第21話 新しい魔法陣

 さて、このたび帰省について言及したのは訳がある。この2年の間に、新しいスキルや新しい魔法陣を開発したのだが、その中に空間魔法があったのだ。


 以前、脳汁のスキルを改変する時、光魔法と闇魔法を同時に入れようとすると、どうも反発するようで相容れなかった。これらを魔法陣で同時に行使したらどうなるだろうと思い、あれこれ試してみた。大体は、ライトの後にダークネスが発動したり、その逆だったり、もしくは両者がチカチカと入れ替わるように発動したのだが、


ライト ← ココ○ → ダークネス


 こう書いて○印に魔力を注いだところ、このパターンだけ何も起きなかった。


 これは、魔法陣の致命的なミスなのか、それとも両者が同時に発動して拮抗しているのか判断がつかなかったため、基本の6属性の生活魔法で


      ライト

       ↑

ファイア ← コ コ → ソイル

ウィンド ←  ○  → ウォーター

       ↓

     ダークネス


 こんなふうに書いてみたところ、なんと中心の○のところにぽっかりと暗い穴が出現した。


「空間魔法のスキルを取得しました」


 魔法陣を鑑定すると、「アイテムボックス」と書いてあった。空間魔法のスキルを取得したと言っても、その後に具体的スキルのログは残っていなかったので、ひとまずはアイテムボックスの魔法陣を作るのに成功した、アイテムボックスの魔法陣を作成できるようになった、ということだろうか。




 アイテムボックスの入り口は、直径20センチ。中はおよそ1立方メートルほどの体積のものを格納できる。開いた状態を維持する間、生活魔法の6つ全てを使用するだけのMPを消費する。魔法陣が破壊された場合、格納されていたものがその場に排出されて散乱する。いろいろ実験して、これだけのことが分かった。


 では、一つの木の板の両面に、アイテムボックスを刻んでみたらどうだろうか。慎重に魔法陣となる文字を書き込み、○の位置は裏表で同じ場所になるようにする。そうして、板の両側から○印に魔力を注いだところ、なんと両側を貫通する穴が空いた。手を入れてみると、反対側からニョキッと生えてくる。そして魔力を遮断すると、穴は閉じて、手は入れた方から外に押し出される。今度は手ではなくて、代わりにペンを穴に投げ入れてみると、普通に穴の向こう側へと飛んでいった。


 これは、ひょっとして、ひょっとするのではないか。


 次は分厚い木の板を用意して、同じように穴が開くのを確認する。今度はその木の板を、真ん中から風魔法でうまくスライスして、2枚におろす。すると、アイテムボックスの魔法陣が描かれた2枚の板が出来る。この片方魔法陣の○印に、魔力を注ぐと、両方の魔法陣が作動し、20センチの暗い穴が出現した。


 試しに、片方に定規を差し込んでみると、もう一つの魔法陣から定規の先がニュッと出てきた。成功である。鑑定してみると、「転移陣」と出た。ほらね!




 さてこの転移陣、入口が20センチなので、小さいものしか通過させることはできない。もし人を通過させるとなると、最低直径40センチ、大人だともっと大きなものが必要だ。ならば、魔法陣の中のスキルを、生活魔法レベルではなくて、属性魔法に置き換えればいいんじゃないだろうか。


         ライトボール

           ↑

ファイアボール  ← コ コ → 土壌改良

ウィンドカッター ←  ○  → ウォーターボール

           ↓

          カーム


 各属性のレベル1のスキルを当てはめてみたところ、俺の希望通り、穴の直径が30センチほどになった。このくらいの穴があれば、俺ならば通過できる。試しに通り抜けてみると、ちゃんともう一つの魔法陣から出て来られた。魔力の消費量は、それぞれレベル1のスキルを6個展開しているのと同じであった。


 レベル2ならばどうだろうか。


         ライトランス

           ↑

ファイアランス ← コ コ → ロックパイル

ウィンドランス ←  ○  → ウォーターランス

           ↓

         ダークランス


 直径40センチの穴が開いた。大人でも、小柄な人ならばなんとか通り抜けられるのではないだろうか。ただ、全基本属性をレベル2で持ってる人ってそういないだろうな、と思う。消費魔力量も結構なものだし、毎分MP20×6属性のMP120の消費となると、ベルント様なら1分、豊富な魔力量を誇るアレクシス様でも8分が限界だ。俺は…ステータスが分かった時、彼らの毒騒動でうやむやになったが、2000万オーバーのMPがあることが判明して、後からツッコミを受けることになったのだが…消費量よりも自然回復量の方が上回るので、正直ずーーーっと開いてても問題ない。


 そしてレベル3。


         ライトウォール

            ↑

ファイアウォール ← コ コ → ロックウォール

ウィンドウォール ←  ○  → ウォーターウォール

            ↓

         ダークウォール


 思惑通り、直径50センチくらいの穴になった。もうちょっと大きいかもしれない。これなら、よほどの巨漢でない限り、通り抜けることができるだろう。これこれ、この転移陣を持って、故郷の村に設置したかったのだ。今回は、そのための「帰省したいんですけど」という申し出となった。ディートリント様からは、「じゃあ領地あげるわよ」って言われてビビっているところなのだが。




「と、いうわけで、この魔法陣を設置してみたいと思うんですが」


 満を持して、お披露目をしてみた。


 すると、一瞬時が止まったかと思うと、


「何考えてんだーーー!!!」


「馬鹿なの?!ねぇ、馬鹿なの?!」


 ベルント様とディートリント様に、烈火の如く怒られた。


 解せぬ。

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