第121話 ダークホース
「ワシが倒しに来たのに……」
お爺様がしょぼくれている。待って、俺はRPGでよくある「甲板の上で海の魔物とボスバトル」を想像してたんだ。しかし、魔物が出てくる前にアロイス様が「まっくら」されちゃって、肝心の魔物は
「ご老公、ほらっ、シーサーペントですよ! ご老公の一撃で、こんなに綺麗に!」
「このような美しい太刀捌き、私は見たことございませぬ!」
「さすがご老公!」
「むほっ。そ、そうか?」
ガルヴァーニの軍人さんが宥めすかして、ようやくご機嫌が直るお爺様。楽して経験値が手に入るのに、面倒臭いオッサンだ。一方ベルント様は、魔物素材の一部を使って切れ味を試している。
「——こう、こう。そして、こう」
魔物にはそれぞれ、弱点や戦い方がある。シーサーペントは海竜の仲間だ。硬い鱗に覆われて、普通に斬りつけたのではダメージが通りにくい。鱗の継ぎ目を狙う、鱗に逆らうようにダメージを入れる。もしくは、効きにくいと思われる火属性が結構有効だ。エビの殻みたいに、鱗が脆くなる。一番いいのは雷でドカン。
ベルント様は、もともと特別な才能を持たない代わりに、何でも卒なくこなすオールラウンドプレイヤーだ。器用なのではなく、求められる役割に対してコツコツと努力を積み上げることを厭わない。お陰で、男爵家の長男のスペアとして領地経営から、アレクシス様の従者として及第点の剣術。からの、宮廷魔術師団に入団して一般の魔術師と遜色ない腕前に。全て突出した能力を発揮したわけではないが、考えてみれば凄いことだ。
その情熱が今、忍術という一点に注がれている。武術スキルは伸ばすのにめちゃくちゃ手間と時間がかかるが、今やレベル7でブッチギリだ。いや、レベル6から7に上げるまで640億ポイント必要なんだぞ。無理ゲーだ。しかし彼はタブレットから忍術にハマった結果、ついにやり切った。
俺はアルブレヒト邸に引き取られた当初、忍術を生やしてすぐに飽きてしまった。忍術スキルが生えたのは、自作の手裏剣や
しかしそれぞれがレベル4に達した結果、忍術スキルに統合。そしてレベル4の魔術の代わりに、分身というスキルに進化した。ここからが真の忍術の始まりだった。
忍術とは火遁や土遁と称する魔術、剣術や体術、斥候術などが含まれる複雑なスキルだ。鑑定のレベルが上がってスキルの成長条件が参照できるようになってわかったことだが、まず普通に手裏剣を投擲しただけでは火遁や土遁は習得できないらしい。俺は先にファイアや土壌改良を覚えていたから、一定の投擲実績で解除されたということだ。同様に、レベルを上げて新しい忍術を習得するためには、あらゆるスキルを複合的に修めなければならない。しかし逆に言えば、あらゆるスキルを複合的に習得すれば忍術も効率よく上がるわけで、一度忍術を取ってしまえば、他のスキルを上げるついでに重複加算されるという側面もある。まさに領地経営、従者、魔術師と複雑な経歴を歩み、悪い言い方をすると器用貧乏なベルント様のためにあるようなスキルだ。
しかももう一つ、重大な発見があった。
忍術スキルは、「なりきればなりきるほどポイント加算がエグい」ということだ。
遅れてきた厨二びょ……いや、凝り性のベルント様は、タブレットで忍者キャラにハマった結果、次々となりきりアイテムを投入していった。まずアルミで自家製の日本刀もどきを作り、普段着も黒に統一。その上黒いフードを調達して、どこからどう見ても不審者な格好で投擲や素振りの練習を繰り返す。ディートリント様は眉をひそめていたが、彼を鑑定しているとポイントが爆速で伸びていることに気がついた。そしてそれは、他のスキルにも当てはまることがわかったのだ。
外見から入るという言葉がある。それは本当なのかもしれない。平民の中にも武術スキルを持つ者がいるが、やはり本職の傭兵や騎士の方が往々にしてレベルが高いものだ。それはもちろん、専業の軍人の方がレベルを上げやすいだろうが、さらになりきりポイント加算というブーストがあるのなら納得だ。
今ベルント様がシーサーペントをつぶさに調べているのは、一撃必殺、いわゆるクリティカルを狙うためだ。忍者は戦闘職ではなく、どちらかというと諜報、撹乱、暗殺に特化している。モンスターの解剖もまた、スキルポイント加算の対象なのだ。あっちで軍人さんたちにちやほやされて、すっかり機嫌を直してニコニコしているお爺様。しかし将来的に大成するのは、ベルント様の方かもしれない。
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