第22話 大目玉
「あなたねぇ!そんなぽっかり開いた異次元の穴に、自分の手や体を入れるバカがいますか!」
「それで体が欠損したり命を落としたりしたらどうするつもりだったんだ!」
「まぁまぁ二人とも、無事だったんだし」
「「アレク(シス様)は黙ってて(ください!)」」
大目玉である。無事だったんだからいいじゃないか。ともかく、アイテムボックスと転移陣はこうして完成披露されたのである。
その後は、
そして使い勝手の面では、なんと言ってもMPの消費が激しい。生活魔法は1分に1MPの消費なので、6属性合わせて1分6MPで開くことができるが、各属性レベル1になると10×6で60MP、レベル2は20×6で120MP、レベル3は40×6で240MP消費する。国でトップレベルの天才魔術師のアレクシス様の最大MPが2000ちょっとだから、あまり実用的とは言えない。生活魔法で起動する、直径20センチの大きさの転移陣を、物を届けたり通信に使うのが、一番役に立つだろう。
ともかく、レベル3の転移陣を持って、故郷の村と接続してみたい。今の俺のやりたいことは、それに尽きる。ディートリント様はため息をつきながら、「いいわ、領地替えの手続きを急ぎましょう」と約束してくださった。
それから2ヶ月。俺は再び、馬車の上の旅人となった。たった数年の間だが、懐かしい気がする。このクラウスという少年の人生でいえば、およそ半分くらい、物心ついてからはほとんどの時間を、王都で過ごしたことになる。みんな元気だろうか。妹なんか絶対俺のこと覚えてないよな。
王都行きの馬車の中では、土魔法から錬金術祭りをしていたが、帰りの馬車の中では、映像の記録が出来ないか試している。一部高位貴族の中でしか知られていないが、映像や画像や音声を記録する、記憶水晶という媒体があるらしい。これって自分で作れないだろうか、と思っていたのだ。
ディートリント様に「映像を記録するものはないですか」と聞いたところ、その魔力水晶のことを教えてもらった。実物なんて手に入らないですよね、というと、小さいのを一つ貸してくださった。実物があれば占めたものだ。鑑定のレベルが上がって、今や組成も作成方法も調べることができる。
調べて見ると、記憶水晶とは名ばかりで、実際はコランダムであった。赤い色のものはルビー、その他の色はサファイアと呼ばれる鉱物である。錬金魔法で様々な色の宝石状コランダムを生成して調べてみたが、不純物のない純粋な無色透明のものが、一番録音録画に適していた。途中、クロムが混ざってルビーとなったものや、他の金属イオンが混ざって有色のサファイアになったものなどは、全てディートリント様に差し上げた。ディートリント様はプルプルしていた。家宝のサファイアよりも大きく質が良かったらしい。人造でごめんよ。
さて、その透明なサファイア、サファイアグラスというかサファイアクリスタルというか、それを使って動画を撮影する。方法は、魔力を込めて握ること。握っている間に見聞きしたものが、そのまま石に記録される。記録される長さは、石の大きさに関わらず、大体1時間程度。容量をオーバーすると、魔力が入って行かなくなり、終了。再生は、同じくクリスタルに魔力を注ぐと、一方向に向かって光が出てくるから、その光を平らなものに当てて見る。プロジェクターみたいな感じだ。音声はクリスタル本体から聞こえてくる。なお、石が大きいほど、魔力の込め具合により、再生した時の光量や音量を大きく出来る。
これまで記憶水晶は、宝石商によって水晶か魔力水晶か区別されていたらしいが、同じ透明の宝石なので、魔術師たちは水晶をどうにかして記憶水晶に変えることができないか、魔力を注いでみたり、パワースポットに設置してみたりして、いろいろ試していたそうだ。「これは全然別の鉱物だよ」と教えてあげたいところだが、作り方を教えるわけにはいかない。錬金術が誰でも使えるようになってしまったら、経済に大きな混乱が起こるだろう。しばらくは、自分達で使う分だけ作って、個人的に楽しむようにしよう。
鼻歌を歌いながら、記憶水晶を量産して、作ったそばから車窓の景色を録画するのを、同行したアレクシス様もベルント様もディートリント様も、白い目で見守っていた。
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