8. レッテル

 国が行う手法についての話が一区切りつき、私達はいくつものコンビニスイーツをシェアしながら休憩を取る事になった。

 どうやらオリビアは今、絶賛コンビニスイーツにハマっているらしく、いくつものコンビニを梯子して大量のコンビニスイーツを買って来ていたらしい。


「2人で分け合えば1度に何種類も食べる事が出来るから、お得感が半端じゃないね。姉さんはこういう食べ方が好きではなかったから、玲子と出来て嬉しいよ」

「お母さんはちょっと潔癖症な所がありましたからね。でもこんなに食べたら太りますよ?」

「はは、問題ないさ。体調管理の方法は心得ている」


 どうやらオリビアは情報を自分で検証する事が趣味の1つらしく、故意に太ったり痩せたり体調を崩したりしながら、いくつもの体調管理術や通説を自身で試していたそうだ。


「そういえば、先ほどの国が常識を作るという話をしたが、これは別に国に限った話じゃない。例えばそうだね、玲子はセルライトという言葉を知っているかい?」

「えっと、確か脂肪の塊……みたいな感じでしたっけ? すみません、あまりよく知らないです」

「玲子は若いから仕方がないさ。歳をとって来ると代謝が落ちて来るからね、自然とそう言う情報が気になりだす時期が来る」


 そう言うオリビアは、太る事を一切気にしていない様子でパクパクとコンビニスイーツに舌鼓を打ち続けていた。


「セルライトとは皮膚の下にある脂肪が老廃物と混ざり固まった物の事だ……と、美容業界では言われているが、科学的根拠は1つもない」

「えっ、そうなんですか!」

「あぁ、美容業界が突然言い出した名称というだけで医学の世界ではセルライトなんて物は存在しないんだ。だが、美容業界がセルライトという物を作り出したお陰で多くの需要が生まれた。まさに無から金を生み出してみせたのさ」


 無から金を生み出すとオブラートに包んで言っているが、何の根拠もない物を作り出して需要を作るなんてそんなの……。


「医療関係で言えば副反応もそうだね。ここ数年で副反応なんて言葉が突然出てきて、さも当然のように副反応副反応と自称専門家や政治家が宣わっているだろう。だが、元々この副反応なんて言葉はそれまでの医療用語に存在しなかったんだ。それは副作用の名称を変えて、受ける印象をマイルドにしただけなのさ」

「すでに副作用って言葉があるのに、何でわざわざ新しく副反応なんて用語を作ったんですか?」

「さてね、気になるのなら自分で調べてみると良い。副反応と言われ出した年に国内で起きた事や、世界情勢なんかも照らし合わせながら調べれば何か見えて来る物もあるだろうさ」


 そんな雑談を交わしつつ休憩を終え、授業が再開された。


 ……


 …………


 ………………


「さて、次に学ぶのはマスコミのやり口についてだ。さっき話したセルライトや副反応の様に、名称というのはイメージと強く結びついて人に大きな影響を与える。マスコミが行うのは正にこれだ。つまりは『レッテル貼り』という事だね」


 それからオリビアはマスコミの常套手段について説明を続けた。

 マスコミは様々な手段を用いて色んな物にレッテル貼りを行う。


 ・実際にはブームなど来てもいないのに『〇〇ブーム』と名称を付けて紹介し、後からブームを作り出す

 ・都合の悪い主張、もしくは主張をする層に名称を付け、蔑称として流行らせる

 ・主張に偏りのある者達を集め話させる事で、その偏りのある主張を正しい物として印象付ける


「インターネットが普及し、少し手を伸ばせば簡単に情報が手に入る世の中になっても、やはり新聞やテレビや雑誌というのは未だ影響力が大きい。例えば、ある情報をニュースで『デマだ』と主張すれば、多くの者はその情報はデマだったのかと碌に調べもせず納得するだろう」

「そうですね、テレビのニュース番組で嘘を言うとは普通思いませんし……そういう事を言うって事は、ニュースは嘘を教える事が多いって事ですか?」

「国境なき記者団が発表している世界報道自由度ランキングで日本は70位、決して高くはない順位だ。まぁ、これも単なる情報の1つでしかない。実際の信用度は自分で調査して自分で考えると良いさ」


 オリビアは度々こうやって自分で調べる事を進めて来る。

 中にはかなり過去まで遡って調べないといけない事もあって、調べる事と自分で考える事に関しては中々にスパルタだ。


「あぁ、そうそう。少し話は脱線するが、テレビの持つ影響力について分かりやすい話がある。昨今、世界的にも少子化が危険視されているが、テレビを使う事でこれが大幅に改善する……可能性がある」

「えっと、ニュースで結婚や子供の良さをアピールするとかですか?」

「おぉ、流石玲子、ほぼ正解だ。ただ、紹介の仕方でその効果が大きく変わる。……答えは『純愛物や幸せな家族物のドラマを増やす』さ」


 オリビアの言うには、純愛物や幸せな家族物の人気ドラマが放送されている時期は、結婚や妊娠の件数がそうでない時期と比べて明らかに上昇しているとの事だった。

 そして不倫物のドラマが流行っている時期は、マッチングアプリなどの登録件数が増えやすいらしい。人はなんと単純な生き物なのか。


「テレビが如何にイメージを植え付ける力が強いかという事さ。ニュースではよく少子化問題について取り上げているが、そういう観点から今のテレビの在り様を見ると……さて、テレビは少子化という問題に対してどういう立ち位置にいるのだろうね」


 そう言われて私は自分の記憶にある最近のドラマやテレビ番組の事を思い返し……私は少し寒気がした。

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