第115話 華京へ帰還

 翼竜の里を出て三日。俺たちは、ようやく華京ホアキンの都へと戻ってきた。テイムした翼竜はみんな若い。レベルが低くMPも少ないので、無理せず少しずつ都を目指したというわけだ。


 若手の中から推薦されただけあって、五頭ともみな優秀だった。


「キュイ(見えてまいりましたわ、聖母様)」


 中でもディートリント様付きのツィイーは紅一点、しっかり者のお姉ちゃんといった感じで、群れのリーダーを務めている。お爺様の翼竜はブルース、アレクシス様はジェット、ベルント様はユン、俺のはサモハン。オスの翼竜はみんなシュッとして無口だ。俺のサモハン以外。


「キュイキュイ〜(ねぇねぇあるじ、バナナまだ〜?)」


「お前さぁ……」


 コイツは下手したらちゃんと飛べるのかと心配になるくらいのぽっちゃりさんなのだ。だから俺担当になったのだが、意外にも身軽で飛行能力も申し分ないらしい。


「キュイ!(そういえばさぁ、都には美味いモンがたくさんあるんだよね?)」


「黙れポンコツ」


 そう。俺たちは意思疎通が可能になった。先導する武官のように、里の中にもある程度進化して竜語を話せる個体もいるが、ほとんどみんなキュイキュイ言ってる。この若者たちもそうだ。だけど、翼竜と契約した途端、


  「翼竜をテイムしました」


  「翼竜語を習得しました。意思疎通が可能となりました」


 ってメッセージがポップした。テイムすごいな。広志殿下はキー坊の意思を的確に汲み取っていたが、あの「ギチギチ」でコミュニケーションが図れているのかと思うと感慨深い。


 しかしこのサモハンがおしゃべりな分、いいこともあった。彼らはみんなだいたい二十〜三十歳。人間より少し長生きだから、ちょうど貴族学園高等部、日本でいう中学生くらい。


 翼竜は自力での攻撃力に乏しいため、他の竜族と契約して里の外に出て、一人前になるらしい。皇帝が百匹ボコると言ってたけどあれは誇張も入ってて、「強い翼竜を従えようと思ったら相応の腕試しが必要」ってことなんだそうだ。確かに皇帝たちの翼竜は立派な体躯をしていて、二人乗りが可能だった。ああいう個体は、何度か里の外に出て修行した立派な大人なんだって。


 俺がずっと疑問に思ってた、一方的にボコられて契約結ぶのって嫌じゃないのってことなんだけど、サモハンはつぶらな瞳を輝かせて「みんな強い奴と戦いたいに決まってる!」と断言した。なんとお互い同意の上での模擬戦では、相手の命まで取らずともちゃんと経験が積めるのだそうで——そういえば、デルブリュックの兵士たちも必ずしも魔物討伐ばかりしていたわけじゃないけど、レベルはそこそこあったと思う。そうか、安全な経験値稼ぎってことなのか。


 しかも格上と戦えば、結構な経験値が手に入る。それはクラーケンと戦ってすごく実感している。この世界は魔物を倒せば一定の経験値が入るんじゃなくて、相手とのレベル差によってレートが変わるタイプのシステムらしい。道理で、お爺様のブートキャンプが人気なわけだ。彼は結構なレベルだからな。


「キュイ!(強いオスはモテるからね!いっぱい強い奴と戦って、俺をモッテモテにしてね?)」


「えっ」


 そうなのだ。サモハンが俺を選んだ理由は、この中で俺が一番弱そうだから。翼竜と契約を結ぶと、騎乗して戦闘した場合に経験値が按分あんぶんされるらしい。だからみんな強い奴に喜んで従うんだが、コイツは強い群れの中で一番弱そうな俺を狙って、高レートの経験値が得られることを期待しているらしい。


「キュイ〜(都には可愛い子ちゃんがいるかな〜。俺、優しい子がタイプ)」


 ワクワクしているところ残念だが、クラーケンをソロ討伐したところ、俺はこのパーティーでブッチギリの高レベルに躍り出てしまった。しかし中坊の夢を壊してはいけない。俺は口をつぐんだまま、華京に降り立った。


✳︎✳︎✳︎


名前が思いつかず、適当に付けました。

ファンの皆様本当にごめんなさい。

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