第106話 魔王討伐作戦の全容

 翌日。


「魔王討伐について、もう少し詳しく話を伺いたいと」


 俺たちは、再びフィーレンス大使との会談に臨んだ。


「ふふっ、昨日ぶりだねハニー。私に会いたかったんだね」


「ねぇよ児ポ野郎」


 懲りない大使は、俺たちが協力の姿勢を取ったことに上機嫌だ。とりあえず、人間族ヒューマン以外の協力体制は、昨日聞いた通り。そして人間族で協力しているのは、ここ秋津。それからコルネリウスのある西大陸では、フェベ教授のいたウダール、そして聖教国にも駐在のエルフがいるらしい。他の大陸も、大体そんな感じ。なんせほとんどの国で出禁だからな。現状、小人族ハーフリングが主体になって諜報活動を行いつつ、各国に散らばったドワーフ族や竜人族がそれとなく探りを入れているそうだ。


 てか、エルフの監視とはなんなんだ。ほぼ手付かずじゃねぇか。


「あの、エルフ族の役割とは一体?」


「何を言っているんだい。魔王到来を星読みして、それを各種族に伝達しているだろう?」


「丸投げじゃねぇか」




 そして、今回最も聞き出したかったこととは。


「で、具体的に魔王を討伐する実行部隊というのは」


 そう。魔王討伐に勇者でも繰り出すつもりなら、先にそいつを抱き込んでしまえばいい。


「おお、よくぞ聞いてくれたね。とりあえず、一通り目星は付けてあるんだ。まずは南大陸の樹海を治める、炎の大祈祷師クレーメンス。それから東大陸の北の果て、ハーフドワーフの盾聖じゅんせいシェッティル。そして南西列島で名を轟かせる剣豪ディーデリヒ、最後に西大陸の聖教国の聖女、カンデラリアだ」


 四名の名が挙がった。それぞれ別大陸の人間か。事前に寝返らせるのは骨が折れそうだ。アレクシス様も難しい表情をして考え込んでいる。


「——ちょっと待ってください。剣豪ディーデリヒとは、もしかしてディーデリヒ・フォン・デルブリュックのことでは?」


「なんだい、君はもう知っているのかい?」


「あ、いえ……その方、既に故人ですが」


「なんだって?!」


 なんと、大使が討伐メンバー候補に挙げていた人物の一人は、ディートヘルムお爺様のお父上だった。そういえば、ナカジマ親方がしつこくスカウトした挙句、デルブリュックに居着いたって聞いたな。


「実は、私たち一行のディートヘルム様は、ディーデリヒ様のご嫡男でいらっしゃいまして」


「なんだい! 剣豪の子息がドラゴンスレイヤーだったのかい? それなら話が早い!」


 もう、人間って寿命が短すぎるんだよね、はっはっは、じゃない。情報が古すぎる。この分だと、他の候補の情報もかなり怪しいな。


「まあ、討伐パーティーについては心配ないよ。竜人族が控えているからね」


 彼らは強い相手がいたらワクワクする戦闘民族らしく、勇者枠のオーディションは毎回「天下一決定戦」として大賑わいなんだそうだ。なんとなく分かる。龍眼ロンイェンで散々ストリートファイトを見てきたからな。




 とりあえず、次の目標は決まった。勇者と目される人物に先回りして接触し、こちらの陣営に引き入れてしまうことだ。なんか魔王陣営に取り込まれる勇者っていうと人聞きが悪いが、俺は世界征服なんか目指してないから問題ない。


 大使から聞き出したのは、南大陸の祈祷師クレーメンス、東大陸のシェッティル、剣豪ディーデリヒ、聖教国の聖女、カンデラリア。このうちディーデリヒはお爺様のお父様で故人だからノーカン。そして補欠の竜人族も、お爺様の熱狂的なファンなのでノーカン。お爺様、地味に優秀だな。


 東大陸、南大陸には外交ルートも土地勘もないので、ひとまず後回し。まずは帝国を挟んでお隣のお隣、聖教国の聖女様にアタックすることとなった。なお、カンデラリア様は四代前の聖女様で、今代こんだいはカタリナ様とおっしゃるらしい。聖教国にも駐在のエルフがいるって聞いたが、ここの情報まで古いってどういうこと。

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