第27話 タブレットモドキ
その後俺は、馬車馬のようにタブレットモドキを作ることになった。自分では興味ない作品でも、誰にどんな作品が刺さるか分からない。なんとなく覚えていた魔女っ子という単語でダウンロードした作品が国王に刺さるとか、誰が想像しただろうか。
なお、あの場ではちょっとした夫婦喧嘩になった。歌い踊るイケメンにときめく王妃に、国王が「お前は夫の前で他所の男に」と咎めたところ、王妃は「そんな幼女に鼻の下を伸ばして」と応戦する。ディートリント様が「それ全員女性ですわよ」とツッコミを入れると、その場の男性組が全員のけぞった。こんだけ厚化粧してるのに、なぜ分からないのか。一方、国王も美少女が気になったのではなく魔法技術が気になったのだ、こんなチンチクリンより君の方がずっと美しいに決まっている、とイチャイチャし始めて、俺たちはそそくさと退散した。そういうのは後でやってもらいたい。
ともあれ、これでしばらく王宮に出仕できない理由は理解してもらえただろう。とりあえず、俺たちが見終わったタブレットを置いて辞去した。後はあの1LDKで、タブレットの量産するだけだ。後の三人?量産したタブレットをいち早く見るために、一緒に1LDKに引きこもってますが、何か?
その後、タブレットは王宮を
そのうち、俺の覚えているコンテンツに限界がきた。そもそも、ほとんどの記憶が、何かきっかけがないと思い出せない、おぼろげなものなのだ。タイトルだけでも知ってる、思い出せる、というものでなければ、アカシックレコードからはダウンロードできない。念の為、タブレットは「保存用」「貸し出し用」「献上用」と、予備にあと5枚、合計8枚ずつ焼いてある。多すぎるんじゃないかと思うんだが、念には念を入れて、ということで、三人から懇願されたものだ。いや、みんな自分用に1枚ずつ取っておきたいだけだよね?とりあえず、半年くらいでタブレット作りから解放されることとなった。
辺境のタコ部屋、いや、自分用の1LDKから王都に戻った頃には、タブレットは貴族社会を一変していた。皆、王宮から一定の料金で貸し出されるタブレットを借りるために列をなし、社交界の話題はもっぱら大河ドラマであった。大河ドラマ、俺はまったく興味がなく、せがまれて苦し紛れにダウンロードしたものだが(無駄にたくさんあるので良い時間稼ぎになった)、これが貴族社会の価値観と非常にマッチしたらしい。さらに、時代劇の舞台となった中世の日本のような文化を持つ「
王宮は流出させるコンテンツを絞っており、タブレット賃貸業は、今のところは大河推しで運用しているようだ。大河は儒教思想が強く、国家転覆的な発想に至りにくいのが良いらしい。盗賊ものやヤクザものなどの反社会的なコンテンツや、明らかにオーバーテクノロジーで衝撃の強いコンテンツなどは、しばらく
後年、この大河ドラマがきっかけで、遠く秋津国と国交が結ばれ、秋津国へもタブレットが輸出(貸与)されることとなった。秋津国では、このタブレットが驚愕と熱狂的な歓迎でもって迎え入れられた。そして俺は、念願の短粒種のジャポニカ米を獲得することとなった。世の中何が幸いするか分からない。
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