第124話 海の底
船は
いつか魔術スキルを使って潜水艦でも作れないかなって想像してたんだが、意外と呆気なく叶った。いや、水属性や風属性のスキルを使えば、水中での水圧やら空気の供給については問題ないだろうと踏んでいた。問題は、潜水能力だ。空気を内包していれば、どうしても浮力が働いてしまう。いっそ土属性スキルで船の形を作ってから錬金術で鉄にでもして、などと思いつつ、まずは船の構造を知らないと素人考えではダメだろうと思い直し、そのままになっていた。
それが、謎の大渦でどんどんと水底に引き込まれていく。なるほど、船の自重や推進力に頼らず、水流の方から操作するって発想はなかったかもしれない。
「クっ、クラウス殿っ、我々は一体」
「ガルヴァーニの海軍たるもの、こんなことで動揺してどうします!」
「しかし奥方様! すす水面が遥か頭上
「おしゃかないぱい〜」
「ははっ、あれはクラゲさんだね☆」
みんな非日常を楽しんでくれているみたいでよかった。しかし、お目目をキラキラさせて大物を待ち構えるお爺様とベルント様には申し訳ないが、強大な魔物の気配はしない。というより、これはむしろ——
やがて俺たちは、海底までたどり着いた。水深はそう深くない。薄暗くはあるが、ある程度見通しがきく。その海底で俺たちを待ち受けていたのは、イルカだった。
『ピュキー!(おっお前たちッ! どうやってここに立ち入った!)』
「イルカがしゃべった……」
『ピュイ! ピュイ!(誰がイルカだッ! 我ら高貴なマーマンをあれらと一緒にするでない!)』
「はっ? マーマン?」
「クラウスお主、あれの言うことがわかるのか?」
俺以外はマーマンの言葉は通じていないらしい。
つぶらな瞳に愛くるしいすべすべボディ。イルカは海のアイドルだ。しかし中身がこんなに偉そうだとは思わなかった。
『ピュイイ!(だからイルカじゃない!)』
さっきからふんぞり返って俺たちにまくし立てるのは、カイル王子という。しかし彼らは交代で時折息継ぎに水面まで上がるため、シャッフルされたらどれがどれだかわからない。
『ぶ、無礼な! 高貴な私と他のマーマンとの見分けがつかないなど!』
『そんな無茶な……』
『それよりお前たち、どうやってこんなところまで侵入してきたのだ!』
『いや、渦に巻き込まれたら着いちゃったんで』
『陸の眷属は、普通あんな渦に近づいたりしないだろう!』
なんだかテンションの高い王子様だ。常にキレ気味だが、カルシウムが足りていないんじゃないだろうか。
「まあ、イルカってこんなに人に懐くんですのね」
「海上でも時折戯れてくるのです。賢い生き物ですよ」
「ぴゅいぴゅい〜」
さっきまで異常事態に混乱していた海軍の皆さんも、艦を取り巻くイルカたちの愛らしさに目を細めている。しかし当のマーマンたちは『陸の眷属の分際で』『穢らわしい』『本当に毛が生えているんだな』『実に滑稽だ』などとヒソヒソしている。言葉が分からなくて本当に良かった。いや、もしかしたらアロイス様は理解されているかもしれないが。
結局俺しかマーマン語を理解できないようなので、俺がマーマンとの通訳に。交渉はアレクシス様と艦長さん。残りの皆さんは、甲板の上にレジャーシートを広げて海中水族館を満喫中である。なお先ほどまで姿を見せなかった翼竜たちは、船倉に隠れていたらしい。彼らもひょっこりと姿を現し、お弁当に舌鼓を打っている。
「なるほど、あの大渦は防御結界だったのだね」
『我らの脅威を知らしめると共に、みだりに近づいてはならんという警告よ』
「しかし実際、渦に巻き込まれて沈没した事例もありますが」
『わざわざ警告してやっているのに、我らの頭上を侵すのだ。それ相応の報いがあって然るべきではないのか?』
マーマンによれば、命までは奪っていないとのこと。救命ボートで逃げ出す分には捨て置いているらしい。艦長さんが「事実です」と言っていたので、それは間違いなさそうだ。しかし、よく見ると海底に散らばった宝飾品や金貨たち。もしかしてコイツら、わざと富豪の貨物船を狙ってないか?
『というわけで、お前たちもそれ相応の代償を支払うなら見逃してやるが、どうする?』
カイル王子が『ピュイイ……』と嫌らしく
✳︎✳︎✳︎
2024.12.31 今回をもちまして、2024年最後の投稿となります。
本年はたくさんの方に拙作を読んでいただいて、心から感謝申し上げます!
どうか良いお年をお迎えくださいね。
明和里苳(Mehr Licht)
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