第122話 赤いバツ印

 今日の釣果ちょうかは、シーサーペント二匹とサメの魔物が何匹か。小物は数えていない。ガルヴァーニの軍人さんは「十分な討伐量かと」などと恐縮しているが、お爺様は暴れ足りなかったようでしょんもりしている。


「もっとこう、強敵はおらんのかのう」


 よく考えたら前衛アタッカーのお爺様、海の魔物は倒し難いこと山の如しなのだが、戦ってみたいものはしょうがないそうだ。


「あのう、どっかにクラーケンとかリヴァイアサンとかいませんかね……」


 俺が恐々尋ねると、軍人さんはますます困惑した。


「クラウス殿、本艦は大型の魔物に対抗するほどの装備は備えてございません」


 火力は自前で何とかなるものの、大物のモンスターを引き上げて捌くにはキャパが足りない。正直シーサーペントでも手に余るのに、だそうだ。うーん困ったな。


 俺はこの世界の地理に疎い。まして海ならなおさらだ。なので海を知り尽くしたガルヴァーニ海軍に大物の湧きポイントに連れて行ってもらい、片っ端からヒャッハーするつもりだったのに。俺たちには転移陣やスキルなど、俺たちには隠しておきたいことが山ほどある。なので乗組員は最小限、小型艦をお願いしたのだが、それが仇となるとは。だけど大型戦艦なんか出してもらったら、目立つことこの上ない。


 仕方がないので、今回は大規模な討伐は諦めよう。とりあえず大雑把な海図を用意して(大雑把な海図でも結構な機密情報なんだけど)、大型の魔物が生息するらしい海域を教えてもらう。というか、ヤバそうな海域には最初から赤く大きなバツ印が付けてあった。




 この世界の文化レベルは、前世のそれとは大きくかけ離れている。もちろん魔法やスキルがある分、単純に比較することはできない。そして秋津国のように、時代考証がめちゃくちゃな面も見られる。


 果たして、ざっくりとはいえ世界地図があるのは進んでいると見るべきか、さもありなんというべきか。この世界には大きな大陸が四つ、そして秋津のようないくつかの島国が見て取れる。


 俺たちの住む大陸は、ちょうどヨーロッパ大陸からユーラシア大陸までぐるっとひとまとめにしたような感じ。この大陸については、主要な都市や港について細かな書き込みがある。対して、他の三大陸はぼんやりした感じだ。帝国東部ガルヴァーニ侯爵家が擁する港町ギルランダ、その東隣がユボー王国のウダール。ウダールから南に下ると、南大陸がある。なぜウダールが南大陸の玄関口になっているかというと、海流の関係もあるが、途中クラーケンの出没ポイントがあるかららしい。いや、「あった」というべきか。俺が倒しちゃったから、ギルランダも直接南大陸との交易に乗り出したらしい。


 あと二つは、俺たちの大陸から更に西。そしてその南にももう一つ。この二つは細い陸地で繋がっている。俺の脳内イメージだと、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸といった感じだ。なお、ここは秋津から見ると東に位置するため、フィーレンス大使が東大陸と呼んだのはこの北側の大陸のこと。ハーフドワーフの盾聖じゅんせいシェッティルさんが住んでいる(いた?)場所だ。そして祈祷師クレーメンスが住むという南大陸は、どっちを指すのかわからない。


 この近海には、三つのバツ印がついている。一つが、俺がこないだ倒しちゃったクラーケン。そしてもう一つが、今日狩っちゃったシーサーペント。そしてもう一つが——


「大きな渦、ですか」


 船を沈没させる、正体不明の渦。果たしてそれはモンスターなのか、潮流せいなのか。それとも魔の三角海域みたいな怪奇スポットなのか?

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