法(強)が(最強)に変わりました。仲間の風魔法使いには若干副反応が出ましたが、健康を害することはありませんでした」
熊男のヒューゴは見た目に反して人当たりがいい。
メエメエさんは信用ならなくても、ヒューゴの意見なら大丈夫そうだと思ってくれたみたい。
そこへアル様がピカピカの笑顔で割り込んだ!
「こっちの筋力増強のグミもあげよう! 私はこのふたつの実を食べ続け、肉体年齢が若返った上に、なんとすべてのスキルがレベルアップしたのだよッ!!」
なんか笑顔の圧が凄いね。
ライさんは若干引き気味で、魔導士のエルさんは迷わず食いついていた。
「お、おい……。もっと慎重に行動しろ」
「何をおっしゃる! すでに人体実験を済ませ、効果が現れているのなら怖れることはありません! 私の魔法レベルはすべて最強ですが、この先に手が届く可能性があるのなら、迷う必要はないでしょう!」
慌てて止めるライさんに、エルさんが笑顔で答えていた。
ああ、うん……。
人体実験ね。
家の人間は全員喜んで食べていたよ……。
さっきヒューゴが言った、副反応が出た風魔法使いはイザークで、丸一日二十センテくらい空中にフワフワと浮かんでいたんだよね。
増強された風魔法が馴染んだあとは、倍速で走れるようになっていた。
これにルイスが土魔法の重力操作で補助してあげると、イザークは風になって消えた。
リオル兄もおもしろがって訓練していたよ。
違う属性同士の連携訓練も進んで、みんなが曲芸師のような動きをしていたんだ。
僕はそれを見て、なんか違うと思ったけど、口には出さなかったよ。
モリモリシャクシャク、魔力の実と筋力グミを食べ終えた、精霊さんたちとハイエルフさん。
食べてすぐに効果は出ないから、いきなり暴走することもないだろう。
「ピッカちゃんは暴走しそうになったら、全力で魔物にぶつけてね!」
光線で仲間の目を潰しちゃ駄目だよ。
真剣に伝えれば、神妙にコクコクとうなずいていた。
前科ありだからね!
「ユエちゃんは付与魔法が暴走することはないと思うけど、闇魔法を制御できるように、使い方をメエメエさんから教わってね」
メエメエさんを見てから僕に視線を戻し、ユエちゃんは困り眉毛になりつつも、観念したように静かにうなずいた。
「善処するよ!」
うん、頑張ってね。
そのやり取りを見ていたメエメエさんだけが、釈然としない顔をしていた。
君はもっと自覚を持とうね!
出発のその前に。
「ここにあった結界は消えた。まずはここに浄化石を置いていこうか」
アル様がそう言うと、ミディ部隊が聖堂の隅に大きな浄化柱を設置していく。
等間隔で設置された浄化石が作動すれば、聖堂の中がみるみる清浄な空気に変わっていった。
「それなら階段の入り口と、第一階層へ続く扉の前に、結界柱を置きましょう。そうすればダンジョンの外に魔物があふれ出すのを防げるでしょう」
メエメエさんが自ら飛んでいって、大きな結界石をドンドンと置いていた。
表面に刻まれた魔法陣が青く輝く。
青色サンゴの効果は絶大だね。
「これからこの扉を開くことになるが、おそらくこの先は長年閉ざされていたために、瘴気だまりになっているだろう。開けた瞬間に魔物があふれ出す可能性もある」
アル様が真剣な顔で全員の顔を見回した。
「さっきと同じように、扉を開けると同時に、ハクに浄化魔法を打ち込んでもらおう。できるかね?」
問われて魔力量を確認したのち、僕はキリリと答える。
「装備のおかげで回復が早いんだ。さっきと同程度ならまだまだ何発でも打てるよ!」
グッと大杖を握る手に力を込めて宣言すれば、アル様が満足そうにうなずいていた。
「やぁやぁ、頼もしいね。魔物は我らに任せなさい。ミディちゃんたちは決して前に出てはいけないよ。ハクと我らの背後を見張っておくれ」
ジジ様たちが不敵に笑い、ミディ部隊がキリリと敬礼をしていた。
「グリちゃんたちは自由にしていいぞ」
「らじゃーっ!」
笑顔でのん気な返事をしているね。
かわゆす!
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