第125話 海の眷属
突然だが、この世界の魔術スキルには相性がある。例えば火属性は土属性に対して「優性属性」である一方、水属性には「劣勢属性」となる。同様に、土は風に強く火に弱い。風は水に強く土に弱い。水は火に強く風に弱い。なお、火と風、土と水は「親和属性」であり、お互いに仲良しで作用を強め合う。そして光と闇はお互いがクリティカル、優性であり劣勢だ。
まあ、そんな細かいことはどうでもいい。何が言いたいかというと。
『『『ピュイイ!!!(参りました!)』』』
マーマンたちが一斉に腹を見せて直立している。イルカはどうか知らないが、これがマーマンの服従のポーズらしい。
俺たちが空気の玉の中から出られないとたかを括り、「有り金全部置いていけ」みたいなことを言うものだから、ちょっとお灸を据えてやった。甲板でバナナをムシャムシャしていたサモハンを連れてきて、
『命だけは! 命だけはお助けを!!』
『ほんの出来心だったんです!!』
『地上の眷属の食べ物が羨ましくて!!』
「彼らはどうしたんだい、クラウス?」
「なんか俺たちの食べ物が欲しかったみたいです」
やれやれ。「命が惜しかったら代償を払え」なんて直訳したら、ディートリント様が彼らをジェノサイドしかねない。
意外なことに、マーマンは何でも食べた。イルカはサバやイカを食べるって聞いてたけど、やっぱり姿形は似ていても中身は違う生物なのかもしれない。なお、マーマンはオスで、メスはマーメイドだ。マーメイドっていうと美人の人魚ってイメージがあったんだけど、この世界のマーメイドはさっきまで「下賤な地上の眷属め」って嫌らしい
海中に果物を出すと、全部水面に向けてふわふわと浮かんでいってしまう。それを海中に押し戻したのは、俺たちを海底まで導いた渦、水流だった。そう、翼竜が風属性のプロフェッショナルなら、マーマンは水属性のプロフェッショナルなのだ。小さな渦を自在に操っては、それぞれ好きな果物を奪い合っている。こいつらがめついな。
『最初は善意だったのだ……』
カイル王子はぽろりとこぼす。嵐の中で難破船を見つけ、救命ボートの上で潰えそうだった陸の眷属たち。彼らを哀れに思い、近くの陸まで運んでやった。彼らはマーマンたちに謝意を表し、沈んだ積み荷はマーマンに献上すると身振り手振りで表現した。その積み荷にあった人間族の食べ物の美味しかったこと。マーマンたちはその味が忘れられず、付近で遭難しそうな船を助けてはお礼を受け取るということを繰り返していたのだそうだ。
いや、十分怪しい。そもそもマーマン語がわかるのは、今のところ俺だけだ。本当に「積み荷は差し上げます」なんて言われたのか。しかも、俺たちが飲まれた渦は彼らが引き起こしたもの。あの嵐だって人為的なものだ。自分たちの起こした嵐で難破した船を救助するとか、とんだマッチポンプじゃないか。
「それが事実なら、海賊と変わらないな」
艦長さんがしょっぱい顔をしている。
『結界はもとからあったものだ! 決して物盗りのためではない!』
カイル王子が慌てて弁明する。てか、物盗りって自覚あったんだ。
『見ての通り、我らは戦う術に乏しい。海には強大な魔物が多く、我らは知恵を絞り、力を合わせて生き延びてきたのだ』
そう。俺たちを海中に引き寄せた大きな渦を生み出していたのは、海中に無数に漂っていたクラゲとイカたちだ。彼らはマーマンがテイムしたモンスターの幼生で、一匹一匹は微弱な魔力しか持たない。しかし、数百数千の微小な魔力を掛け合わせて、あの大渦と嵐を作り出しているのだという。鑑定すると、「協働魔法」というスキルをゲットした。仕組みさえわかってしまえば生えるヤツだ。
なおテイムの方法だが、『オレサマ、オマエタチ、マルカジリ』で従ってくれるらしい。ここまで鳩、トンボ、翼竜のテイムのやり方を聞いたが、ここが一番野蛮かもしれない。まあ、俺たちもサモハンのウィンドカッターで降伏させたんだから、似たようなものかもしれない。
ともあれ、彼らは海の眷属だ。陸に棲む俺たちよりも、ずっと海に詳しい。ここのバツ印は空振りだったが、他の赤いバツ印——つまり大物の水棲モンスターの情報を知っているかもしれない。
『俺たちが討伐するから、場所だけ教えてくれたら嬉しいんだけど』
俺は彼らに取引を持ちかけた。
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2025.01.01 みなさまあけましておめでとうございます!
昨年は拙作を見つけてくださり、応援してくださって、本当にありがとうございます。
今年もみなさまに少しでも楽しんでいただけますよう、楽しんで執筆してまいりますね。
どうぞみなさまお健やかで、幸せいっぱい楽しいこといっぱいの素敵な一年をお過ごしください。
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