第107話 テイムスキル

 さて、本日の本題はこちらだ。


「テイムスキルとな」


 そう。俺の本来の目的は、このテイムスキルの取得。彼らに協力するためには、機動力が必要だ。毎回広志親王アンドキー坊をお借りするわけにもいかないし、自前の船では迅速な魔王捜索は不可能だ、という理屈で。もちろん、転移陣もびゅんびゅんも明かさない。


 転移陣は、取得した当初からそういう名前が付いていたから、もしかしたらエルフも存在を知っているかもしれない。しかしびゅんびゅんはアロイス様が名付けられた。ということは、未発見のスキルコンボということになる。同化アシミレーションで飛ぶのと違って燃費もいいし、船体ごと高速運行できる。今のところ、俺たちだけの切り札だ。


「しかしのう……そう簡単に教えてはやれんのじゃ……」


 寿奈内親王は大使と顔を見合わせてから、困ったように漏らした。




 教えてもらった仕組みは、実に単純。


「同一種の生物を百匹手懐ける、ですか」


「うむ。スキル自体は単純なもんなんじゃ」


 言われてみれば確かに、同じ動物を百匹も手懐ければ、従順に言うことを聞かせられそうな気がする。牧場主とか。なんだ、そんなことだったのか。しかし何が難しいんだ?


 ——それは、機動力に足る生物の確保だった。


 最も容易でポピュラーなのが、フェベ魔導伯の使役していた鳩だ。あれは飛行能力もそこそこ、人慣れしている個体も少なくなく、数を集めさえすれば短距離飛行は不可能ではない。もっと強い鳥類もいるにはいるが、手懐けるのと数を集めるのが難しいとのこと。じゃあ違う種類の鳥の混合編成となると、食物連鎖が起こったり、意思疎通にそれぞれMPを消費して実用的ではないらしい。ちなみに、翼竜ワイバーンは竜人族の管轄。彼らは上位個体の竜のいうことしか聞かない。現状、最も優れているのが秋津の蟲力飛行船なのだそうだ。


 そして最も肝心なのが、あの巨大トンボをどう確保するかなんだが——


「研究所に送るんじゃ」


「はっ?」


「じゃから、ショーキド博士の研究室に送って、金平糖と交換するんじゃよ」


 誰、そのショーキドさんって。そしてどっから出てきた、謎の金平糖。


「かつて迷い人サトシが申した。鯉の王を百体従えたとき、龍神が現れるとな」


「彼が天皇家の祖となったんだよ」


 そんな仕組み、聞きたくなかった。ちなみに蟲力飛行船を牽引する特殊個体、オニヤンマのムザンやウスバキトンボのキー坊などは、進化に進化を重ねてあの姿になったらしい。一体どれだけのトンボを犠牲にし、悪魔合体を重ねたのか。


 しかし彼らは進化を重ねるたびに、個としての能力も寿命も伸びるらしい。だから金平糖となったトンボたちも単なる犠牲などではなく、進化のいしずえとなったからこそ強い個体として生きられる。それは本能に適ったものなのだそうだ。逆にデメリットといえば、食料などの維持コストがバカにならないことと、制御するテイマーがいなくなれば単なる巨大昆虫怪獣になってしまうことだ。


 うん。今から万単位でトンボを集めるのは不可能だ。諦めよう。俺たちは、再びキー坊に連れられて龍眼ロンイェンまで送ってもらうことにした。翼竜の方を当たってみよう。




 と、思っていたのだ。その時は。


「ディートヘルム・フォン・デルブリュック、およびアレクシス・フォン・アルブレヒト。そしてその一行。我らはそなたらの訪問を歓迎する」


 龍眼に着陸した途端、役人が取り囲み、中から偉そうな人が現れた。広志殿下が最敬礼で応え、俺たちもそれに続く。しかし偉そうな人はそれを制し、お爺様とアレクシス様には対等な挨拶を促した。コイツ誰よ。


「名乗るのが遅れたな。朕が龍華ロンファ帝国皇帝、黄龍ホアンロンである」


 皇帝が出てきてこんにちは。なぜ。

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