第30話 困った五人目
ムキムキオッサン改めお爺様は、その後俺を連れ回して、やれ槍だ、やれ斧だ、といろんな武器を仕込み出した。アレだ、最初「アレクシス様のオモチャ」として辺境から連れ出された俺を、ディートリント様が「わたくしのオモチャ」にして、それを今度は爺様が「ワシのオモチャ」にしているという、そんな感じだ。
以前、王都のアルブレヒト伯爵邸で
そうやって欲をかいたのが失敗だった。
爺様は、「こやつなかなか筋がいい」「ワシの最後の弟子にしてやろう」と言い出した。いやいや、俺はスキルを生やしたいだけで、別に脳筋になりたいわけではない。どっちかというとMPが多い方だし、魔法の方を研究して伸ばしたいのだが。
「ご隠居様は、ああなったらもう止められないよ…」
アレクシス様が、乾いた笑顔で何度目かの「もう止められない」を発した。この人の周りには暴走超特急しかいないのだろうか。隣で奥様のディートリント様、兄の現当主ディートフリート様が、うんうんと
今日は
かくして、ご隠居の爺様は、「俺たち」の5人目のメンバーとなった。
「なんじゃなんじゃ!スキルの取得方法や、成長具合が分かるなんて、ズル過ぎるぞい!」
ジジイ…いやお爺様は駄々っ子のように地団駄を踏んだ。イヤイヤ期か。そして、自分のステータスやスキルが今どうなっているのか、もう少しで上がりそうなスキルはないか、新しく獲得出来そうなスキルはないか、根掘り葉掘り訊ねて来た。
「ワシャまだまだ強くなるんじゃい!」
隠居して多少丸くなったと言われていた56歳児が、往年の闘気を
そんな喜びも束の間。往年の勢いを取り戻したご隠居勢が、現役と模擬戦をやりたいと言い出した。そうは言っても、世界でも屈指の練度と強度を誇るデルブリュックの戦士たち。現役世代は戸惑った。今更引退した先代たちを痛めつけるのも気が引けるし、適度なところで加減して、接待試合にして勝ちを譲るべきか。かといって、それではデルブリュックの名にケチがついてしまう。騎士団長をはじめ首脳陣が対応に苦慮する中、「いいから訓練場に出てこい」と言い出す
「ほほう、稽古をつけて欲しいのはお主じゃな」
いや、頼まれても困るし稽古も要らないんですけども、と顔に書いてある兵士、仕方なくご老公に相対すると、「はじめ」の合図と共に瞬殺。ご老公の初撃が、誰にも見えなかった。
ワッと湧き立つOB陣。そして何が起こったのか理解できかなった現役陣。気を失った兵士が担架で運ばれるのを見て、これではマズいということで、急遽エースを繰り出すことにした。
やおら始まるデルブリュック武闘会。師団長、副団長、団長など、現役最強クラスと
最後は現役最強ディートフリート様必殺の氷の魔法剣で、お爺様を辛くも破り、現役の面目は保たれた。お爺様は
「お前たち、よく精進しておる!これからも励めよ!」
ワッハッハ、とOBたちを連れて豪快に立ち去っていたが、後で地団駄を踏んで悔しがっていたらしい。安定の56歳イヤイヤ期である。
なお試合後、ご老公もディートフリート様もお互いに「アイツ絶対ワシ(俺)を殺す気だった」とボヤいていたという。俺はどっちかっていうと最初に喧嘩を売ったお爺様の方が悪いと思うが、
この即席武闘会を機に、現役世代に危機感が走り、ついにOB世代と合同の訓練が開催されるようになった。OB世代は内心「ワシらのアドバンテージが無くなってしまうぞい」と歯噛みをしたが、「ヨッシャヨッシャ、共に励もうぞ」と訓練を了承した。武士はやせ我慢するものなのである。そして訓練が終わってから、打倒現役を合言葉に、自主練に励むのであった。
現役世代は現役世代で、リタイア世代に負けてはいられない。打倒OBを合言葉に、遠征に出かけたり、基礎訓練を増やしたりして、さらに暑苦しさが増したという。
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