第29話 力こそパワー
前当主を倒してしまったハプニングはあったが、「力こそパワー」なデルブリュック一門だけあって、おおむね歓迎のムードをもって一族に迎えられた。元平民とはいえ、公爵家の支配領域出身であり、当主の妹のディートリント様の養子ということで、直接公爵家内の勢力争いに関与しない立場なのも幸いしたようだ。「面白い客分」扱いで、彼らのコミュニティに受け入れられた。
その後、子供たちだけのお茶会にも参加したが、たちまち「ご隠居様を倒すなんてスゲー」と囲まれてしまった。特に女の子が「私も強くなれるのか」とグイグイ来たのが驚いた。彼女らは彼女らで、「鉄扇術Lv1(—/20,000)」などという物騒なスキルを所持している。得物を見せてもらうと、その辺の剣よりもはるかに重くて殺傷力が高い。将来、デルブリュック一門の女性とだけは絶対に付き合うまいと決めた。
一方で、俺を遠巻きに見ていたのが、既に学園に通っている年上の子供たちである。おおかた、「今度ディー様の養子が来るから面倒を見てやってくれ」とでも言い含められたのだろうが、蓋を開ければ前当主を公衆の面前で赤子のようにあしらった猛者である。何の面倒を見ろというのか。
なんか気の毒なので、年長の学園生の集まる方に赴き、
「ディートリント様にお世話になっております、クラウス・フォン・アルブレヒトです。何も知らない若輩者ですので、色々とご教授いただきますよう、どうぞよろしくお願いします」
と挨拶しておいた。そして全員に向き直り、
「もしよろしければ、ご一緒に鍛錬をいかがですか」
と宣言したのだった。
鍛錬と言っても、そんな大袈裟なものではない。昔、木の的に石を当てて投擲術の練習をしていたが、その後面白い発見をしたのだ。
「いいですか。あの的に向けて、この球を投げてみてください」
俺が差し出したのは、ピンポン玉くらいの大きさのフェルトの玉である。もちろん、多少離れたところからフェルトの球を投げてみたところで、はるか手前に落下してしまい、誰も当てることができない。
だが俺は、「見ててくださいね」と言って、少し離れたところから、このフェルトで的の中心を捉えてみせた。
子供たちは鎮まり返っている。
俺が発見したのは、
パーティー会場で石を投げるのはマズいので、とりあえず丸く削った小さな木のブロックを手渡してみる。優れた体育教育を受けた子供たちは、すぐにコツをつかんで、的の端を捉えるようになった。数日中には投擲術を獲得するだろう。フェルトの方が早く上達すると告げると、みんな喜んでフェルト球を受け取って行った。遠巻きにしていた上級生にも、よかったらと名刺がわりに配っておいた。
多分お茶会ってこういうもんじゃないと思うんだけど、まずは顔を売ることには成功したと思う。
翌日、朝食をいただいていたところ、前当主のムキムキオッサンが血相を変えて飛び込んできた。
「お主!ワシを差し置いて、子供らに稽古をつけるとは何事だ!」
稽古と申しましても。ただフェルト玉を渡して的に向けて投げることを薦めただけですが、と答えると、「お主はその玉を的に当てたというではないか!ワシにも教えんか!」とおっしゃる。皆に配ったのと同じ、練習用に作っておいたフェルト玉と的を手渡したところ、「さっそく訓練じゃ!」と訓練場に連れ出された。朝食も食べさせてくれないの、
真冬の寒風吹き
オッサンは、強風の中でも良いところに投げる俺を見て、俄然闘志を燃やしている。鑑定してみると、元々投擲術はLv3(3,431,298/8,000,000)で持っているじゃないか。なら話が早い。
「御老公は、優れた投擲術をお持ちとお見受けします。武術も魔術も、基本の反復練習が技術を伸ばすことはご存じかと思いますが、投擲術の場合、投げにくいものを投げにくい場所で目標に向かって投げることが、著しい成長に繋がるようです」
投げにくいモン投げてりゃさっさとレベル上がるよ、と丁寧に説明してみると、
「ばっかモン!!!御老公ではない、お爺様じゃろが!」
とゲンコツをくれられた。解せぬ。
オッサン改めお爺様に、寒い屋外でフェルトを投げるのもいいけど、実は暖炉のある部屋で羽毛を投げるともっと難しいよ、と告げると、「それを早う言わんか!」と、腕を掴まれて連行された。そしてしばらくの間、前当主のプライベートな書斎で、枕から取り出した羽毛をキャッキャウフフと投げ合い、メイドさんにこってり絞られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます