第119話 試し斬り

 それにしても、チョコとコーヒーは量産が面倒臭い。いっそクリーン村かどっかに生産拠点を築いて、労働者を雇い入れようかとも思ったけど、ツボ農法のように簡単にいかないのがネックだ。一番面倒臭いのは、中の豆だけ取り出すところか。


 俺ならインベントリの中で一発ソートできる。そしてレベル5の空間収納ならば、範囲収納で同じことができる。問題は、全属性レベル5という猛者が俺以外に見当たらないことだ。というわけで、しばらくは一人で細々と内職するしかない。まあ、栽培や収穫は言わずもがな、乾燥や破砕、焙煎なども全部スキルを応用すれば簡単にできるから、どうってことはないんだけど。


「ショコラーデ、早く量産してね♡」


「アナ、まずは供給を絞らなければ。焦りは禁物ですわよ?」


 増産をせっつくディアナ王妃を、お母様のギルベルタ様がたしなめる。ショコラーデは目下「淑女のための甘い媚薬」として、少量ずつ上客に流す作戦を取っている。さすがギルベルタ様、ガメツ……商魂たくましい。


 今のところ、ドイブラーでは能力の高い若者を選別し、魔術コースと騎士コースに振り分けてある。このうち魔術コースの生贄……才能ある若者たちは、いずれ王都で文官として活躍するだろう。中でも真面目に魔術スキルを伸ばすエリートは、そのうち俺たちが抱き込んでチョコとコーヒーの生産者にしようと企んでいる。


「うふふ、これで天辺てっぺん獲ったも同然よ」


「やぁだお母様、わっるぅい♡」


 あっれぇ。この母娘おやこ、こんなに黒かったっけ。




 そんなこんなで暇にしている俺たち、中でも一番退屈しているのがお爺様だ。


「はようクラウス! お前ばかりクラーケンを倒してズルいぞい!」


 地団駄踏んで催促する58歳児。彼は試作品の刀で試し切りしたくてウズウズしている。秋津のイ=ソノ親方には、お祖父様用の太刀、ベルント様用の打刀うちがたなと脇差を打ってもらっている。どっちも見事な逸品だ。実戦に使うのはもったいない、なんなら博物館か美術館にでも飾っておきたいほど。


 というわけで、俺は練習がてら刀を打ってみた。鍛治はデルブリュックで習得したきり、ほとんどスキルを伸ばす時間がなかったが、先日魔力媒体の研磨でバカみたいにレベルが上がった。もちろん、親方がこれまで磨いてきた熟練の技には及ばないだろうが、それもこれも練習しなければ始まらない。幸い、俺には鑑定とアカシックレコードがある。重心の調整なんかはスキルがどうにかしてくれるだろう。


 と思って打った刀だったが。




名称 雷鳴の太刀

種別 オリハルコン刀

材質 オリハルコン

攻撃力 300

状態 良好


・雷属性

・魔族、アンデッドに攻撃力五倍

・自動修復

・不壊




名称 宵闇刀

種別 魔鉄刀

材質 魔鉄

攻撃力 200

状態 良好


・闇属性

・自動修復




名称 宵闇の脇差

種別 魔鉄刀

材質 魔鉄

攻撃力 100

状態 良好


・闇属性

・自動修復




 練習用だったのに、親方の玉鋼の刀よりも強くなってしまった。欲をかいて完成後にオリハルコンと魔鉄に錬金したのが失敗だった。


「むほぉ。ワシのこの雷鳴の太刀の美しさを見よ!」


「ククク。宵闇に忍ぶ刀……」


 なお、属性の指定と命名は彼らである。


「バカなんですの?! ねえ、あれほど言ったのに、バカなんですの?!」


 すぱこーん、すぱこーん、すぱこーん。


「まぁまぁディー、僕たちだけで狩りに行くときだけ使うってことで、ね?」


 ちょっとした出来心だったのに、こってり絞られた。まあ、本題は試し斬りとレベル上げだ。あまり人目につかない魔物の出没地域に向けて、レッツらゴー。

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