第25話 拠点設営

「というわけで、ここにアレクシス様たちが滞在する家を建てようと思うんですけども」


 村人たちは、「じゃあ村の中心に建てたらええ」とか「この場所はどうだ」とか、口々に提案してくれるのだが、辺境で思い切りいろんな実験をしたいと思っているので、村の外れの裏山の向こう、人目につかない場所に建てることにする。村に来るたびに歓迎の宴とか大変だからね、と言うと、「んなこたぁねぇだ」と否定された。生活が豊かになって、村人は娯楽に飢えているのだ。都会から珍しい食べ物や酒が入ってくるなら、宴なんて毎日でも開きたいような勢いである。仮領主館が建ったら気軽に帰って来れるから、また定期的に宴を開こうと言うと、全員から歓声が挙がった。やはり珍しいもの目当てなようだ。


 村長が「狭いところですが」と俺たちを泊めようとするが、笑顔で辞去して、馬車とテントで休むことにする。ここにも道の駅を建設しておこう。俺が楽々と道の駅を建設すると、旅のお供たちは慣れた手つきで荷解きをして宿泊の準備をしている。村人はその様子をポカーンと見ていたが、次第に驚嘆の声に変わり、「うちの納屋も建ててくれ」ということになった。喜んで引き受けようかと思ったところ、ディートリント様に鬼の形相で止められた。こんな辺境で頑丈な家屋がたくさん建っていたら、怪しいなんてもんじゃないだろう、ということだそうだ。最初は簡素な納屋から、怪しまれないように少しずつ建て替えて行くということで、話がまとまった。


 宴は解散、村人は三々五々家々に帰り、俺たちはそれぞれ馬車(から繋がっている王都のやしき)と、道の駅のテントで休むことになった。




 翌日、村の奥を分け入り、小高い丘を超えた向こう側に、こちら側の拠点を建てることになった。魔物や熊さえ出なければ、小川が流れてのどかなところである。山の裏側、小川のほとりの切り立った崖の中腹を切り取って整地。有り余るMPで、周りの土地は硬化しておいた。そして、集めた土砂を使って、王都の邸と同じものを、一気に建設する。


 土魔法のロックウォールを、邸と同じ形になるように展開。これはこの数年、王都でミニチュアを何度も何度も試作して、練習を重ねておいたものだ。石組みの家の建築様式など知らないから、外側だけそれっぽく、内側には後から錬金で鉄骨を入れておく。そして土壌改良スキルでモルタルやら木組(に見える岩)やら、本物に似せて変質硬化、完成。さすがに扉は木で作らないといけないので、前もって玄関の扉だけは事前に複製しておいて、アイテムボックスに入れて持ち運んできた。各部屋のドアや調度品はまた後で。


 大体5分くらいで、再現を終了。我ながらなかなかの出来だと思う。転移陣を適宜設置して、魔力で繋いだら、はい、王都と行き来できる拠点の完成である。


 自信満々で振り返ると、アレクシス様が乾いた笑いを浮かべていた。そしてベルント様に大目玉を食らった。窓なんかは本物よりも出来が良いのに。解せぬ。




 とりあえず、崖に立てた別邸は闇魔法のダークネスウォールで認識阻害。近寄らなければ、そこに邸宅があるとは分からないだろう。これで好きな時に辺境まで転移して、好き放題にスキルが生やせる。


 小一時間で帰って来た俺たちを、村人は「下見に行ってきたんだな」と認識したようだ。よかったらもう一泊、という申し出を有り難く断り、さっさと辞去する。拠点が置けたら、もう旅をする必要はない。これからは、「街道から村の裏手を回って来た」ということで、いつでも村に出没可能である。帰り道は調子に乗って、馬車から山の邸宅に転移陣を繋いで、ずっと拠点の整備をしていた。別にキッチンや使用人部屋まで忠実に再現する必要はないのだが、そこは何となくこだわってしまう。


 再現といえば、せっかくだから前世の生活を再現する別宅を建ててもいいな。はっきりとは思い出せないが、1LDKの一人暮らしの部屋ってこんな感じだったかな、というのがぼんやりと頭に浮かぶ。簡素な水回りに、パイプベッドとローテーブル。そしてパソコン…ああそうだ。この「機械」で俺は、この世界に似た物語を「プレイ」したことがあるんだ。俺の記憶は、何かのきっかけがないと何も思い出せないけど、思い出せば思い出すほど、懐かしいような他人事のような、不思議な感覚になる。


 今のところ、パソコンは再現できそうにないが、他のものはそれっぽく再現できるかもしれない。王都の邸を再現出来た時もワクワクしたが、ヤバい、それ以上かもしれない。欲しかったガンプラも飾ろう。ガンプラが何なのかは思い出せないが、複雑な甲冑のゴーレムのような置き物。そうそう、こんな感じのヤツだった。


 馬車の中にガンプラを持ち帰ると、またディートリント様に叱られ、アレクシス様に喜ばれ、そしてベルント様に「俺にも一つ」と言われた。やっぱ男はこういうの好きだよな。そしてその後、王宮にも同じものを献上するように、お達しが来るのだった。

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