第116話 辞去
俺たちは、早々に華京を辞去した。図書館の
「
ディートリント様の一喝で鎮火した。事の起こりは、しばらく前に
「
皇后はじめ、
「ここ
「入荷するたびに龍眼の豪商に買い占められ、
「製品はいくらでも買いまする! あのプラチナ会員だけが受けられる極秘の美容マッサージを、是非この妾にも!」
買い占めか。まぁありそうなことだ。そして、供給が限られるからこそ、価値も高まるというもの。商売としては正しい。しかし、間に入った転売ヤーだけが儲かるのもちょっとな。しばらく彼女らの涙の訴えを聞いていたディートリント様はおっしゃった。
「あなたたち。そんなにマッサージを受けたいの?」
「「「それはもちろんです姐姐!!!」」」
「先に言っておきますわ。後悔しても知りませんわよ?」
「あべべべべべべ!!!」
「おぎいいいいいい!!!」
「む、むほおおおおお!!!」
その日、厳重に人払いされた後宮ではあらぬ叫び声が響き渡ったという。HP《せいめいりょく》と
というわけで。
「あなたたち。まさか私たちの出発を引き止めようとか、そんなこと考えてませんわよね?」
「いや伯爵夫人。まだまだ挨拶してぇ
「そうですぞ
「して、麗しのご主人はいずこにおいでですかな」
「「「じゃかぁしィわおんどれら!!!」」」
どごっ。ぼすっ。ぐしゃっ。
引き止めようとする皇帝たちに、背後から皇后様たちが助走をつけて襲いかかる。すごい、龍気って使いこなすと腕だけとか脚だけとかドラゴンになるんだ。鈍い音に、飛び散る血飛沫。そして柱をバキバキ折りつつ吹っ飛ぶジャッキーたち。——あっれぇ。彼女らが大乱闘に加わったら、俺ら負けてたんじゃね?
「「「姐姐、どうぞ行ってらっしゃいやし!!!」」」
皇后様たちが衣装を整え、満面の笑みだ。しかしちょっと目が血走っている。
「姐姐を引き止めるなんてとんでもない!」
「ですが、いつでも華京に足をお運びくださいましね?」
「私ども竜族は姐姐の永遠なる
まるで壁画の天女のような、迫力のある美人たち。だけどそこはかとないバイオレンス臭とジャンキー感。俺たちはなるべく目を合わせないようにして、宮殿の前の広場から飛び立った。いろんな竜族が総出でお見送りしてくれてる。怖い。今後、あんまり足を向けたくない。
「だから言いましたのに。後悔しても知りませんわよって」
ディートリント様は、済ました顔でツィイーの手綱を操る。アロイス様もご機嫌だ。果たしてこれで良かったのだろうか。
もちろんその後は、馬鹿正直に大陸を横切ってコルネリウスを目指したりしない。俺たちは適当な山地に降り立って、周囲に
転移陣はいくつか作ってある。粘土板の裏表に魔法陣を刻み、真ん中からスライスしてアダマンタイトに錬金。これを転移拠点の壁に貼り付け、ついでに周りもアダマンタイトにしておけば安心。
「アダマンタイトが……安いのう……」
「お父様、今更ですわ」
お爺様に遠い目をされたら負けな気がするが、今は考えないでおこう。
俺たちが若い小型な翼竜を選んだのには訳がある。そう。レベル5の転移陣、つまり一辺あたり5.5メートル弱のエレベーターサイズに収まらないと、転移できないからだ。
「はい、小さく丸まって〜」
「キュキュー!(キツいです!)」
申し訳ないが、俺の闇属性レベルが上がって転移陣の容量が大きくなるまで我慢してもらわねば。さあ、みんなでコルネリウスの辺境、本家テラスハウスへ転移だ。
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