第109話 勝負の後
多分面倒臭い事になる。そう思ったが、俺がやらねばならなかった。なんせみんな妻帯者、もしくは予定者だからな。あの児ポ野郎みたいに絡まれたら困る。しかし、
「兄貴ィ!」
なんか皇帝、俺の舎弟になったようだ。なぜ。
「恐れながら黄龍陛下、私は納得参りませぬ!」
さっきまで大人しかった侍従が気色ばんでいる。俺も納得いかない。
「うるせぇ、どんな手段でも負けは負けだ! 男に二言はねェ。恥かかせんな!」
「いや、恥も何も、一国の
「なんだよ兄貴ィ、水臭いじゃねェか!」
馴れ馴れしく背中をバシバシ叩くのはやめろ。地味に痛い。
結局、納得できない侍従さんとも手合わせすることになった。こっちは体術縛りだから安心だ。とりあえず、合気道で転がしておく。すると、
「兄貴! ナマ言ってすいやせんでした!」
舎弟が増えた。てか、さっきまでシゴデキな侍従っぽかったじゃん。急にヤンチャ風味になるのはなんなんだ。彼らの正装やクンフースーツには優雅な刺繍が施されているが、中身の口調がああだとスカジャンみたいに見えてくる。
しかし、納得行かないのは彼だけじゃない。その場にいた他の侍従が急いで他のお偉いさんを呼んできた。
「ふむ、棒術ならワシに任せよ」
「御老公、私にも」
俺の対戦を見ていたお爺様たちがしゃしゃり出る。エルフみたいに求婚されないとわかれば、戦う気満々だ。
「小さいの、お主が妖術を使うというのはまことか」
今度は扇を持った軍師みたいなヤツまで現れた。
「おっと、君の相手は僕だ。——クラウス、下がって」
アレクシス様が俺を背中に庇う。俺も魔法はそこそこ使えるけどドカンとブッパするばかりで、プレイヤースキルというか実戦経験はアレクシス様には遠く及ばない。こっちはお任せした。
結果、大乱闘ドラゴンブラザーズが勃発。吹っ飛ぶ筋肉、轟く魔法。まぁ、大体デルブリュックの日常と同じだ。しかし流石はタフな竜人たち、大技を食らってもピンピンして嬉しそう。「兄貴ィ、もう一回!」とかいいながら、再び試合待ちの列に並んでいる。まるでフリスビー待ちの犬のようだ。
そのうち、騒ぎを聞きつけた龍眼の役人たちが駆けつけて、皇帝御一行を止めにかかった。彼らは既にお爺様たちの信者と化している。そして最後はみんなで手を繋ぎ、バンザイして「ビクトリィ!!!」と叫んでいた。俺は一体、なにを見せられているんだろう。
「いやぁ、話の分かる御仁たちじゃのう!」
大乱闘の後は、謎の酒盛り大会。お爺様もベルント様も、痣だらけのまま酒を酌み交わしている。腕をクロスしてジョッキでやるのがデルブリュック流だが、龍華の小さい盃でやるものだから、宴会場の床が酒でびちょびちょだ。
酒飲んで馬鹿騒ぎというのは、デルブリュックの
俺はお子ちゃまなので、勢いよく飲んだくれるオッサンたちを尻目に、すみっこのほうでちまちまとお茶を飲んでいる。桃まんや胡麻団子が美味い。酒があまり得意じゃないアレクシス様も、こっちに避難中だ。
「それにしても
「いや、僕はそんな」
軍師みたいな人もこっちに来て、アレクシス様を褒めたたえる。アレクシス様の凄いところは、魔法の練度と緻密な制御だ。というのもこの人、あんまりレベル高くないんだよな。冒険者レベルっていうか、モンスターを倒すと上がる方のレベルね。これは、軍人として戦役に駆り出されても、出来るだけ相手を殺傷しないように立ち回ったり、味方のサポートに徹していたことを表す。だけど一方で、魔法のスキルレベルは半端ない。純粋に魔法が好きで、ひたすら訓練と研究を繰り返していたのが分かる。
さっきの魔法戦もそうだった。やたら好戦的に仕掛けてくる軍師を相手に、周りで肉弾戦をやってる人を気遣いながら、最小限のダメージで降参させる戦い方。俺が対戦してたら、軍師どころか訓練場まで木っ端微塵だっただろう。本当の英雄ってこういう奴だと思うんだよな。イケメンだし。
しかし。
「その超絶技巧もさることながら、秀麗な面持ち、氷のような瞳。かと思えば、白い首筋、折れてしまいそうな柳腰。なんと男を惑わす妖艶さだ。たまらぬ……」
「ヒッ!」
そうだった。アレクシス様は、竜人のオスに異様に人気なのだった。ハァハァと酒臭い息でにじり寄るオッサンの背後に周り、延髄に手刀を当てる。やれやれ、アレクシス様の護衛は俺が務めるしかなさそうだ。
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